2012年のプロ野球が30日に開幕する。昨季は低反発の統一球の導入により、投高打低のシーズンとなるなか、福岡ソフトバンクと中日がそろって連覇を達成した。今季もこの2チームが優勝争いには加わるだろうが、各球団とも移籍などで戦力が変動しており、3連覇への道は容易ではない。セ・パ両リーグの前年度覇者を中心に、注目チームや選手にスポットを当ててみたい。

 中日、キーストーンコンビ復活

 中日はセ・リーグでは巨人以外成し遂げていない3連覇へ挑戦する。だが、8年間で4度のリーグ優勝を果たした落合博満前監督がチームを去り、首脳陣も大幅に入れ替わった。70歳の高木守道新監督が、どのようなタクトを振るうかがひとつのポイントだ。

 ただ、キャンプを見ていても落合時代の6勤1休を継続し、チーム内に緩みは感じられない。昨季、リーグトップのチーム防御率(2.46)を記録した投手陣は盤石で、29年ぶりに古巣に復帰した権藤博投手コーチも「ピッチャーに関してはコマが揃っていますね。シーズン中、1軍登録できるピッチャーは12、3人ですけど、正直、20人ぐらいベンチに入れなきゃいけないほどの枚数がいますから」と自信をのぞかせていた。

 何より、選手たちが落合イズムを継承し、実践している。チームの要となるのが二遊間を組む“アライバ”こと荒木雅博と井端弘和だろう。今季は2年ぶりに荒木がセカンド、井端がショートと元のポジションに復帰する。周知のようにアライバは揃って04年から09年まで6年連続でゴールデングラブ賞に輝き、球界きっての二遊間コンビだった。

 しかし落合前監督は、この最高に息の合ったコンビを解体した。守備範囲の広さを買い、送球には難のある荒木を敢えてショートにコンバートしたのだ。だが、セカンドとショートでは動きがまるで異なる。コンバート1年目の10年シーズン、荒木は12球団で2番目に多い20失策。昨季も17失策を数えた。自信を喪失し、悔しくて眠れない日もあった。
「監督、本当に殺したいと思っていましたよ」
 落合前監督がチームを去る際、荒木は本人に面と向かってこう言ったというのだから、その苦悩は察して余りある。

 専門家でも懐疑的な見方が支配的だったコンバート劇だが、落合前監督には、ある狙いがあった。2人のポジションを入れ替えることで、「慣れによる停滞」を取り除こうとしたのである。要するにマンネリの打破だ。落合前監督は自著『采配』のなかで、その意図を明らかにし、こう付けくわえている。
<この先、二塁手に戻るようなことがあれば、間違いなく以前を遥かに超えたプレーを見せるはずだ。遊撃手を経験したことにより、荒木の守備力は「上手い」から「凄い」というレベルに進化しているのだ>

 落合の予言が正しければ、慣れ親しんだ“古巣”に戻った今季、荒木はまた新たなセカンド像をみせてくれるはずだ。セカンドとショートを米国ではキーストーンコンビと呼ぶことがある。グラウンドのなかでカギを握るのが二遊間というわけだ。振り返ればV9巨人には土井正三、黒江透修といういぶし銀コンビがいた。80年代の黄金期の西武には辻発彦、石毛宏典という洗練されたコンビがいた。アライバもこの系譜に名を連ねる立派なキーストーンコンビである。
 
 広島、Aクラス入りの条件

 評論家の間では、杉内俊哉、デニス・ホールトン、村田修一らを大型補強した巨人と、中日による優勝争いとの予想が大半だが、Aクラスに入る3位のチームはかなり割れている。なかでも広島を推す声が例年以上に目立つ。元千葉ロッテの黒木知宏さんもそのひとりだ。
「ここ1、2年、広島は投手力が整ってきました。マエケン(前田健太)に(ブライアン・)バリントンと柱になる先発がいますし、ここに大竹(寛)が戻ってくると、台風の目になる」

 14年連続Bクラスと低迷が続く広島だが、今季は確かにAクラス入りの目がある。マエケン、バリントンの2本柱に、2年目の福井優也もキャンプではキレのあるいいボールを投げていた。昨季は8勝(10敗)と負け越したものの、ローテーションを1年間守っている。その経験が今季は生きるはずだ。本人は「背番号(11)くらいは勝ちたい」と控えめだが、打線の援護があれば、さらに勝ち星を上積みできるかもしれない。ドラフト1位の野村祐輔(明治大)もオープン戦で大崩れしない投球をみせており、先発として計算できそうだ。

