二宮: どうも、お久しぶりです。今回はそば焼酎の長期貯蔵酒「那由多(なゆた)の刻(とき)」をご用意しました。深い話ができれば、と(笑)。
清水: こちらこそよろしくお願いします。お酒は何でも飲みますが、やっぱり焼酎と日本酒が一番。実は地元の帯広の特産品にそば焼酎があるんです。不思議な縁を感じて今日はやってきました。

 引退して増えたお酒の機会

二宮: ということはイケるクチですね(笑)。
清水: いやいや。好きですけど、弱いんですよ。すぐ顔が真っ赤になってしまう……(笑)。

二宮: では早速、乾杯を。最初はロックでいきましょうか。
清水: とてもいい香りがしますね。あぁ、おいしい。コクがあってブランデーみたいな味がします。これも、そば焼酎ですか? イメージが変わりました。

二宮: 北海道出身の方は土地柄かお酒好きというイメージがあります。このコーナーで登場していただいた田中雅美さんも、この「那由多(なゆた)の刻(とき)」をボトル1本空けましたからね(笑)。取材などで、よく北海道に行くのですが、飲みに誘われると、だいたい「もう一軒、いかがですか」とはしご酒になる。外は氷点下なのに、「今晩は暖かいので歩いて行きましょう」と普通に言われますからね(笑)。
清水: アハハハ。北海道の人は、それで酔いを醒ましているんですよ(笑)。

二宮: 現役時代はストイックなイメージがありましたが、その頃はお酒は?
清水: 最初はアスリートである以上、お酒は飲んじゃいけないという考え方でしたね。でも、長野五輪の頃からでしょうか。友人から「たまにはお酒を飲んで、気持ちをリラックスさせたほうがいいぞ」と言われて、少しずつお酒を楽しむようになりました。

二宮: 長野で金メダルを獲った時のお酒は格別だったでしょう?
清水: ええ。何を飲んだか覚えていないくらい、たくさんいただきました(笑)。

二宮: 引退してから、お酒との付き合い方に変化はありましたか?
清水: 明らかに飲む機会が増えましたね。正直に話すと昨日も飲み会(笑)。今日もおいしいそば焼酎をいただけるとの話だったので、早めに切り上げようと思っていたんですけど、なかなか……(笑)。

二宮: アハハハ。聞くところによると飲んでもあまり変わらないそうですね。
清水: 顔は赤くなっても、あまり行動は変わらないと言われます。歌を歌ったり、みんなで盛り上がっていることが多いですね。音痴なんですけど、同じ地元の松山千春さんの曲はよく歌いますよ。

二宮: あまり体型に変化はないように見えますが、トレーニングは続けているのでしょうか?
清水: いえいえ。かなり筋肉は落ちています。現役時代の映像を見ると、よくこんなに筋肉があったなと自分に感心するくらい(笑)。太ももも細くなって、腰回りや背中の筋肉量もガクッと減りました。現役時代に買った服は全部サイズを詰めないと着られませんね。

 スターターを自分のタイミングに引き込む

二宮: さて、ロンドン五輪が近づいてきました。清水さんは4大会連続で五輪に出て、金、銀、銅を1個ずつと輝かしい成績を残しています。五輪で結果を出した選手を取材していると、その共通項として「準備力」というキーワードが出てきますね。あらゆる状況を想定して周到な準備をしているからこそ、本番で最高のパフォーマンスができる。清水さんも、この「準備力」に長けていました。
清水: 僕の場合は1年以上前から本番のシミュレーションをしていました。特に長野の時は日本開催でしたから、会場にもよく通いましたよ。

二宮: 実際に滑って、氷の感触などを確かめると?
清水: それはもちろんですが、常にやっていたのはメンタル面のリハーサルです。観客席に座って、一観客になった気分で客観的に自分を上から俯瞰できるように心がけていましたね。レース後に自分が表彰台の一番高いところに立ち、日の丸が揚がるのを見ている姿だけをイメージしていました。

