どれほど偉大なタレントを揃え、優秀なコーチングスタッフに支えられたチームであっても、避けて通ることのできない道がある。
 不調という名の茨道である。
 好調時と同じように練習し、コンディションを保っていても、なぜか結果が、内容が伴わなくなってしまう。表面上は何一つ変わったところはないのに、試合になると違ったチームになってしまう。なぜそうなるのか。そのメカニズムを解明した者はいない。
 幸い、理由なく転落してしまう不調という茨の道は、これまた理由なく、突如として整備されたアスファルトに変わることもある。沈んで上がり、上がっては沈む。その幅をできるだけ小さなものにするために、世のコーチたちは知恵を絞っているといってもいい。

 ただ、ごく稀に、不調が不調で終わらないことがある。そして、偉大なチームにのみ、そうした現象は起こりうる。

 ここ数年、世界のサッカーをリードしてきたのは間違いなくバルセロナだった。スペイン代表のW杯優勝も、バルセロナの躍進があったから、と言っても過言ではない。世界の指導者たちも、バルサを信奉して同じスタイルを追求する者と、絶対的な敵とみなして秘策を練る者の2つに分かれた。今後数十年間、世界のサッカーはまずバルセロナを基準として語られ、研究されていくことになるだろう。ちょうど、クライフのアヤックスがそうだったように、である。

 だが、そのバルセロナはいま、グアルディオラ体制になってから最大の不調に陥っている。首位をいくRマドリードとの勝ち点差は10に開き、リーガ3連覇には限りなく赤に近い黄信号が点灯した。再開された欧州CLのレバークーゼン戦は、結果こそ勝利を収めたものの、その内容はといえば、ここ数年のバルサではありえないほど退屈なものだった。

 これは単なる不調なのか。それとも、アヤックスやミラン、Rマドリード……数多の伝説的チームが例外なく見舞われてきた“終わりの始まり”なのか。

 間違いなくいえるのは、就任当初はまず“メッシ頼み”と言われ、いつしかいわれなくなっていたグアルディオラのチームは、ここに来て再び、メッシがいなければなりたたないチームとなりつつある、ということである。マーケティングの専門家によると、世の中のブーム、流行は、7年で終わるものがほとんどだという。始まりから終わりまでで7年――バルサは、世の倣いに抗うことができるのだろうか。いままで誰もできなかったことが、できるのだろうか。

<この原稿は12年2月16日付『スポーツニッポン』に掲載されています>
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