日本のプロ野球でもすっかり定着したセ・パ両リーグの交流戦がスタートした。この交流戦、2005年の導入当初からパ・リーグ優位の状況が続いていたが、昨季も福岡ソフトバンクが開幕から10連勝を収めるなどセ・リーグ勢を圧倒。18勝4敗2分けで優勝した。パは全体でも78勝57敗9分と大きく勝ち越し。一昨年もパはセに対して22個もの貯金をつくっており、「パ高セ低」の傾向がより顕著になっていた。

 それでもパが有利?

 ただ、今季に関しては、そろそろセから優勝チームが出るのでは、との見方が出てきている。まずは、以下の数字を見てほしい。
1.和田毅(福岡ソフトバンク) 22勝9敗
2.涌井秀章(埼玉西武) 20勝12敗
3.杉内俊哉(福岡ソフトバンク) 18勝7敗
4.館山昌平(東京ヤクルト) 18勝11敗
5.ダルビッシュ有(北海道日本ハム) 17勝8敗
5.久保康友(阪神) 17勝9敗
 
 これは過去の交流戦での通算勝利数のランキングである(所属は昨季)。トップ3はパの選手が占める。
 勘のいい方はお気づきだろう。ランキングに入っている選手のうち、和田とダルビッシュはメジャーリーグに挑戦し、杉内はFAで巨人に移籍した。また涌井も今季は不調で先発から外れ、クローザーに転向している。セの球団にとっては“天敵”とも呼べる存在が相次いでいなくなったのだから、これはチャンスだ。
 
 さらには昨季の交流戦で4勝をあげた日本ハムのボビー・ケッペルが右肩の故障で離脱し、東北楽天の田中将大(昨季4勝)も腰を痛めて登録抹消中と、セにとっては“追い風”となる要素が多い。これまでセの各球団は、エース級が揃うパを相手に「なんとか5割で」という戦い方だったはずだ。しかし、今季に限っては「貯金をして、あわよくば優勝」というプランを描いているのではないか。

 一方で交流戦自体、そもそもパに有利だと指摘する声もある。それは次のような理由に拠る。パの球団の本拠地は北は札幌、南は福岡まで全国に散らばっている。翻ってセは東京から広島まで。新幹線一本で移動が可能だ。日頃、移動距離が長いパの選手にとって、これはラクだろう。逆にセの選手は慣れない長距離の遠征に少なからず苦しめられる。
「交流戦は移動が大変。しかも2連戦ですぐ移動になるので、ひとつの滞在先でのんびりもできない。試合数が少なくても普段のセ・リーグ同士の対戦より疲れる感じがします」
 あるセの主力選手から、そんなボヤキを聞いたことがある。

 またパの本拠地で採用するDH制もセには悩みの種だ。パはDH制を前提にチーム編成をしているため、いわば指名打者用の強打者を何人か揃えている。しかし、セは普段はピッチャーも打席に立つから、代打の切り札的な存在はいても、DHでの起用を踏まえたチームづくりをしていない。昨年まで中日で指揮を執った落合博満氏も『日刊スポーツ』のなかでDHの難しさをこう述べていた。
<野球をよく知らない人は守備の苦手な強打者をDHで使えばいいと思うだろうが、そんな単純なものじゃない。DHは試合中にティーを打ったりマシンを打ったり、ベンチに座って投手の球筋を見たりと、時間のつぶし方を知らないと難しいポジションなのだ>(5月15日付)

 実際、過去の交流戦でのDHの成績をみるとセは65本塁打、261打点なのに対し、パは86本塁打、307打点。セの球団がDH制をうまく活用できていない点も“パ高セ低”の背景にはあるのではないか。

 野球は6回まで!?

