いよいよ今週末からJリーグが開幕します。新監督を迎えてスタイルを変えるチーム、補強によって戦力アップを図ったチームなど、それぞれが開幕に向けて準備を進めてきました。最終節まで優勝の行方がわからなかった昨季同様、今季もしびれるようなゲームが多く見られることを期待しています。
 私の注目のチームはまず、古巣である鹿島アントラーズです。前回も書きましたが、ジョルジーニョ新体制になって、伝統のポゼッション・サッカーがどのように変わるのかが楽しみです。
 鹿島のポイントは開幕からの5試合になると見ています。昨季、優勝した柏レイソルが3連勝を含む4勝1敗で開幕ダッシュに成功したのに対し、鹿島は1勝2敗2分。出だしでつまずき、うまく波に乗ることができませんでした。ちなみに、鹿島が最後に優勝した09年は4勝1敗、08年は5連勝しています。開幕の5試合に4勝1敗以上の好成績を収め、勢いにのれるか。鹿島に限らず、これはリーグを制するためのカギだと見ています。

 楽しみな“ポイチ広島”

 “ポイチ”こと森保一監督が就任したサンフレッチェ広島も楽しみな存在です。森保監督は現役時代、「オフトジャパンの申し子」と呼ばれるほど、オフトイズムを体現していました。オフトイズムを簡単に説明すると次の3つの要素があげられるでしょう。FWとDFラインの間をコンパクトに保つ「スモール・フィールド」、ボールを持っている味方に対して2人の選手がフォローにいく「トライアングル」。そして、奪ったボールを逆サイドへ展開して敵を分散させる「チェンジ・ザ・ボール」。今年の広島は以上の3点からなる「オフトイズム」をベースに、森保監督の特徴でもあった豊富な運動量を生かしたスピーディかつアグレッシブなサッカーを志向するのではないでしょうか。「オフトイズム」と「ポイチイズム」がチームに浸透すれば、広島のリーグ初優勝も見えてくると思います。

 また、大型補強で注目を集めているのがヴィッセル神戸です。野沢拓也(鹿島)や橋本英郎(G大阪)、さらにここにきて日本代表の伊野波雅彦(ハイデュク)も獲得しました。戦力的には間違いなく上位争いができるでしょう。

 しかし、実績のある選手を揃えたからといって、すぐにチーム状態が変わるわけではありません。新たに選手を入れれば、その分、元々所属していた選手とのサッカー観の擦り合わせが必要になります。野沢を例にとれば、鹿島時代はボールを持つとすぐに他の選手がサポートにきてくれていました。それが、神戸ではパスを受けて攻撃を組み立てようとした際に、自分のイメージしたタイミング、場所に味方がいない場面が出てくるでしょう。大久保嘉人ほどになればプレーを合わせられるでしょうが、問題は経験値の少ない選手たちです。彼らが野沢や橋本などの高レベルな意図を理解し、ついていけるか。サッカー観のズレを解消するには、実戦を多く重ねる必要があるだけに、神戸が開幕から実力を発揮するのは難しいでしょう。

 Jリーグが開幕して20年目を迎える今季、J1・J2あわせた40チーム中、半数の20チームで元Jリーガーが監督を務めるようになりました。同じ舞台でプレーしていた仲間が、現場で頑張っている姿を見るのは嬉しいものです。現役時代の自身のスタイルを反映させたサッカーを志向するチーム、全く正反対の戦い方をとるチーム……。各監督の“色”が最も強く出るのが開幕戦です。勝敗も気になるところですが、開幕戦は各チームの示すスタイルに注目しながら観戦するとおもしろいでしょう。

 クリアボールの質を追求せよ!