二宮: 余計な感情やマイナスイメージを頭の中から排除したわけですね。
清水: 五輪に出るレベルになると、選手間に大きな力の差はないんです。トレーニングも積んで、準備もしっかりしている。だから、あとはメンタル面をいかにコントロールできるかの勝負になると感じます。

二宮: なるほど。「準備力」において、一番大切なのは心の準備だと。
清水: 五輪まで「あぁ、今日は充実したなぁ」と振り返れる日々を重ねていくことが重要ですね。それがスタートラインに立った時の自信につながる。「オレはここまでやったんだ」って。そういう精神的な部分を、本番までずっとこだわっていました。

二宮: 当時のスピードスケート界は、かかと部分が外れる「スラップスケート」が登場し、その対応がひとつのポイントになっていました。この靴に対する準備は?
清水: 他の選手が急いでスラップスケートを取り入れるなか、僕はすぐには採用しませんでした。自分の技術であれば、使いこなせる自信があったんです。だから、五輪本番から逆算し、どのタイミングに履けば間に合うかを計算してトレーニングを続けました。

二宮: 以前、お話を聞いて驚いたのは、スターターがピストルを鳴らすタイミングに関するもの。普通の選手はスターターのタイミングに合わせようとするものですが、清水さんはスターターを自分のタイミングに引き込もうとしたとか。
清水: はい。会場でそういった間合いや空気感をつくろうとしていましたね。そして感覚を最大限に研ぎ澄ませる。ピストルの音を聞いて反応するのではなく、その前のピストルの引き金を引く音を聞きとってスタートするんだという意識でいました。このレベルまでいくと、聞くというよりは感じるといったほうがいいかもしれませんが。

二宮: フライングすれすれで一気に飛び出すと。一種の賭けですね。
清水: 確かにそうですね。自分でもよくできたなと感じます。レース前にはスターターがスタートのトライアルをやるのですが、僕はそこには絶対、顔を出しませんでした。スターターのタイミングに自分が合わせてしまうと良くないと感じたからです。

二宮: それでも、うまく合わないスターターもいるでしょう?
清水: 顔も見たくないし、目も合わせたくないというスターターがいましたね(笑)。スタートまでの間があり過ぎて、こちらが先に動いてしまう。特に僕はスタートのタイミングが早いのではないかと目をつけられていましたから、結構厳しかったです。

二宮: 冬季スポーツは欧米中心に動いていますから、体の小さな日本人がトップへ立つことへの抵抗も少なからずあったのでしょう。
清水: ドーピングに関しても、徹底マークされていましたね。身長が小さいのに、筋量が多くて、タイムも出している。それで要注意リストに入ったのでしょう。通常の検査はランダムに選手が選ばれるはずなのに、僕の場合は3レースとか、4レース連続で対象になったこともありました。もちろん、抜き打ちで家に検査官が来たこともあります。

 いいレースほど覚えていない

二宮: ところでロンドン五輪で注目している選手は?
清水: 競泳の北島康介選手は楽しみですね。彼と一番、最初に会ったのは実は飲み会だったんです。まだアテネの前で彼は日体大の大学生でした。まさに学生のノリで明るい子だなと思っていたら、数カ月後には金メダリストになりました。すごい選手が現われたなと驚きましたよ。

二宮: 彼も優れた「準備力」の持ち主ですね。加えていえば、「ピーキング力」がある。4年に1度の大会で必ず自分の状態を最高に仕上げてくる。
清水: おそらく彼も自分を客観視できるのでしょう。それで逆算して準備ができる。しかも、30代間近になって自己記録を更新していますよね。その進化の理由を今度会ったら聞いてみたいなと思っています。