 昨季から導入された低反発の統一球、いわゆる“飛ばないボール”により、日本のプロ野球の風景は“投高打低”に一変した。慣れない投手との対戦が続く交流戦では、その傾向がより顕著になる。昨季のデータを見ると、優勝したソフトバンクのチーム防御率は1.75。12球団トップの数字をマークした北海道日本ハムにいたってはなんと1.35だった。単純計算すれば、1試合平均で2点も取られないのだから好成績を残せるのもうなずける。

 攻撃に目を移すと、多くのチームが同一リーグとの対戦と比較して成績を落としている。なかでも、昨季はヤクルトと巨人がチーム打率.229、広島に至っては同.209と、やはりセの球団の落ち込みが目立つ。広島は昨季の交流戦24試合でわずか46点しか取れなかった。1試合平均2点にも満たないのだから、これは苦しい。

 今季は統一球2年目である。開幕前の私は、劇的に“投高打低”の状況は変わらないにせよ、各打者もある程度は対応し、成績を上げてくるはずと見ていた。ところが、フタを開けると昨季以上に“投高打低”に拍車がかかっている。交流戦開幕前での各球団のチーム打率を見ると、昨季より成績が上がっているのは、中日、日本ハム、千葉ロッテ、楽天の4球団のみ。リーグ全体の1試合あたりの本塁打数もセが1.12本から0.85本、パが1.05本から0.81本と、さらに減少している。春先はどちらかと言えば、ピッチャー優位とはいえ、昨季以上にバッターが苦労するとは思わなかった。

 ここまで“投高打低”が際立つと、驚きの数字も飛び出す。なんと今季、セに限っては、6回までビハインドだったチームが逆転勝ちしたケ―スは108試合中、3回(3月31日と5月7日のヤクルト、5月9日の阪神)しかない。リードされて終盤に突入すると打線にひっくり返す力がないのだ。これでは野球は9回までではなく、「6回まで」と言われかねない。

 この現象は裏を返せば、各球団のブルペン陣が充実している証とも言える。セ首位の中日は絶対的守護神の岩瀬仁紀がいるし、2位のヤクルトも新ストッパーのトニー・バーネットがいい仕事をしている。3位の阪神も藤川球児が健在だ。パを見てもソフトバンクの馬原孝浩、日本ハムの武田久が離脱しているが、その穴を他のピッチャーでしっかりとカバーしている。ロッテでは新人・益田直也と中後悠平のコンビが、それぞれ12ホールドと7ホールドをあげ、首位を走る原動力になっている。

 交流戦は日程が空くため、どのチームも勝ちパターンのピッチャーを早めに継ぎ込みやすい。ただでさえバッターが不利になることを考えると、より先行逃げ切りの試合が増えるだろう。交流戦を制するためには、いかに早く先制点を奪うかが大きなポイントとなってくる。

 流れを変える助っ人の一発

“投高打低”で1点が勝敗を左右する展開になると、怖いのは接戦で飛び出すホームランだ。いくら全体的に一発が減っているとはいえ、一部の外国人は飛ばないボールをスタンドまで軽々と運んでいる。交流戦前のホームランランキングを見ても、ウラディミール・バレンティン(ヤクルト)の12本を筆頭に、ニック・スタビノア(広島)、トニ・ブランコ(中日)、ウィリー・モー・ペーニャ(ソフトバンク)が各8本と上位は全て外国人だ。

 どうしても得点力が落ちる交流戦では、彼らの働きがチームの浮沈を左右するだろう。バレンティンは1年目の昨季も春先は打ちまくったが、交流戦を境に調子が急降下。6月は打率1割台に落ち込み、ヤクルトは交流戦を10勝12敗2分と負け越した。初めての交流戦となるニックとペーニャも各球団が徹底マークしてくるに違いない。2人にとっては真価を問われる24試合になりそうだ。

 逆に不振の外国人にとっては、ここが逆襲のチャンスでもある。打率.216と低迷する阪神のマット・マートンは昨季の交流戦で打率.340をマークした。横浜DeNAのアレックス・ラミレスも過去の交流戦では通算41本塁打(3位)、160打点(1位)の成績を残している。彼らは得意の交流戦で虎視眈々と復調の機会を探っているに違いない。

 ここまで交流戦は“パ高セ低”と書いてきたが、“セ低”の大きな原因となっているのが、広島と横浜の不振である。これまでの通算成績でも広島が75勝110敗7分、横浜が73勝114敗5分。他球団に大きく差をつけられての11位と12位だ。交流戦のつまづきが最終的にリーグ戦で下位に沈む一因となっている。

 この夏は言わずと知れた五輪イヤー。7月後半から8月上旬にかけて、世間の視線はロンドンに釘付けになる。一度離れたプロ野球への関心を呼び戻すには、ペナントレースの盛り上がりが不可欠である。交流戦はもちろん、再開後のレギュラーシーズンをおもしろくするためにも、広島とDeNAの奮闘に期待したいものである。

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