二宮: 宮下さんはまだ20代なのに、お湯割り好きとはなかなか渋い。
宮下: 親父の影響が大きいですね。小さい頃から親父は晩酌で、よくお湯の焼酎割りを飲んでいました。お酒が飲めるようになった時に、親父が一番に教えてくれたのは、この飲み方なんです。

二宮: お湯割りは香りも立つし、特に冬場は体がポカポカ温まりますね。
宮下: そうですね。一度、僕のマネジャーさんが実家で親父と飲んでいたんですが、水割りばかりだったので、「お湯割りを飲め!」と言われていましたよ(笑)。

二宮: そば焼酎の長期貯蔵酒「那由多(なゆた)の刻(とき)」のお湯割りはいかがですか?
宮下: あぁ、この香りは好きですね。とても、さわやかな香り。焼酎は、まず香りで楽しむものだと思っています。でも、この香りの良さをわかってくれる友達はなかなかいない(苦笑)。

二宮: アハハハ。今後はスポーツキャスター兼焼酎評論家としても活躍できるのでは(笑)?
宮下: そば焼酎は、そばの実からつくるんですよね? この「那由多(なゆた)の刻(とき)」はロックもおいしかったですが、お湯割りはもっといいですね。スッと鼻に抜ける感じがして、おいしさが引き立ちます。

 ドーム型のプールは苦手

二宮: 現役を引退してから本格的に泳ぐ機会は?
宮下: さすがに現役の頃のようにガシガシ泳ぐことはないですね。ただ、空いた時間を見つけて2000メートルくらいは泳いでいます。普通の方のジョギングみたいな感覚ですかね。時々、マスターズの大会にも出ていますよ。大学時代の先輩たちとチームを組んで、半ば同窓会のような感じです。

二宮: でも、いきなりメダリストがマスターズに出たら、みんな驚くのでは?
宮下: 「まだ、マスターズに出るのは早いんじゃないか?」って言われますね(笑)。

二宮: 以前、今回、ロンドン五輪に出場する背泳ぎの寺川綾さんから興味深い話を聞きました。背泳ぎの場合は上を向くので、天井の高さや形状によって泳ぎにくいプールがあると。宮下さんも、そういう感覚がありましたか?
宮下: はい。僕は天井がドーム型のプールが苦手でした。背泳ぎの場合、天井の鉄骨などを目印にしながら自分の位置を把握します。ドーム型は端のスタート地点は天井が低く、プールの真ん中が高くなっていますね。すると、スタート直後はどんどん天井の目印が変わるので、速く進んでいる感覚を受けるのですが、どんどん天井が高くなるにつれ、目印があまり動かなくなるので、前へ進んでいない気分になる。「あれ? 今日は調子が悪いのかな」と不安になってしまいます。

二宮: なるほど。天井の高さが一定のほうがスイマーにとってはありがたいわけですね。
宮下: コース上には5メートル地点にフラッグと、15メートル地点にロープが張られていますが、練習の時にそれ以外にも目標物になるものを決めておきます。必ずチェックするのは中間の25メートル地点の目印。それで「あの鉄柱が見えたら、スパートする」とか作戦を立てるんです。コースによって見え方は違うので、たとえば3コースで泳ぐことが決まったら、必ず練習でも同じコースで泳ぐようにします。

二宮: 北京の会場はいかがでしたか?
宮下: 天井の柱は真っすぐでしたけど、六角形とか八角形とか水の泡をイメージした模様で仕切られていたのが特徴的でした。普通のプールとは違う感覚でしたね。

二宮: 私たちは競技中、水面しか見ませんけど、背泳ぎの選手たちにとっては天井のほうが大事なんですね。背泳ぎでは天井の構造にも目を向けたら、観戦の楽しみが増えるかもしれません。ちなみに屋外のプールではどうするんですか?
宮下: 背泳ぎの選手はロープ以外に目標がなくなるので困りますね。しかも風が吹くと波が立って顔に当たるので厄介です。屋外のほうが開放感があって華やかですけど、どうしてもタイムは落ちますね。

 火山灰で大会中止!?

