サッカーの欧州ナンバーワン国(または地域)を決めるEURO(ユーロ)2012がいよいよ始まる。14回目の開催地はウクライナとポーランド。両国を含めた全16カ国・地域が欧州王座をかけて火花を散らす。出場チーム中13カ国・地域はFIFAランキングでは20位以内。W杯以上といわれるハイレベルな戦いを制し、優勝トロフィーの“アンリ・ドロネー杯”を手にするのはどこか――。

 “無敵艦隊”が抱える不安

 優勝候補の本命は、やはりスペインだろう。前回大会優勝国であり、南アフリカW杯のチャンピオン。前回のEUROでもみせた圧倒的なポゼッションサッカーで相手を打ち崩すスタイルは、今や芸術の域に達している。彼らは対戦相手に守備を固められたとしても、決して動じない。まるでパスゲームかのようにボールを回し続け、相手がボールを奪いにきて空いたスペースを突く。そこから闘牛士が牛に止めを刺すかのごとくゴールへと迫るのだ。

 このスタイルの中核をなす中盤の顔ぶれは実に豪華だ。MFアンドレス・イニエスタ、MFシャビ・エルナンデスらバルセロナの4選手に、MFシャビ・アロンソ(レアル)を加えた5名がレギュラーを争う。イニエスタやシャビらバルサ勢がみせる高度なテクニックと、流れるような連係は、これぞフットボールの華。
またシャビ・アロンソはフィジカル能力に長け、精度の高いロングフィードやミドルシュートを武器にする。サブにはMFフアン・マタ(チェルシー)やMFダビド・シルバ(マンC)など、ドリブルで局面を打開できる選手も控えており、中盤の選手層は世界一といっていいだろう。これらの選手が持ち前のパスサッカーを展開できれば、EURO史上初の連覇が見えてくる。

 ただ、王者にも不安材料はある。中心選手であるDFカルレス・プジョル、FWダビド・ビジャ(ともにバルセロナ)がケガのため、大会を欠場する。プジョルはどんな時も味方を鼓舞するファイティングスピリットを持ち、相手に激しいプレッシャーをかけてスペインの守りを支えてきた。さすがの“無敵艦隊”も守備に穴があけば勝ち抜くのは容易ではない。キャプテンのGKイケル・カシージャス(レアル)を中心にどれだけ強固な守備網を構築できるかが連覇へのカギとなる。

 ビジャは前回のEUROと南アフリカW杯の得点王。高い決定力でスペインを勝利に導いてきた。しかし、昨年末のクラブW杯で左脚脛骨を骨折して長期離脱を余儀なくされている。代表最多得点のエースの不在をいかにカバーするか。同じくエース格のFWフェルナンド・トーレス(チェルシー)、今季のリーグ戦で2桁得点を記録したFWフェルナンド・ジョレンテ(ビルバオ)とFWアルバロ・ネグレド(セビージャ)らの頑張りが優勝への前提条件となるだろう。

 スペインが属するグループCには、一筋縄ではいかない相手が顔を揃える。予選10試合でわずか2失点と堅守のイタリア、名将ジョバンニ・トラパットーニ率いるアイルランド、プレミア屈指の司令塔MFルカ・モドリッチ(トッテナム)擁するクロアチア……。どこも研究を重ねてスペインに挑んでくるはずだ。果たして、これらの包囲網をかいくぐり、グループリーグ、決勝トーナメントと“無敵”を誇ることはできるのか。それこそがEURO’12の最大の注目点だ。

 対抗のドイツは「死の組」に

 打倒・スペインの最右翼はFIFAランキング3位のドイツだろう。近年、急速に若返りを図ったサッカー大国は、南アW杯では3位に入った。さらにEUROの予選では10戦全勝。そのうち8試合で3ゴール以上を奪い、本大会に駒を進めた。おもしろくて強い。これが現在の“マンシャフト(ドイツ代表の愛称)”である。

だが、そんなドイツも、まずは「死の組」を勝ち抜かなくてはならない。同じグループBにはオランダ(同4位)、ポルトガル(同10位)、デンマーク(同9位)が同居する。どのカードが決勝戦になってもおかしくない組み合わせだ。

 キーマンはMFメスト・エジル(レアル)。世界的強豪であるレアル・マドリードの10番を背負うゲームメーカーだ。
 前身の西ドイツ時代も含め、ドイツには多くの才能溢れるゲームメーカーがいた。ファンタジスタタイプのベルント・シュスター、中盤の底から攻撃を組み立てたシュテファン・エッフェンブルク、そして攻撃的MFとして代表30得点を誇ったアンドレアス・メラー……。エジルも彼らと並ぶ、いやそれ以上の実力を兼ね備えている。南アW杯では最多アシストを記録し、3位の立役者に。W杯後に移籍したレアルでは1年目から中心選手として活躍。今季は20アシストを記録し、4季ぶりのリーグ制覇に貢献した。スキルフルなドリブルや多彩なスルーパスで攻撃を組み立て、時には豪快なミドルシュートでゴールも陥れる。トルコ系の23歳が、マンシャフトの命運を握っているといっても過言ではない。

