日本最大規模のトライアスロン大会「アイアンマン70.3 セントレア常滑Japan」が6月24日に開催される。約1700人の参加者が、スイム1.9?、バイク(自転車)90.1?、ラン21.1km に挑むのだ。トップ選手でもフィニッシュタイムは4時間。制限時間8時間の長い戦いで、愛知県常滑市がトライアスロン一色に染まる。
(写真:長時間のレースだけにゴールの喜びはひとしお)
 トライアスロンは現在国内に約280大会あり、ここ数年は増加傾向にある。しかしこの規模の参加者が、街中を走る大会というのはほとんどなく、代表的なものは横浜市で開催されている「世界トライアスロンシリーズ横浜大会」と、この「アイアンマン70.3」くらい。その横浜大会は、参加者総数1400人、競技距離が「オリンピックディスタンス」と言われる長さ(スイム1.5?、バイク40?、ラン10?)で、コースも街中の一部を周回する設定となっている。
(写真:アイアンマンレースのスタート)

 しかし、この常滑の場合は距離が長いのはもちろんバイクコースが完全に街を取り囲むような設定で、街すべてがトライアスロンモードにならざるを得ない状況となっている。そのために、主催者である行政を中心に住民への説明が必須だ。何十回という説明会を各所で根気強く開催し、その成果か住民の間でこのスポーツに対する認知度は高い。大会後の住民に行ったアンケートでも8割以上が開催に対して前向きな意見を残している。そんな状況だからこそ、ここまで街を取り込んでの開催が可能というわけだ。

 トライアスロン大会ではまず道路使用に関して、一般交通や地元住民との調整が問題となる。これに関しては常滑において上記のように少しずつ相互理解を深めてきている。さらにもう一つは、ボランティアの問題がある。大会は受付からコース上まで多くの人手が必要であり、それをボランティアで補っているケースがほとんど。つまり選手が頑張れる裏側には多くの人の支えがあるのだ。この常滑ではボランティア総数1400人。この人たちがいくつかの役割を担って頑張ってくれているため、延べ人数では軽く2000人を超えてしまう。通常このような大きなイベントの場合は、自治会や婦人会などの団体に依頼をし、組織動員をかけるというケースが多い。そうしなければまとまった数を集めることが難しいからである。しかし、この常滑の場合は組織動員ゼロ。基本的には公募のみで集められているというから驚きだ。
(写真:裏方の支えがあって大会は成立する)

 また、先日はボランティアを対象にエイドステーションでの給水の渡し方講習が開催された。これはボランティアに参加予定の方から「昨年上手く渡せなかったから、ぜひ練習しておきたい」という声に応じて大会事務局が開催したものだ。つまり、昨年もボランティアを行った人がリピーターとして戻ってきて、さらには向上心を持って積極的にかかわってきてくれているということでもある。
(写真:ボランティアのサポートで選手は走り続けられる)

 こんなエピソードもあった。例年、運動公園で選手のバイクを受け取るボランティアの役割を常滑高校の生徒たちがやっていてくれていた。しかし、今年は大会が試験期間中にあたってしまいボランティアをすることができない。大会側も頭を抱えていたのだが、なんと高校の教職員とPTAの有志がボランティアを申し出てきてくれたのである。「生徒ができないお手伝いを教職員が」というのは、聞こえ方によってはちょっと本末転倒な感じもするが、「自分たち地元が大会を支えているんだ」という意思が感じられる粋な計らいには拍手を送りたい。来年はその教職員や親の奮闘を知った子供たちの、汗を流す姿が見られることだろう。

 開催3年目にして、地元にすっかり理解され、受け入れられた「アイアンマン 70.3」。昨年、この大会を走った選手たちが「地元の方々の応援が嬉しかったです!」と語っていたが、今年もそんな光景がコースで繰り広げられるのであろう。また「大会で私たちが元気になるんです」と言っていたボランティアのご婦人の顔を思い出す。スポーツを通し、走る人も、支える人も皆が元気になれる時間。これを共有できたなら、どんな経済資産よりも大きいのかもしれない。
(写真:ギャラリーの声援が選手の力になる)

白戸太朗(しらと・たろう)プロフィール
 スポーツナビゲーター&プロトライアスリート。日本人として最初にトライアスロンワールドカップを転戦し、その後はアイアンマン(ロングディスタンス)へ転向、息の長い活動を続ける。近年はアドベンチャーレースへも積極的に参加、世界中を転戦している。スカイパーフェクTV(J Sports)のレギュラーキャスターをつとめるなど、スポーツを多角的に説くナビゲータとして活躍中。08年11月、トライアスロンを国内に普及、発展させていくための新会社「株式会社アスロニア」の代表取締役に就任。『仕事ができる人はなぜトライアスロンに挑むのか!?』(マガジンハウス)が発売中。
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