二宮: しかも雨が降ったりしたら、背泳ぎは大変ですね(苦笑)。
宮下: 雨は勘弁してほしいです(笑)。でも、もっと勘弁してほしいのは火山灰。これは地元・鹿児島ならではの悩みだと思います。

二宮: 確かに火山灰が降っていると、口のなかに入ってしまいますよね(苦笑)。
宮下: それに、視界が遮られて、ひどい時には2、3メートル先も見えない(苦笑)。雨で大会が中止になることはないですが、火山灰で中止は時々ありましたよ。

二宮: 実際に火山灰のなかで泳いだ経験は?
宮下: 僕は幸いなかったですね。ただ、中学の後輩たちが全国大会の予選で、火山灰のなか泳いでいたのを応援に行ったことはあります。日程上、変更が難しくて強行したようですが、本当に大変そうでした。
 実は、その大会には、僕が中学時代に持っていた九州地区の記録を破るんじゃないか、という選手が出ていました。おそらく記録は破られるだろうと思って見ていたのですが、なんと、その選手が火山灰の影響でターンを失敗してしまった……。

二宮: 自然現象だから泣くに泣けないですね。
宮下: 火山灰で視界をさえぎられて、距離感が狂ってしまったようなんです。水が濁って壁も見づらくて手前でターンしてしまった。本人もいつもの感覚では届いていたはずなので、ビックリしたと思います。桜島が噴火しなければ絶対にあり得ないことなので、かわいそうでした。

二宮: 五輪の背泳ぎといえば、印象に残るのはソウル大会の鈴木大地さんの金メダル。背泳ぎを始めたのも、その影響ですか?
宮下: はい。大地さんの金メダルはリアルタイムでは記憶にないのですが、小学生の頃、テレビでスポーツ名場面を取り上げた番組を見て、「僕も五輪に行きたい」と意識するようになりましたね。「同じ日本人で、同じ男子で、同じ背泳ぎで、金メダルを獲った人がいるんだ。もしかしたら、自分でもできるかもしれない」と。

二宮: では、最初から取り組んでいたのは背泳ぎ?
宮下: 競泳を始めたばかりの頃は自由形でした。ただ、あまりセンスがなかった(笑)。同学年でも6番手とか7番手といったところでした。ある時、コーチから「ひっくり返して背泳ぎなら、もっと速くなるかもね」とアドバイスされたのが転向のきっかけです。僕は昔から頑固なところがあるので、もし「自由形は向いていないから背泳ぎにしろ!」と言われていたら、きっと「いや、自由形で頑張ります!」と答えていたはずです。その点ではコーチが自分の性格を踏まえて、うまく話をしてくれたんでしょう。今、僕も子供たちに水泳教室を開く立場になっていますが、言葉のかけ方ひとつで反応が違ってくる。その点はいつも意識しながら教えています。

 高速水着でキックの回数が変化

二宮: さて、前回の北京で話題になったのが、高速水着です。実際に着てみた時の感触はいかがでしたか?
宮下: あの水着を着るとバサロキックの回数を1回半くらい減らさなくてはいけませんでしたね。それまでが12回だったキックを11回にする。その調整が大変でした。

二宮: 現在、バサロ(潜水)泳法は15メートルまで、と決められています。それ以上、潜ると反則になる。つまり高速水着を着たら、少ないキックでより進んだというわけですね?
宮下: そうです。当然、水に潜ったほうが速く進めますから、制限ギリギリまで潜ったほうが有利です。だから本番前には同じ水着を着て何回までならキックしても大丈夫かということを何度も試しましたね。それでキックの回数を決め、五輪での泳ぎをつくりあげていきました。大事なのはスタートだけでなく、たとえば200メートルなら、2度目やラスト(3度目)のターン。ここでもしっかり潜って時間を稼げるかどうかが勝負のポイントになります。

二宮: 高速水着は、どの選手も「着るのが一苦労だ」と言っていましたね。
宮下: これまでは採寸して僕たちの体に合わせて水着をつくってもらって、「着る」という感覚でした。でも、北京の水着は用意してある水着に「自分を入れる」感じでしたね。