 若手では南アW杯でブレイクしたMFトーマス・ミュラー(バイエルン)やMFサミ・ケディラ(レアル)、そしてGKマヌエル・ノイアー(バイエルン)らが、さらに成長した。FWミロスラフ・クローゼ(ラツィオ)や主将のDFフィリップ・ラーム(バイエルン)などの経験豊富な選手が脇を固める。中盤の攻撃力だけみれば、スペインに勝るとも劣らない。各ポジションのバックアップメンバーの充実度も申し分ない。

 弱点を挙げるとすれば、若手主体で構成されるDFラインの不安定さだ。先日のスイスとの親善試合は3点を奪いながら、5失点する大味な内容でブーイングを浴びた。CL決勝を戦ったバイエルン・ミュンヘンの選手が不在だったとはいえ、本番へ課題を残した。グループ初戦で当たるポルトガルは、世界屈指の点取り屋クリスティアーノ・ロナウド(レアル)を中心に攻撃的なサッカーを展開する。第2戦のオランダに至っては、大会予選10試合でトップの37得点とナンバーワンの破壊力を誇る。簡単な失点を防ぎきれないようだと、「死の組」は突破できない。

 また、グループステージ最終戦で当たるデンマークは、うって変わって守備のチーム。予選8試合で6失点という堅守から速攻を仕掛けてくる。
 予断を許さないグループBの戦いだが、逆にいえば、ここから勝ち上がれば、短期決戦で重要な「勢い」が手に入る。ドイツに限らず、このグループを通過したチームを侮ることはできない。

 ウクライナの英雄、有終の美へ

 注目選手にはホスト国ウクライナのFWアンドリー・シェフチェンコ(ディナモ・キエフ)を挙げたい。かつてはACミランでセリエAと欧州CLで2度ずつ得点王に輝き、04年度のバロンドールを受賞した同国の英雄である。
 35歳となった現在、全盛期のようなスピードで相手を振り切るプレーは少なくなった。しかし、09−10シーズンの欧州CLではインテルからボレーシュートでゴールを奪うなど、ここ一番の決定力は健在だ。シュートに持ち込む駆け引きの技術は、むしろ向上しているともいえる。フィジカル能力や体格だけでは勝てないのがフットボールの妙。今大会では“シェバ(シェフチェンコの愛称)”の玄人をうならせるプレーにも注目だ。なおシェフチェンコは今大会を最後に現役引退の意向を示しており、地元での晴れ舞台で有終の美を飾りたいところだ。

 ウクライナが属するグループDには、イングランド(FIFAランク6位)、フランス(同14位)、スウェーデン(同17位)が入った。ウクライナは同52位で、ホームアドバンテージを差し引いても決勝トーナメント進出は難しいと見られている。ただ、6年前のドイツW杯ではベスト8進出を果たしたように元々、実力はある。当時の主力に加え、MFアンドリー・ヤルモレンコ(ディナモ・キエフ)といった若手も台頭しており、チームのバランスは決して悪くない。エースの花道を飾るべくチーム一丸となっての旋風に期待する向きは少なくない。

 今回のEUROは現在、W杯最終予選を戦う日本代表にも関わってくる大会だ。11年アジア杯王者の日本は、来年、ブラジルで開かれるコンフェデレーションズ杯に各大陸のチャンピオンとともに出場する。つまり、日本は今回のEURO優勝国とコンフェデ杯で激突する可能性があるのだ。来年、そして2014年のブラジルW杯で日本が欧州の強豪と対戦する姿を想像しながら、スター選手たちの競演を凝視したい。

 EURO開幕戦は初回無料放送!

↑放送スケジュールなど詳しくはバナーをクリック↑

【EURO2012 各グループ第1戦組み合わせ】(放送チャンネルはWOWOW)

<グループA>
○6月8日(金)
・ポーランド × ギリシャ(25:00〜)
・ロシア × チェコ(27:45〜)

<グループB>
○6月9日(土)
・オランダ × デンマーク(25:00〜)
・ドイツ × ポルトガル(27:45〜)

<グループC>
○6月10日(日)
・スペイン × イタリア(25:00〜)
・アイルランド × クロアチア(27:45〜)

<グループD>
○6月11日(月)
・フランス × イングランド(25:00〜)
・ウクライナ × スウェーデン(27:45〜)

 各組2位までが決勝トーナメントに進出。試合開始時刻はすべて日本時間。

※このコーナーではスカパー!の数多くのスポーツコンテンツの中から、二宮清純が定期的にオススメをナビゲート。ならではの“見方”で、スポーツをより楽しみたい皆さんの“味方”になります。
◎バックナンバーはこちらから