NPBもアイランドリーグも各球団が2月1日に新チームを始動してから半月が経過した。今シーズン、リーグからは過去最多の7名が新たにNPBの門をくぐり、計23選手が1軍の檜舞台で活躍するべくキャンプで汗を流している。リーグの行方ともに、彼らの動向も気になるところだ。NPB入りというひとつの夢を叶えた選手たちは、新たなシーズンにどのように臨もうとしているのか? その今を追いかけた。
 暗闇で見つけた希望の光――上野啓輔

「スピードが全然出なくなっちゃったんですよね。昔のほうが絶対良かった……」
 昨夏の横須賀スタジアム。フューチャーズ(イースタンリーグ混成チーム)の一員としてアイランドリーグ選抜と対戦した上野啓輔は悩みのなかにいた。後輩たちにNPBでの成長をみせるつもりが3イニングで4安打を浴びて2失点。NPB入りに伴い、上野は香川にいた頃のフォームを変えていた。グラブを高々と上げてから投げおろす独特のスタイルは、ボールに勢いがつくが、ランナーに走られやすい。クイックにも対応できるようフォームを普通のかたちにすると、ボールまでおとなしくなってしまった。

 2軍での登板は1年でわずか5試合。1軍はおろか、目標にしていた支配下登録からも遠く離れ、暗中模索の日々が続いた。しかも9月には腰を痛め、せっかくの登板予定を流してしまった。滅多にないチャンスに意気込みが空回りし、練習で力を入れ過ぎてしまったのだ。
「練習でいくら良くても仕方がない。試合に出ることがすべて。試合で投げて結果を出すことがすべてだと改めて気づきました」
 そんなプロとして当然のことを忘れてしまうほど、上野は自分を見失っていた。慣れない環境に振りまわされ、あっという間にシーズンが終わった。

 暗く長いトンネルに光が差したのは、秋の宮崎フェニックスリーグだ。上野は原点に戻り、思い切ってアメリカの独立リーグにいた頃のフォームで投げた。
「これが意外とハマりました。昔のようなボールが戻ってきた。1年の最後にようやく次につながるピッチングができましたね」
 5試合に登板して失点はわずかに1。ワインドアップでリズムよく投げるスタイルで打者を牛耳った。2軍で指導してきた加藤博人投手コーチが「夏までは全然ダメだったけど、140キロ以上のボールが放れるようになってきた。これからが楽しみ」と期待するほどだ。

 もちろんボールの勢いが復活したとはいえ、コントロールや変化球の精度など、課題は少なくない。元アイランドリーガーでブルペン捕手を務める小山田貴雄も上野の球威は認めつつ、「コントロールが良くなれば、もっと試合で投げられると思う」と指摘する。秋季キャンプでは空振りのとれる縦のスライダーを磨いた。昨季限りで現役を引退した石井弘寿育成コーチの直伝だ。左右は違うが、速球とスライダーを武器にヤクルトのセットアッパー、抑えとして活躍した石井のようになりたいと今は考えている。

「今季こそはアピールしないといけない。でも、何とかなるんじゃないかという気がしてきました」
 夏にうつろな目をしていた右腕は、もうそこにはいない。その視界には希望の光が大きく見え始めている。
「僕の強みは高さ。高いところから投げるのは自然と武器になると思っています。もっとスピードを上げて、フィニッシュのボールを良くすれば、それなりのピッチングはできる」
 ダルビッシュ有が海を渡り、190センチを超える長身日本人投手は、横浜の国吉佑樹や巨人の新人・松本竜也といったあたり。193センチから角度のついた速球や変化球を投げ込めば、打者は対応しづらいだろう。

 今季の目標は支配下登録ではなく、「1軍昇格」に定めた。新年早々、インフルエンザに感染するアクシデントに見舞われたものの、キャンプには間に合った。
「去年は支配下登録を意識しすぎたようにも思います。そこがそもそも間違っていた。目標を高いところに置いて、先を見据えないと」
 小川淳司監督は習志野高の大先輩。カクテル光線に照らされた神宮球場で監督と握手をする日がやってくることを信じている。
 

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(石田洋之)