新聞を読んだヨメが朝からご立腹である。
「男子がビジネスなのになでしこがエコノミーってどういうことなのよ!」
原因をつくったのは17日付のスポニチだった。
「日本サッカー協会の規定により、羽田空港からシャルル・ドゴール空港まで同便だった男子代表はビジネスクラスで、なでしこジャパンはプレミアムエコノミークラス――」
厳密に言うとなでしこたちが乗ったのはエコノミーではなくプレミアムエコノミーだったのだが、ヨメの怒りは収まらない。ここは「確かにちょっと理不尽だな」ともっともらしく相づちを打っておくことにする。
だが、相づちを打ってから思い出したことがあった。
“あれ? 北京の時って男子もエコノミーじゃなかったっけ”
確か、ビジネスに乗れるのは監督など一部のスタッフだけ――そんな話を「選手がエコノミーなのに、俺らだけビジネスってのも、なあ」と自らもエコノミーに乗っていた反町監督から聞いた記憶がある。
そもそも、ほんの一昔前まではA代表の選手だってエコノミーでの移動が当たり前だった。長身の選手にとっては結構な負担だったはずだが、それでも、ビジネスに乗りたいなんて声は聞いたこともなかった。発想からしてなかった、というのが本当のところだろう。
サッカーを離れれば、日本の場合はほとんどの競技で、以前としてエコノミーでの移動が常識である。資金繰りが苦しいマイナー競技はもちろん、テレビ放送があり、注目度も高い競技の選手もおしなべてエコノミー。彼らが獲得した視聴率と、それにまつわるお金はどこに消えてしまうんだろうとも思うが、ともあれ、これが日本のスポーツ界の現実でもある。
だとすると、わがヨメの怒りを買ってしまったとはいえ、日本サッカー協会は相当に頑張っていると言えるのではないか。
裏方を始めとする多くのスタッフなしでは存在しえないとはいえ、スポーツの主役はやはり選手。にもかかわらず、日本では主役に忍耐を強い、監督やコーチは快適という図式が常識として成り立ってしまっていた。欧米のやり方すべてが正しいというつもりはないが、この件に関しては明らかに日本の方がおかしい。だが、少なくともサッカー界では、できる限り主役たちに快適な環境をという哲学が染み渡ってきている。それゆえの、エコノミーではなくプレミアムエコノミー……なんだろうが、ヨメは納得してくれそうもない。
ロンドンの結果次第とはいえ、やっぱり、今後は男女平等がよろしいのでは、と恐妻家としては思うのである。なでしこを巡る活況が続くのであれば。
<この原稿は12年7月19日付『スポーツニッポン』に掲載されています>
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