今年1月、史上2校目となる大学選手権3連覇の偉業を成し遂げたラグビー部をはじめ、「箱根駅伝」で活躍している駅伝競走部、日本代表選手を輩出している女子柔道部など、帝京大学には7つの強化クラブがある。いずれも秀逸な成績を挙げ、国内のみならず、世界の舞台で活躍する選手も少なくない。そこで、冲永佳史学長に二宮清純がロングインタビュー。帝京大がスポーツに力を注ぐ理由に迫った。

 3連覇に導いた“風土”

二宮: 帝京大学には強化クラブが7つありますが、なかでも、やはり今年1月の大学選手権で3連覇を達成したラグビー部は帝京大の“顔”とも言うべき存在になりつつあります。
冲永: そうですね。私自身、なかなか伝統校に勝てなかった時代から試合を見てきていることもあり、「よくここまで頑張ってくれたな」という思いがあります。

二宮: 優勝する前の苦悩の日々を知っているからこそ、感慨もひとしおだったと?
冲永: もちろん、当事者たちの気持ちを奥底まで知ることはできませんが、それでも監督や選手と接する中で、なんとなく感じるものはありました。特に岩出雅之監督にとっては、相当根気のいる作業の積み重ねだったのではないかというのは想像に難くありません。3連覇を成し遂げたこと以上に、多くの苦労を乗り越えて、ここまできたということが素晴らしい。だからこそ、我々にも勇気を与える存在になっているのだと思います。

二宮: 岩出監督が最も大事にしているのが、チームの「風土」です。
冲永: 岩出監督が長い時間をかけて育ててきた「風土」がチームに浸透してきたことが、今のラグビー部の強さであり、結果に結びついているのでしょう。逆にそれがなければ、4年というタイムスパンの中で選手が入れ替わる大学スポーツにおいて、3年も連続で優勝する戦力を整えることはできません。

二宮: 岩出監督の指導については、どんな評価をされていますか?
冲永: 単に精神論だけで物事を語ったりせず、きちんとロジックを組み立てて答えを導き出していますよね。加えて、その答えが非常に明確でわかりやすい。ですから、安心してお任せしているんです。

二宮: ずっとラグビー部を取材させてもらっていますが、キャプテンだけを見ても、年々、質が上がってきているなと感じます。
冲永: 私から見ても、最近のラグビー部にはキャプテンはもちろん、本当に頼もしい学生が多いなという印象ですね。岩出監督の下、ラグビーというスポーツを通して人間形成がしっかりとなされている証でしょう。それは学生スポーツの意義という視点から見ても、非常に重要なことですし、帝京大の誇りです。

 “競技性”と“伝統”の融合

二宮: 2019年にはラグビーW杯が初めて日本で開催されます。当然、帝京大学の黄金期を築き上げてきた選手たちには日本代表に入るチャンスがあります。
冲永: そうであれば、嬉しいですね。世界と戦うには、日本が越えなければならない高いハードルがいくつもあります。そのための重要な要素として、帝京大出身の選手が果たす役割は大きいのではないかと思っています。

二宮: さて、今シーズンは史上初の4連覇がかかっています。達成すれば、大学ラグビーの歴史を塗り替えることになりますね。
冲永: ラグビー部は毎年、「前年のチームを越える」ことを目標にチームをつくっています。他校がどうというよりも、その目標を達成しさえすれば、自ずと4連覇が見えてくるのでは、と思っています。

二宮: 帝京大学はラグビー部以外のクラブも目覚ましい活躍をしています。女子柔道部は谷亮子さんを始め、何人もの日本代表選手を輩出してきました。今夏のロンドン五輪には卒業生の松本薫選手が57キロ級に出場しますね。
冲永: 松本選手は今も帝京大の道場に練習に来ているんです。学生たちにとっては、大きな刺激になっていると思います。昨年、警視庁柔道部で指導されてきた矢嶋明新監督が就任しました。これまでの伝統を継承しながら、新たな歴史をつくりあげていってくれることでしょう。