 さてU-23日本代表はついにロンドン五輪出場に王手をかけました。シリアに敗れたことを引きずらないか心配しましたが、マレーシア戦はしっかりと気持ちを切り替えられていましたね。

 では、その2試合を少し掘り下げてみましょう。5日のシリア戦で私が気になったのは、クリアボールの質です。1−1の引き分け寸前に起きた失点のシーンは、右サイドからのロングスローに対するクリアを拾われ、ミドルシュートを叩きこまれました。あの痛恨の失点が生まれた要因は、クリアボールを敵に渡してしまったことです。

 クリアする時のセオリーは、まずはゴールから離れた位置、次に敵のいないところにボールを蹴る。どちらも厳しい時はピッチの外へ出してプレーを切ることです。結果論になりますが、逆転された場面は残り時間もほぼなかっただけに、ボールをピッチの外へクリアするべきだったと思います。

 ただ、このセオリーはアディショナルタイムに限らず、90分を通してのものです。日本は失点シーン以外でも、クリアボールを敵のいるところに蹴ってしまうことがありました。常にクリアボールの優先順位を考えながらプレーすることで、咄嗟の場面でも的確な判断ができるようになります。クリアボールの質を上げなければ、失点につながる。日本の選手たちにとって痛い敗戦ではありましたが、逆に、痛いくらいのほうが、失敗を忘れないもの。大事なのは失敗を繰り返さないことです。

 攻めながら守る

 一方、22日のマレーシア戦は、酒井宏樹(柏)からのクロスに、ファーサイドで原口元気(浦和)が合わせた3点目が印象的に残っています。というのも試合後、酒井は「クロスに対して(相手が)ボールウオッチャーになるというスカウティングがあった」と語っていました。日本のスタッフのスカウティング能力とそれを忠実に実行する選手たちの実力の高さを示した試合だったと思います。
 また、高温多湿の厳しい環境で最後まで足を止めず、攻守とも積極的にプレーしていたことも評価できます。苦しい時にはどうしても楽な選択をしてしまいがちですが、どんな状況下でも自分たちのサッカーを貫く心身のタフさを見せてくれました。

 マレーシア戦後、日本は再びグループ首位に立ち、自力突破の可能性も復活しました。3月14日の最終戦(対バーレーン戦、国立)で引き分け以上の結果を残せば、5大会連続の五輪出場です。しかし、ホームで戦う以上、積極性に欠けた試合を見せるわけにはいきません。前線の選手たちにはどんどんシュートを打つ姿勢を見せてほしいですね。 

 ただ、DFはチームが攻撃的になる中でも冷静さを保つ必要があります。シリア戦もマレーシア戦も、相手にカウンターからシュートまで持っていかれる場面が見られました。これは攻守の切り替えがまだ遅い証拠です。前線で味方選手がキープしている時などは、その間にラインの位置を調整したり、マークする選手を確認する。つまり、DFは攻めながら守ることが重要です。これを徹底できれば、バーレーンにはそれほど苦戦することはないでしょう。

 国立競技場はシドニー、アテネ、北京と3大会連続で出場を決めた縁起のいいスタジアムです。バーレーン戦はしっかりと勝利を収め、誰にも文句を言わせないかたちでロンドン行きを決めてほしいですね。

●大野俊三(おおの・しゅんぞう)<PROFILE>
 元プロサッカー選手。1965年3月29日生まれ、千葉県船橋市出身。1983年に市立習志野高校を卒業後、住友金属工業に入社。1992年鹿島アントラーズ設立とともにプロ契約を結び、屈強のディフェンダーとして初期のアントラーズ黄金時代を支えた。京都パープルサンガに移籍したのち96年末に現役引退。その後の2年間を同クラブの指導スタッフ、普及スタッフとして過ごす。現在、鹿島ハイツスポーツプラザ(http://kashima-hsp.com/)の総支配人としてソフト、ハード両面でのスポーツ拠点作りに励む傍ら、サッカー教室やTV解説等で多忙な日々を過ごしている。93年Jリーグベストイレブン、元日本代表。

*ZAGUEIRO(ザゲイロ)…ポルトガル語でディフェンダーの意。このコラムでは現役時代、センターバックとして最終ラインに強固な壁を作った大野氏が独自の視点でサッカー界の森羅万象について語ります。
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