プロ野球では今月16日から交流戦が始まりましたね。24日現在、首位は6戦全勝の巨人。果たして、セ・リーグから初優勝のチームが出てくるのでしょうか。さて、今回は先月、日本プロ野球選手会会長の新井貴裕(阪神)からNPBに求められた“統一球問題”について述べたいと思います。「ホームランが少なくなり、野球が面白くなくなった」などという意見もあるようですが、本当にそうでしょうか。ズバリ、私見を述べさせてもらえば、私は統一球の採用は日本のプロ野球にとってプラスになると思っています。
 統一球、いわゆる“飛ばないボール”が採用された昨季、12球団のホームラン総数は前年よりも666本も減少しました。今季もロースコアでのゲーム展開が多く、“投高打低”は顕著です。プロ野球の“華”と言われているホームランが激減したことに対して、寂しい思いをしているファンもいることでしょう。しかし、プロ野球の“華”であるはずのホームランが、あまりにも簡単に打てる状況というのもどうかなと思うのです。バットに当たれば、軽くスタンドを越えていってしまうような状況で、果たして“華”と言えるのでしょうか……。

 例えば、4月20日の横浜DeNAと阪神との一戦、阪神のエース能見篤史から、中村紀洋がレフトスタンド上段に飛び込む特大の2ランホームランを放ちました。その鮮やかさと言ったら、まさに“華”でした。しかし、以前のようにホームランが多発している状況では、この中村の一発にここまで感動を覚えられたかと言うと、決してそうではないと思うのです。「あ、また打ったな」くらいにしか思えなかったでしょう。

 見せてほしいプロの技

 私が考えるに、ホームランとはやはり特別なものなのです。その特別なことができるバッターこそが一流であり、その一流になるには、きちんとした技術の習得が必要なのです。そういう意味で、統一球の採用は日本プロ野球界にとって技を磨くチャンスと言えるのではないでしょうか。

 実際、統一球が採用されて以降、全体的にバッターの打球はゴロが増えると同時に、“完璧な”ホームランが増えたように感じています。2010年以前のように、「えっ!? この打球がホームランになってしまうの?」というようなホームランはほとんどありません。それは“飛ばないボール”だからこそ、きちんとバットの真芯でとらえなければ、ホームランにはならないからです。

 近年、プロ野球の球場は広くなり、それに対応して反発力のあるボールが採用されてきた傾向にありました。実際、ホームランは増え、大味で派手な試合が多く見られました。しかし、一方で、ボールが簡単に飛ぶことで、バッターの技術が磨かれてこなかったという一面も否定できません。“飛ばないボール”の採用後、ホームラン数が減ったことがその何よりの証拠です。

 昨季の中村剛也(埼玉西武)しかり、前述した中村紀や山崎武司(中日)しかり、きちんと芯でとらえる技術さえあれば、ホームランバッターはホームランが打てますし、年齢など関係なく、遠くへ飛ばすことができるのです。つまり、打てないということは、バッティングの原点である「芯でとらえる技術」が不足しているということなのです。強い打球を打とうとするあまり、スイングの速さへの意識が強くなり、最も重要であるはずの芯に当てる技術がないがしろにされてきたのではないでしょうか。

 もともと統一球はプロ野球の国際化に伴い、国際試合でスムーズに対応することができるようにということから採用されました。にもかかわらず、たった1年ちょっとやっただけで「飛ばないから元に戻してくれ」では、あまりにもプロ野球選手として情けないのではないでしょうか。飛ばないのであれば、飛ばせられるように、自らの技を磨きあげるべきであり、それこそプロとしての技の見せどころだと思うのです。

佐野 慈紀(さの・しげき) プロフィール
1968年4月30日、愛媛県出身。松山商−近大呉工学部を経て90年、ドラフト3位で近鉄に入団。その後、中日−エルマイラ・パイオニアーズ(米独立)−ロサンジェルス・ドジャース−メキシコシティ(メキシカンリーグ)−エルマイラ・パイオニアーズ−オリックス・ブルーウェーブと、現役13年間で6球団を渡り歩いた。主にセットアッパーとして活躍、通算353試合に登板、41勝31敗21S、防御率3.80。現在は野球解説者。
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