Jリーグは今季、20年目のシーズンを迎える。節目となる今季はJ2が3月4日(日)、J1は3月10日(土)に開幕。93年に10クラブでスタートしたリーグは今季も2クラブが加わり、J1・J2あわせて40クラブで激闘を繰り広げる。

 昨季3強に見る「強化」「熟成」「変革」

 昨季のJ1は、柏レイソルがJ2から昇格初年度で優勝するという史上初の快挙で幕を閉じた。その柏が今季もリーグの中心となると見る。
 柏の強みは指揮官のチームマネジメント能力だ。ネルシーニョ監督は昨季、若手・ベテランに関係なく調子のいい選手を起用し続けた。これにより、チーム内のマンネリを防ぎ、ポジション争いによって選手個々の成長を促した。それはFWで田中順也が14ゴールをあげて日本代表に選出、北嶋秀朗が9ゴールをマークして復活を遂げたことでも明らかだろう。今季も昨年J2で12得点をあげたリカルド・ロボを栃木SCから獲得して、さらなるチーム内の競争激化を目論む。

 他のポジションよりも比較的、層の薄かったセンターバック(CB)にはアテネ五輪日本代表の那須大亮をジュビロ磐田から獲得した。CBだけでなくサイドバック、ボランチもこなせるユーティリティプレーヤー・那須の加入は大きい。昨季は新加入のMFジョルジ・ワグネルがベストイレブンに輝いたように、フロント陣の“人を見る目”も大きな戦力のひとつだ。

 ネルシーニョ体制は今季で4年目となり、チームの成熟度も増している。そんな中、懸念されるのは初めてACLに参戦することで生じる過密日程だ。それでも、人材マネジメントに長けた指揮官だけに、負傷者が続出さえしなければ、有力な優勝候補と言ってよい。

 “打倒柏”の筆頭格は名古屋グランパスだろう。昨季は優勝こそ逃したものの、柏との勝ち点差はわずかに1だった。今年はピクシーことドラガン・ストイコビッチを監督に据えて5年目のシーズン。主力メンバーの変動もなく、指揮官が掲げる攻撃的サッカーはさらに熟成度を増している。

 名古屋のストロングポイントはセンターラインの安定感だ。GKの楢崎正剛、DFに田中マルクス闘莉王、センターハーフに藤本淳吾、そして最前線には2年連続得点王のジョシュア・ケネディ。サイドからの攻撃が生きるのは、この中央のラインが安定しているからこそだ。とはいえ、ケネディや闘莉王などは代えのきかない選手でもある。彼らが出場停止や負傷により、試合に出られない時にチーム力をいかに保てるか、これが2年ぶりのタイトル奪回のカギだろう。

 昨季3位のガンバ大阪は変革のシーズンを迎えた。10年間チームを指揮してきた西野朗が昨季限りで退任。後任にクラブ初のブラジル人指揮官のセホーンを招聘した。セホーンがこれまで指導してきたクラブは延べ40近くにのぼり、韓国、ポーランドでの指導経験もある。問題はJリーグとの相性だ。ヘッドコーチに就任した元日本代表の呂比須ワグナーには監督と選手の橋渡し役が求められる。

 スタッフのみならず、戦力も大きな入れ替えを行った。MF橋本英郎(神戸)、DF下平匠(大宮)ら主力級が相次いでチームを去り、戦力ダウンは否めない。一方でザックジャパン不動のCBである今野泰幸をFC東京から獲得。昨季は得点数が78点のリーグ1位だった反面、失点数はリーグで5番目に多い51失点だっただけに、彼の加入で守備が安定することは間違いあるまい。

 FC東京は第2の柏となるか

 昨季の3強以外でも、上位を狙える注目クラブがある。大型補強に成功したヴィッセル神戸とJ1に復帰するFC東京だ。神戸はMF野沢拓也(鹿島)、橋本(G大阪)、さらには日本代表のDF伊野波雅彦(ハイデュク)などが加入し、戦力を大幅にアップさせた。これまでタイトル争いに無縁だった神戸にとって、鹿島やG大阪で勝ち方を知る選手たちの経験はそれだけでも貴重だ。