二宮: 駅伝競走部は、大学スポーツの華である「箱根駅伝」に5年連続(13回)で出場しています。
冲永: 私も毎年、応援に行くのですが、学生が懸命に走る姿を見ていると、心を熱くさせられます。先月に行なわれた「関東学生陸上競技対抗選手権大会」では、自己ベストを記録する選手が多く出ました。ここで得たポイントは、今秋の箱根駅伝予選会の際、インカレポイントとして計上されるんです。きっと、今年も出場権を得てくれることでしょう。

二宮: 帝京大は競技としての強化に力を注ぐ一方で、伝統武道を大事にしています。
冲永: 帝京大では開校以来、武道に力を入れてきました。現在、八王子キャンパスでは今秋完成予定の「新武道館」(仮称)を建設中です。そこでより一層、稽古に励んでもらい、技を磨くことはもちろんですが、人間形成の場にもしてほしいと思っています。

 スポーツは“身体”と“頭”で汗をかく

二宮: 昨年、半世紀ぶりに「スポーツ基本法」が改正されました。今後は競技スポーツに限らず、伝統武道、医療、健康福祉を一体化させたスポーツ政策を推進させていかなければいけません。その意味では、競技スポーツ、伝統武道の両面に力を入れ、さらに医学的知見も兼ね備えた帝京大が果たす役割は大きいのではないでしょうか。
冲永: 今後、ますます高齢化が進むことを考えれば、高齢者の身体機能をどれだけ維持していくかということも重要になってきます。そのための要素としてスポーツは不可欠であり、スポーツをさらに国民の間に浸透させていく体制を構築していくことが進められていくようになるでしょう。そこで我々はどういうことができるか、逆に既に持ち合わせているものは何なのかを検証しながら、取り組んでいきたいと思っています。

二宮: 地域に密着した活動も重要になってくると思います。帝京大では既に、地域と連携した活動が積極的に行なわれています。
冲永: 剣道部やラグビー部など、地域で教室を開いて、指導者育成と子どもたちへの技術指導を行なっています。少しずつではありますが、地域への貢献活動ができつつあるかなと感じています。

二宮: 昨年3月の「東日本大震災」以降、人と人との結びつきが強まる傾向にあります。「絆」という言葉がよく使われていますが、まさにその「絆」を深めるのにスポーツは欠かすことはできません。その意味では、帝京大が行なっている地域での活動は非常に意義深いことだと思います。
冲永: ありがとうございます。子どもたちの体力向上も大事ですが、スポーツを通してコミュニケーション能力が育まれることも重要だと考えています。そういう点では、地域への貢献活動が実を結びつつあるのかなと感じているところです。

二宮: 震災の被害に遭った帝京グループの一つ、福島県の帝京安積高校の和太鼓部が、今春の帝京大学グループの入学式で演奏したそうですね。これも「絆」の一つではないでしょうか。
冲永: 帝京安積高は震災で校舎の3分の2ほどが損壊しました。校庭にプレハブの教室を建て、5月の連休明けには授業を再開することができました。こうした不自由な状況下で、生徒たちの間には自分たちのやれることを精一杯やろうという雰囲気が徐々に広がっていったそうです。その一つとして、和太鼓部が一生懸命に練習しているということを聞き、入学式で演奏することを提案しました。広い日本武道館で1万人を目の前にして、生徒たちはかなり緊張したようですが、それでもしっかりと演奏してくれました。まさに日々の練習の賜物。努力の積み重ねで磨かれた技は、やはり人の心を動かしますね。入学式後、多くの方から「感動した」という声をいただきました。既に「来年もやってください!」という人までいたほど、大きな反響がありました。

二宮: 最後に、帝京大学が目指すスポーツの未来ビジョンについて教えてください。
冲永: スポーツというのは身体だけでなく、頭でも汗をかくものだと私は思っています。ともすると、競技性の部分だけが強調されがちなのですが、スポーツは決してそれだけではありません。「精神鍛練」「マインド強化」「柔軟な思考回路の形成」にも重要な要素である、というのが帝京大のスポーツに対する姿勢だと考えています。



(斎藤寿子)
◎バックナンバーはこちらから