先日、サッカーの日本−アゼルバイジャン戦を観戦に静岡のエコパスタジアムを訪れました。W杯アジア最終予選を前に、久々に代表復帰した本田圭佑や、ドイツで大活躍中の香川真司のプレーを生で観て、元サッカー選手として、その凄さを実感できました。
 今回、僕がエコパを訪れたのは、もうひとつ目的があります。それは国立競技場改築に関する有識者会議のワーキングチームの一員として、スタジアムを視察すること。限られた時間ではありましたが、最寄駅からのアクセスやスタジアム内の動線、客席の快適度、観客へのホスピタリティといった部分を見てまわりました。

 スタジアム自体は2002年のW杯でも使用されており、陸上のトラックがあるとはいえ、サッカー場として立派なものです。しかし寂しいことに、訪れた人たちがスタジアムの周囲で楽しめるものが何もありません。あるのはハコモノだけで、試合やイベントがなければ誰も近寄らない……。これはエコパに限らず、日本のスタジアムに共通する課題と言えるでしょう。

 早速、試合翌日は東京に戻り、都市公園の整備を担当する国土交通省の人間に、この話をぶつけ、どのようなスタジアムのあり方がよいのか、意見交換をしました。これまでの日本のスタジアムは建物をつくるだけで、それをいかに他の施設と融合させ、有効活用するかという観点が欠けています。02年のW杯に向けて、完成したり、改修されたスタジアムの多くが赤字の状態です。これでは当然、新たな設備投資もできません。そのため、いずれはただの使えないハコになってしまうのです。

 スタジアムを中心にして、いかにヒト、モノ、カネを集め、付加価値をつけるか。これが今後の施設整備を考える上で重要なポイントになるでしょう。Jリーグの傍士銑太理事は、スタジアムをその地域の交流拠点として位置づける“街なかスタジアム”の考え方を提唱されています。これは僕の意見に非常に近いスタジアムプランです。

 ところが残念ながら、行政にはもともとお金を稼いで還元するという感覚が希薄です。かつ、以前から指摘してきたタテ割り行政の問題が立ちはだかります。たとえばヨーロッパで見られるショッピングモール付きのスタジアム。これを日本で実現するとなると国交省の公園整備の範疇に収まりきらなくなります。大規模店舗に関する法律など経済産業省との調整も必要になるでしょう。

 3月からスタートした国立競技場の改築に関する有識者会議では、以前も紹介したように建築、文化・芸術、スポーツと3部門のワーキングチームを立ち上げ、議論を進めています。先月のスポーツ分野の会合では、各競技からの要望を取りまとめ、どのようなスタジアムにすべきかを話し合いました。たとえばラグビーからは「インゴールの面積が狭いため、芝生部分を広げてほしい」との話が出れば、陸上からは「芝生部分が大きすぎると棒高跳び、走り高跳びでの助走スペースが不足する」と反対の声があがります。またボールゲームでは風の影響を受けない環境がベストですが、陸上では適度に追い風が吹くほうが選手たちに好まれます。こういった相反する意見のバランスをとりながら、いかに答えを見出すかが今後のテーマです。

 また現状の敷地で改築を実施した場合、国際大会の規格に見合うスタジアムにするには、土地が不足しています。外に拡張できないのなら、限られた敷地をうまく使うしかありません。そこで現在、建築チームから出ている案が可動式スタンドです。サッカーやラグビーの際には陸上のトラック部分にまで客席がせり出すスタイルにできれば、多くの観客収容が可能になります。

 24日には東京が2020年五輪・パラリンピックの立候補都市として選定されました。五輪・パラリンピックが実現した暁には、この改築された国立競技場がメインスタジアムとなります。今回の五輪招致に関しては、政府が昨年12月の時点で、支援を行うことを閣議決定しました。2016年の招致と比べれば、政府の意思表示は早くなっています。これも昨年に成立したスポーツ基本法において、「国際競技大会の招致又は開催の支援」の項目が明記されたことが大きいでしょう。

 もちろん招致活動はここからが本番です。マドリード、イスタンブールとの激しい争いを制するには、IOCの評価レポートで指摘された課題をクリアする必要があります。特に「エネルギー」の項目が、今回の評価に加わっていたことは僕にとって驚きでした。しかも日本は最低点が5点と低く、原発事故から始まった電力不足が海外ではかなり不安視されていることを実感しました。

 エネルギーや原発事故、災害に関する海外の懸念を払拭することは、五輪招致のみならず、観光の誘致、農林水産物などの輸出を増やすためにも不可欠です。そして、それを実施するのが政治の責任だと考えます。今回の震災や原発事故では、後からさまざまな事実が明るみになり、「日本政府は情報を隠しているのではないか」という疑念を世界中に抱かせる結果となってしまいました。

 ならば、これからは情報をどんどん公表し、原発や電力の現状がどうなっているのかを、積極的に発信すべきでしょう。プラスの情報もマイナスの情報も並べないことには判断材料がありません。判断材料なくして「害はありません。安心してください」と訴えたところで誰も信用しないはずです。たとえマイナスの情報であっても、正直に外へ出し、どう対処するかを具体的に説明したほうが、かえって信頼されるのではないでしょうか。

 今夏には新しいエネルギー基本計画も発表される予定になっています。原発を徐々に減らしつつ、自然エネルギーにいかに移行していくか。ちょうど五輪・パラリンピックが開催される2020年頃は、その過渡期となるはずです。日本はこれからの姿を、この新計画を通じても発信していければと考えています。 
 
 また世論支持の低さも前回の招致同様、東京はネックになっています。震災からの復興というテーマは国際社会ではひとつのアピールになっても、被災地では「五輪どころではない」と言われても仕方がない現実があります。五輪・パラリンピックの開催で公共工事が増え、経済効果が出て、暮らしが豊かになる――そんなバラ色の未来のみを求めることは困難です。

 都民や国民の支持率を高める上で、カギになるのも、エネルギー問題同様、「情報公開」だと僕は考えます。開催に伴って予想される問題点を曖昧にするのではなく、事前に明らかにする。そして対策も含め、ひとつひとつ説明する。これを地道に続け、「そこまで考えているなら開催しても構わない」という世論を増やしていくことが遠回りのように見えて、実は近道のように感じます。

 エコパの日本代表戦でも抱いた感想ですが、やはりスポーツはライブで観る楽しさがあります。各競技のトップクラスが世界中から集結する五輪とパラリンピックが東京で開かれれば、スポーツの魅力がより多くの人に伝わると信じています。スポーツで豊かな日本へ――。2019年のラグビーW杯と合わせ、2020年の五輪・パラリンピックが、そのきっかけをつくるイベントになってほしいと願っています。

友近聡朗(ともちか・としろう):参議院議員
 1975年4月24日、愛媛県出身。南宇和高時代は全国高校サッカー選手権大会で2年時にベスト8入りを果たす。早稲田大学を卒業後、単身ドイツへ。SVGゲッティンゲンなどでプレーし、地域に密着したサッカークラブに感動する。帰国後は愛媛FCの中心選手として活躍し、06年にはJ2昇格を達成した。この年限りで現役を引退。愛称はズーパー(独語でsuperの意)。07年夏の参院選愛媛選挙区に出馬し、初当選を果たした。
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