 広島がAクラスに入るにはシーズンプランが重要になる。よく「弱いチームは開幕ダッシュするしかない」という声を耳にするが、果たしてそうか。昨季も広島は8月31日の時点ではまだ借金1、首位とはわずかに3.5ゲーム差だった。ところが、そこから坂道を転がり落ち、終わってみれば借金16の5位だった。ローテーションを崩したり、ムチを入れるのが早すぎたのだ。

 昔、競馬で「テレビ馬」なる言葉をよく耳にした。スタートから勢いよく飛び出せば、テレビカメラで大写しになる。「どうせ勝てないんだから目立てばいい」と勝敗を度外視した馬主の判断によるものだった。自己満足もいいところである。広島はよく“鯉のぼりの季節”までと揶揄される。しかし、70年代後半から80年代前半にかけて4度のリーグ優勝を果たした頃は、開幕ダッシュに失敗しても秋には必ず上位に顔を出していた。

 大事なのは春先ではなく、夏場を過ぎてからの戦いである。ヒリヒリするような優勝争いを経験していない選手が多いだけに、指揮官には1年をいかに乗り切るかの戦略が一層問われる。全日程が終了しての貯金5を目標に置きながら、シーズンに臨んでほしい。

 ソフトバンク・松田はトリプル3を狙え! 

 3連覇を目指すソフトバンクは、ホールトン、杉内(いずれも巨人)、和田毅(オリオールズ)と先発の主力がごっそり抜けた。3人の昨季の勝ち星を合計するとなんと43勝にのぼる。ショートの川崎宗則(マリナーズ)も抜け、大幅な戦力ダウンだ。だが、キャンプ中、秋山幸二監督にこの点を質すと「去年は去年、今年は今年」とあまり意に介していないようだった。

 指揮官が慌てていないのは、代わりになり得る若い力が台頭しているからだ。育成出身の山田大樹や、昨季初勝利をあげた岩嵜翔が先発ローテーションに入り、3年目の左腕・川原弘之も秋山監督が「素質的にいいものを持っている」と期待を寄せる。しかも外国人でメジャーリーグ通算119勝をあげているブラット・ペニーを獲得するなど補強も行っている。馬原孝浩の故障離脱で心配されるブルペンにはメジャー帰りの岡島秀樹が入る。

 何より、このチームはバランスがいい。打線も足の使える本多雄一、明石健志に、中軸では内川聖一、小久保裕紀、松中信彦ら長打を打てる打者が揃っている。ケガで開幕の登録からは外れたが、アレックス・カブレラ、多村仁志もいる。

 キーマンとしてあげたいのは昨季、4番にも座った松田宣浩だ。低反発の統一球の影響でホームランが激減した昨季、彼は25本塁打をマークした。これは“おかわり君”こと中村剛也(埼玉西武)に次ぐリーグ2位の本数だった。昨季はフル出場を果たし、打率2割8分2厘、83打点、27盗塁とキャリアハイの数字を残した。

 松田にはぜひ目指してもらいたい記録がある。それは「トリプルスリー」だ。1シーズンで打率3割以上、本塁打30本以上、盗塁30個以上を同時に達成した選手に与えられる称号である。78年目を迎えるプロ野球で、これを達成した者は過去に8人(岩本義行、別当薫、中西太、蓑田浩二、秋山、野村謙二郎、金本知憲、松井稼頭央)しかいない。確率的に言えば、10年にひとり達成できるか否かの偉業なのだ。

 キャンプ中、本人と話をすると、「それは常に意識してプレーしています。僕はタイプ的に40本も50本もホームランを打てるバッターではないので、やはりトータルで勝負しなければならない。打って守って走る。トリプルスリーを、まだ狙える段階ではありませんが、いずれ実現したいという気持ちは持っています」との答えが返ってきた。秋山監督も西武の主力選手として、89年にこの記録を達成している。「実は僕もそこに期待しているんです。狙えるとしたら彼しかいないでしょう」と松田の成長を望んでいた。

 達成への最大のハードルは、おそらく打率だろう。秋山監督は「まだ確率の低い打ち方をしている。自然な体の使い方ができていない」と指摘する。昨季の成績を踏み台にして、さらなる飛躍を遂げられるか。小久保や松中らベテランに代わって、内川とともにチームを牽引するようであれば、ソフトバンクの3連覇はいよいよ現実味を帯びてくる。

 楽天、ロッテは台風の目!