 ただ、選手の実績だけで勝てないのが勝負の世界である。野沢がボールを受けた時、鹿島時代と同じように周囲の素早いサポートがあるとは限らない。野沢や橋本が他選手との連携面で苦労するのではないか、と見る向きもある。それが早期に解消されれば、神戸が優勝争いに加わってきても不思議ではない。

 FC東京はJ2と天皇杯の2冠を引っさげてのJ1復帰だ。オフは今野の抜けた守備陣の穴埋めを行った。日本代表候補の太田宏介(清水)、U-22日本代表DFのルーキー丸山祐市らDF4人を獲得。柏のように昇格初年度でのリーグ優勝、さらにはACLを経てのアジア制覇と夢は膨らむ。

 不安があるとすれば戦術面だ。昨季までチームを率いた大熊清がチームを去り、町田をJ2昇格に導いたランコ・ポポヴィッチが新たに指揮を執ることになった。大熊がパスサッカーを志向したのに対し、ポポヴィッチはタテに速い攻めを導入しようとしている。柏はJ2で作り上げたチームスタイルを変えずにJ1に臨み、優勝した。FC東京は今野という大黒柱を失い、さらにサッカースタイルにも変化を加える。しばらくは“勝利”ではなく、“チームづくり”に重きを置いた試合が続くのではないだろうか。

 今年は五輪イヤーにあたるため、ロンドンを狙うU-23代表のプレーぶりも是非チェックしておきたい。特にセレッソ大阪の扇原貴宏は今後の飛躍が楽しみな選手だ。ボランチを主戦場とし、左足から繰り出す長短のパスで攻撃のリズムをつくるだけでなく、プレースキッカーとしての能力も高い。U-23代表では精度の高いキックからゴールを演出していた。身長184センチと、これまで日本に少なかった大型ボランチだ。

 扇原には近い将来、“ポスト・遠藤”として代表に選ばれるだろうとの声が少なくない。遠藤同様、パスコースを見つけるのが速く、精度も高い。そしてセットプレーで得点に絡める。C大阪ではDFを務めることもあり、守備能力に関しては遠藤より上かもしれない。彼に足りないのは経験値だ。遠藤のように試合の流れを読む感覚に磨きがかかれば、アルベルト・ザッケローニが“桜のマエストロ”を代表にピックアップする可能性も出てこよう。

 プレーオフ導入でJ2も過熱

 J2は今季から松本山雅FCとFC町田ゼルビアが加入し、22チームがJ1昇格を争う。最大の見どころは新たに導入されるプレーオフ制度だ。このシステムにより、1位と2位は従来通り、自動昇格となるが、3〜6位までのチームは残り1枠を巡って昇格プレーオフを実施する。

 ただし、好成績を残したからといって、そのままJ1へ上がれるわけではない。今季から導入される「クラブライセンス制度」により、「J1クラブライセンス」を付与されていないクラブは、プレーオフに参加できず、たとえJ2で優勝、または2位の成績を収めても昇格はできない。
 ちなみに「J1クラブライセンス」とはJ1に参加するための必要な資格である。大まかに言えば、5つの基準項目(競技、施設、人事組織、法務、財務)ごとにさらに細かい基準を設け、それらをクラブが満たしているかどうかをリーグが審査する。「施設基準」の一部を例にとると、スタジアムの入場可能数について「J1クラブ主管公式試合は1万5000人以上」(J2クラブ主管公式試合は1万人以上)と定めている。これをクリアできなければJ1クラブライセンスは交付されない。現在、J1に所属するクラブもJ1クラブライセンスを取得できなければ、来季はJリーグから外される。

 J2のクラブには、「J1クラブライセンス」の要件を満たしていないところも少なくない。スタジアムの増席などは一朝一夕で解決できるものではないが、フロントには戦力アップと並行してより一層の“企業努力”が求められる。