二宮: 締め付けが強くて、体が痛いという声も聞きました。
宮下: 女子からは指を水着に通そうとする際に、ひっかかってネイルが取れたと言っていました。そのくらい締め付けがきつかった。泳ぐと表面に汗をかくので脱ぎやすいのですが、着るのは本当に大変でした。北京後は水着素材に制限ができて、もう、あの時の高速水着は使えなくなりました。今は形状に改良を加えて、いかに抵抗を少なくするかを各社が競っている状況です。これまでは体を抑えて、表面積を小さくする方向性だったのですが、近年は魚雷のような寸胴型にして水が真っすぐスッと流れるかたちも追求されています。

二宮: 競泳選手にとって水着は自分の体以外に使える唯一の道具。記録が左右されるだけに、この部分の技術革新は目を見張るものがありますね。なんだか話しこんでいるうちに「那由多(なゆた)の刻(とき)」を1本、空けちゃいましたよ(笑)。
宮下: 本当ですね。でも、このお湯割りは気に入りました。もう少し、お湯をいただいてもいいですか? 対談は終わりですが、お酒はこの先もまだまだ楽しみたいと思います(笑)。

(おわり)
※現在発売中の講談社『大人の週末』6月号では、この対談の特別編が掲載されています。こちらも合わせてお楽しみください。

<宮下純一(みやした・じゅんいち)プロフィール>
 1983年10月17日、鹿児島県生まれ。ホリプロ所属。5歳から水泳をはじめ、鹿児島県立甲南高から筑波大に進学。06年のドーハアジア大会では100メートル背泳ぎ1位。08年4月の日本選手権100メートル背泳ぎで2位に入り、54秒37で選考標準タイムを突破。北京五輪代表に選ばれる。同年6月のジャパンオープンでは50メートル背泳ぎで25秒26の日本記録(当時)を樹立。8月の五輪本番では100メートル背泳ぎ準決勝で53秒69のタイムを出し、日本記録(当時)を更新。同決勝では8位入賞。男子400メートルメドレーリレーでは北島康介、藤井拓郎、佐藤久佳とともにに、日本チームの第一泳者として銅メダル獲得に貢献した。五輪後、現役を引退し、スポーツキャスター、タレントとして活躍している。NHK総合テレビ「あさイチ」で毎週火曜日にリポーター出演。DVD『宮下純一のぐんぐん進む! 背泳ぎテクニック』が発売中。
>>オフィシャルブログ




★今回の対談で楽しんだお酒★[/color]

長期に渡り、樫樽の中で貯蔵熟成した長期貯蔵の本格そば焼酎「那由多(なゆた)の刻(とき)」。豊かな香りとまろやかなコクの深い味わいが特徴。国際的な品評会「モンドセレクション」2012年最高金賞(GRAND GOLD AWARD)受賞。

提供/雲海酒造株式会社

<対談協力>
さくら亭
東京都中央区佃1−11−8 ビアウエストスクエア1階
TEL:03-5580-3321
営業時間:
昼食 11:30〜14:00(L.O.)
夕食 17:30〜21:30(L.O.)
休日: 月曜(すし)、水曜(和食)

☆プレゼント☆
 宮下純一さんの直筆サイン色紙を長期貯蔵本格そば焼酎「那由多(なゆた)の刻(とき)」(720ml、アルコール度数25度)とともに読者3名様にプレゼント致します。ご希望の方はより、本文の最初に「宮下純一さんのサイン色紙希望」と明記の上、下記クイズの答え、住所、氏名、年齢、連絡先(電話番号)、このコーナーへの感想や取り上げて欲しいゲストなどがあれば、お書き添えの上、送信してください。応募者多数の場合は抽選とし、当選は発表をもってかえさせていただきます。たくさんのご応募お待ちしております。なお、ご応募は20歳以上の方に限らせていただきます。
◎クイズ◎
 今回、宮下純一さんと楽しんだお酒の名前は?

 お酒は20歳になってから。
 お酒は楽しく適量を。
 飲酒運転は絶対にやめましょう。
 妊娠中や授乳期の飲酒はお控えください。

(構成:石田洋之)
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