二宮: 清水さんが金メダルを獲得した長野五輪の500メートルのレースはロケットスタートからフィニッシュまで、他を圧倒するスケーティングでした。現役時代を振り返ると、やはり、あのレースが最も印象に残っていますか?
清水: いえ、実はいいレースほど、印象には残らないものなんです。確かに五輪のレースは映像で何度も見る機会がありましたから覚えてはいるのですが、レース直後は「どんな感じだったっけ?」というレベルでした。後から断片的に記憶は蘇りますけど、思い出そうとしても、なかなか思い出せない。反省点があるほうが、逆に思い出すことが多いですね。

二宮: 裏を返せば、それだけレースに集中していた証ですね。
清水: そうだと思います。集中し過ぎて記憶が飛んでいる。ただ、失敗もなく納得した感覚は残っているんです。それだけ目の前のレースに没頭していたんでしょう。

二宮: 「那由多(なゆた)の刻(とき)」、グラスが空きましたね。もう1杯いかがですか。
清水: ぜひ、いただきます。本当に上品な口当たりで、アルコール度数が高いのに飲みやすい。もう顔が真っ赤になっていませんか?(笑)
二宮: いえ、まだまだいけそうですよ(笑)。

(後編へつづく)
※6月26日発売の『自遊人』8月号では、この対談の特別編が掲載されています。こちらも合わせてお楽しみください。

<清水宏保(しみず・ひろやす)プロフィール>
 1974年2月27日、北海道生まれ。幼稚園からスケートを始め、93年にはスピードスケートW杯で初出場初優勝の快挙を達成する。五輪は翌年のリレハンメル大会から4連続出場。98年長野五輪500mで金メダル、1000mで銅メダルを獲得。02年のソルトレークシティ五輪では500m銀メダル。96年に500mで35秒39の世界新記録を樹立すると、以降、01年に34秒32をマークするなど世界記録を4度更新。10年に現役引退。現在はテレビのコメンテーターなどを務めるほか、自身の体験を生かした喘息の啓発活動、スポーツ普及活動にも取り組んでいる。著書に『ぜんそく力 ぜんそくに勝つ100の新常識』(ぴあ)、『プレッシャーを味方にする心の持ち方』(扶桑社新書)。
>>オフィシャルブログ


★今回の対談で楽しんだお酒★[/color]

長期に渡り、樫樽の中で貯蔵熟成した長期貯蔵の本格そば焼酎「那由多(なゆた)の刻(とき)」。豊かな香りとまろやかなコクの深い味わいが特徴。国際的な品評会「モンドセレクション」2012年最高金賞(GRAND GOLD AWARD)受賞。

提供/雲海酒造株式会社

<対談協力>
膳菜や
東京都新宿区市谷八幡町2−1 大手町建物市ヶ谷ビル8階
TEL:03-5261-9751
営業時間:
昼 11:30〜14:30(L.O.14:00)
夜 17:00〜23:00(月〜木、L.O.22:30)
   17:00〜23:30(金、L.O.23:00)
   16:00〜22:30(土・祝、L.O.22:00)

☆プレゼント☆
 清水宏保さんの直筆サイン色紙を長期貯蔵本格そば焼酎「那由多(なゆた)の刻(とき)」(720ml、アルコール度数25度)とともに読者3名様にプレゼント致します。ご希望の方はより、本文の最初に「清水宏保さんのサイン色紙希望」と明記の上、下記クイズの答え、住所、氏名、年齢、連絡先(電話番号)、このコーナーへの感想や取り上げて欲しいゲストなどがあれば、お書き添えの上、送信してください。応募者多数の場合は抽選とし、当選は発表をもってかえさせていただきます。たくさんのご応募お待ちしております。なお、ご応募は20歳以上の方に限らせていただきます。
◎クイズ◎
 今回、清水宏保さんと楽しんだお酒の名前は?

 お酒は20歳になってから。
 お酒は楽しく適量を。
 飲酒運転は絶対にやめましょう。
 妊娠中や授乳期の飲酒はお控えください。

(構成:石田洋之)


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