 昇格の最有力候補は京都サンガF.C.だ。昨季は序盤でつまずき7位に終わったものの、シーズン終盤に6連勝を記録。天皇杯でも決勝に進出し、上り調子でシーズンを終えた。特徴は平均年齢22.7歳(※昨季最終節時)という“若さ”だ。昨季、チームトップの10ゴールを叩きだしてA代表に招集された18歳の久保裕也、9ゴールをあげた19歳の宮吉拓実など、若くて才能ある選手が揃っている。昨季から指揮を執る大木武による細かくパスをつなぐスタイルも浸透しており、開幕ダッシュに成功すれば、“ヤング・サンガ”が突っ走る可能性もなくはない。

 その京都を追うのはJ1から降格したヴァンフォーレ甲府だろう。FWハーフナー・マイク(フィテッセ)など主力が移籍したマイナス面はあるが、新監督に就任した城福浩の手腕は確かだ。FC東京時代にナビスコ杯を制した“ムービング・サッカー”が体現できるようになれば、1年でのJ1復帰も見えてくる。

 プレーオフ圏内となる3〜6位争いは混戦が必至だ。昨季、あと一歩のところで昇格に届かなかった徳島ヴォルティス、降格組のモンテディオ山形とアビスパ福岡に加え、一昨年の最下位から8位に躍進したギラヴァンツ北九州もおもしろい存在だ。昨季は5位東京ヴェルディから10位栃木SCまでの勝ち点差はわずかに3と中位クラブの実力はほぼ横一線といっていい。熱を帯びてくる終盤戦に向けて目が離せない試合が続くだろう。

 南アフリカW杯以降、海外に移籍する選手が急速に増えた。これは日本サッカーのレベルが向上している証である。ただ、その礎を築いたのは日本のJリーグである。Jリーグの誕生なくして、日本代表のW杯4大会連続出場はなかったし、ここまでの海外選手の活躍もなかった。それはこの先も変わらない。大きな節目を迎えた日本のプロサッカーをスタジアムで、そして「スカパー!」で応援したい。

 2012−2016 5シーズンの放送権を取得!
 スカパー!はこれからもJ1・J2リーグ戦を全試合放送!

 スカパー!は2007シーズンより5年間、J1・J2リーグ戦全試合放送を行ってまいりました。今後も「Jリーグオフィシャルブロードキャスティングパートナー」として、Jリーグ並びに日本サッカー文化の発展に貢献してまいりたいと思っています。
  

【2012Jリーグ 第1節】

J1
・3月10日(土)
コンサドーレ札幌 × ジュビロ磐田(14:00、札幌ド)
ベガルタ仙台 × 鹿島アントラーズ(14:00、ユアスタ)
名古屋グランパス × 清水エスパルス(14:00、豊田ス)
ガンバ大阪 × ヴィッセル神戸(14:00、万博)
サンフレッチェ広島 × 浦和レッズ(14:00、広島ビ)
サガン鳥栖 × セレッソ大阪(14:00、ベアスタ)
川崎フロンターレ × アルビレックス新潟(17:00、等々力)
大宮アルディージャ × FC東京(19:00、NACK)

・3月11日(日)
柏レイソル × 横浜F・マリノス(14:00、柏)

J2
・3月4日(土)
水戸ホーリーホック × 横浜FC(13:00、Ksスタ)
東京ヴェルディ × 松本山雅FC(13:00、味スタ)
ヴァンフォーレ甲府 × 栃木SC(15:00、中銀スタ)
FC岐阜 × ガイナーレ鳥取(15:00、長良川)
ファジアーノ岡山 × カターレ富山(15:00、カンスタ)
アビスパ福岡 × ロアッソ熊本(15:00、レベスタ)
大分トリニータ × ザスパ草津(15:00、大銀ド)
ジェフユナイテッド千葉 × モンテディオ山形(15:30、フクアリ)
愛媛FC × FC町田ゼルビア(16:00、ニンスタ)
湘南ベルマーレ × 京都サンガF.C.(17:30、BMWス)
ギラヴァンツ北九州 × 徳島ヴォルティス(17:30、本城)

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