 各メディアの開幕前予想では東北楽天と千葉ロッテの評価が総じて低い。だが、私はこの両チームは侮れないと見ている。昨季5位の楽天は星野仙一監督が2年目を迎える。星野監督は中日、阪神と監督就任2年目に必ずリーグ優勝を達成しているのだ。中日では87年、阪神では03年に優勝を収めている。

 昨季の楽天は貧打に泣いた。田中将大が19勝(5敗)をあげ、チーム防御率は2.85はリーグ3位だったにもかかわらず、チーム打率、本塁打は、ともにリーグ5位。総得点は432とロッテと並んで最下位だった。

 打線のテコ入れ策として星野監督はデーブこと大久保博元打撃コーチを招聘した。大久保コーチは西武時代、中村の打棒を開花させたことで知られる。ボールをとらえるポイントを前に移動するようアドバイスしたのだ。またアーリーワークと呼ばれる早朝練習で徹底した特打ちを実施し、08年の日本一に貢献している。

 過日、星野監督に会った際、“デーブ効果”について訊ねると、満足そうにこう語っていた。
「デーブは、おかわり(中村)や中島裕之、栗山巧を育てただけあって選手を乗せるのがうまい。秋季キャンプでは1日2000本振らせていた。これまでのプロ野球の常識では、よく振っても1日700〜1000本ですよ。しかしデーブは“(手の)マメが潰れても振れ。振って振って振りまくれ”と言っていた。選手たちは随分、たくましくなりましたよ」
 松井稼頭央、岩村明憲の元メジャーリーガーが揃って開幕に間に合わないのは痛いが、打線が機能すれば他チームにとっては怖い存在になる。

 昨季、最下位に沈んだロッテは、2年前は日本一になったチームだ。決して目立ちはしないが、そこまで戦力は他チームに劣らないとみる。チーム本塁打数が46本と西武の中村ひとり(48本)に負けてしまった昨季と比較すると、今季はヤクルトからジョシュ・ホワイトセルが加入した。不振にあえいだ和製大砲の大松尚逸も昨季のようなことはないだろう。トップバッターの伊志嶺翔大、岡田幸文ら機動力を使える選手もいる。

 何より投手陣ではドラフト1位左腕・藤岡貴裕(東洋大)の評価が高い。同じ左腕で224勝をあげた工藤公康さんは「キャッチボールでもボールの軌道が垂れない。ずっと見ていたいと思うくらいの素質の持ち主」と絶賛していた。ドラフト2位の変則左腕・中後悠平投手(近大)、4位の益田直也(関西国際大)もオープン戦で結果を出しており、ブルペンが厚みを増した。現行のシステムでは、3位に入ってクライマックスシリーズに進出すれば日本一の可能性が出てくる。一昨年と同様の“下克上”が再び展開されるかもしれない。

 球界全体としては、やはり統一球に応じた野球がどこまでできるかが焦点となるだろう。1シーズンを終えて、打者も対策を練ったとはいえ、劇的にホームラン数が増えるわけではない。となると1点を争う攻防が激しさを増す。今季もたったひとつのプレーが勝敗を大きく左右するはずだ。そんな細かい部分までスカパー!で観られれば、野球がもっとおもしろくなるに違いない。

 最後に順位予想を。
 セ・リーグは1位・中日、2位・巨人、3位・広島、4位・阪神、5位・東京ヤクルト、6位・横浜DeNA。
 パ・リーグは1位・福岡ソフトバンク、2位・埼玉西武、3位・千葉ロッテ、4位・オリックス、5位・東北楽天、6位・北海道日本ハム。

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【2012プロ野球開幕カード】 ( )内は中継局

・3月30日(金)〜4月1日(日)
◇パ・リーグ
福岡ソフトバンク × オリックス ヤフードーム(日テレプラス
北海道日本ハム × 埼玉西武 札幌ドーム(GAORA
東北楽天 × 千葉ロッテ Kスタ宮城(J SPORTS

◇セ・リーグ
中日 × 広島 ナゴヤドーム(J SPORTS
巨人 × 東京ヤクルト 東京ドーム(日テレG+
阪神 × 横浜DeNA 京セラドーム(スカイ・A sports+

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