小よく大を制す、柔よく剛を制すと言えば、現役時代の舞の海の代名詞だった。1991年の九州場所で、のちに横綱となる曙を内掛けで下した一番はそのハイライトといっていいだろう。
 体重差、実に103キロ。舞の海はフェイントをかけて巨体の下に潜り込み、三所攻めを仕掛けて曙を揺さぶった。198キロを倒すための練りに練った作戦だった。
 相手の変化に対応できず、前のめりにバタンと倒れても「前に出ていましたね」「いい立ち合いでした」などと十年一日のごとき凡庸な解説を繰り返す評論家や親方衆が多いなか、著者はいつも示唆に富んだコメントを口にする。
 たとえば、ある力士がはたき込みで勝ったとする。「安易にはたくものではない」と例外なく批判されるのは勝者だ。しかし、と考える。足がついていかず、あっけなく土俵に手をついてしまう側に責任はないのか。舞の海は「稽古不足による足腰の弱さこそが問題」と喝破する。
 こういう御仁にこそ力士の育成を任せてみたい。だが大相撲の世界では一度、廃業した者は二度と協会には戻れない。角界の旧態依然とした体質にも“物言い”を付けている。 「土俵の矛盾」 ( 舞の海秀平著・実業之日本社・1400円)

 2冊目は「サウスポー論」( 和田毅・杉内俊哉著・KKベストセラーズ・1300円)。 1点差ゲームの終盤、1死二塁、絶好調の打者を迎えたら何を投げる? 切り口が具体的ゆえに球界を代表する2人の左腕の思考がより鮮明に浮かび上がる。

 3冊目は「準備する力」( 川島永嗣著・角川書店・1300円)。サッカーのGKは求道者タイプが多い。今や日本代表の守護神となった著者も例外ではない。セルフマネジメントの方法や独自の語学習得術は大いに参考になる。

<上記3冊は2011年11月16 日付『日本経済新聞』夕刊に掲載されたものです>
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