二宮: どうも、お久しぶりです。八木沼さんに初めて会ったのはカルガリー五輪の後。早いものでもう20年以上前になりますね。
八木沼: 雑誌の取材で品川プリンスに来てくださったのを覚えています。すごく昔のような、ついこの前のような不思議な気分ですね。

二宮: 14歳で五輪に出場して、まだ10代なのにしっかりしているなという第一印象でした。あの頃から良い意味で変わっていない。
八木沼: いえいえ(笑)。あの頃は顔がパンパンで、髪もポニーテールでしたからね。当時の写真を見るとお恥ずかしい限りです……(苦笑)。

 相撲部屋でどんぶりのお酒を飲み干す!?

二宮: ところでお酒はかなり強いと聞きましたよ。アイスショーが一段落すると、空いたワインボトルを並べてボーリングができるくらい飲まれるとか(笑)。
八木沼: お酒は好きですが、さすがにそんなには飲めませんよ(笑)。それは20人くらいで打ち上げをした時の話ですね。何だか話がひとり歩きして、いつの間にか尾ひれがついて広まってしまいました(苦笑)。

二宮: 今日はそば焼酎「雲海」をご用意しました。焼酎はよく飲みますか?
八木沼: はい。近所に行きつけの宮崎地鶏のお店があって、そこにたくさん焼酎が置いてあるんです。芋も麦もそばも地鶏と一緒にいただたり。

二宮: 好きな飲み方は?
八木沼: 一番はロックです。そば焼酎はすっきりして爽やかな香りが楽しめますから、ロックに合いますね。

二宮: さすがツウですね(笑)。では、最初の一杯はロックでいきましょうか。せっかくですので、お酒にまつわるエピソードを。
八木沼: アマチュアを引退してスポーツキャスターのお仕事を始めた頃のことです。当時は大相撲の取材も多く、相撲部屋の朝稽古にも行きました。ディレクターから「“どうぞ、ちゃんこを食べていってください”と誘われたら、絶対に断っちゃいけないからね」と事前に言われていたので、稽古後、ちゃんこをごちそうになったのですが、「八木沼さんはお酒を飲みますか?」と聞かれ、「はい」と答えたら、どんぶり鉢に日本酒が注がれて出てきました(笑)。

二宮: 相撲部屋では、それが普通の飲み方ですからね。でも、いきなり出てくるとビックリするでしょう?
八木沼: 驚きましたよ(笑)。でも、ディレクターから「断っちゃいけない」と注意されていたことがずっと頭にあったので、「いただきます」と全部飲み干しました。断ったり、残したら失礼だと思ったので(笑)。

二宮: それはスゴイ(笑)。
八木沼: 「ありがとうございました」ってどんぶり鉢を置いたら、ちょっと周りは呆気にとられていましたね(笑)。

 利き腕と回転の不思議な関係

二宮: 八木沼さんは5歳からスケートを始めていますが、当時から五輪を目指していたのですか?
八木沼: 全く考えていませんでした。普通の習いごとと一緒の感覚です。最近、スケート教室などで子供たちを教えていると、保護者の方の理想の高さには感心させられます。始めた段階から将来のトップスケーターを意識されていますからね。よく「フィギュアスケートはお金がかかるから……」と心配されますが、それは本格的にクラブに入り、選手クラスになってから。スケートを楽しむ分には、誰でも気軽に始められる競技だと思っています。

二宮: フィギュアスケートを見ていて、いつも感心するのはスピンの速さと美しさ。素朴な疑問ですが、あんなに回転すると、さすがに目が回りませんか?
八木沼: 毎日滑っていて慣れてしまうと、三半規管が鍛えられるのかあまり気になりませんね。ただ、1週間くらい練習の間隔が空くとスピンをした時に目の前に星が飛ぶような感じになることはあります。スケートに限らず、遊園地のコーヒーカップに乗るのも大丈夫です。むしろ余計にどんどん回しちゃう(笑)。

二宮: アハハハ。でも利き腕や利き足があるように、スピンにも左回りと右回りで得意不得意があるのでしょうね。
八木沼: 基本的に左利きの人は右回転のほうが回りやすく、右利きの人は左回転のほうが回りやすい傾向があるようです。私は左利きだったので、最初、右回転のほうが得意で、左回転のほうがほとんどできませんでした。

二宮: へぇー、そんな相関関係があるとは……。
八木沼: でもフィギュアスケートの世界では左回りが正回転と呼ばれて、みんな、いわゆる反時計回りでジャンプを飛びますね。選手は左回り右回りのスケーティング・ステップも練習しますので、ジャンプ以外両方ともにできます。もちろん競技中は左でも右でも回転の方向に制限はありません。海外の選手など右回転のスケーターをよくみかけますよね。どちらで回っても問題はないんです。
 ところが、リンクで一斉に練習する時に困ってしまう。みんなが左回転で滑っているなかで右回転の選手がいると、逆方向になるのでぶつかってしまう危険が通常より高まるんですね。そういう事情もあって、最初から左回りで教えることが多いようです。

二宮: ということは左利きのほうが左回転が苦手ですから、フィギュアスケートでは不利になりませんか?
八木沼: 慣れれば特に苦にはなりません。ただ、右回りのほうがもともと得意だったので、そのまま右で回っていれば、“3回転ジャンプとか、さらにクルクルできるようになっていたかなぁ!?”と思うことはありますね。

二宮: もし右回りを貫いていたら、五輪でメダルが取れていたかもしれない。
八木沼: ハハハ。そう思いたいですね。夢は夢のままにしておきましょう(笑)。一方で左回りを一から教わったことで、ちゃんとしたフォームを覚えられたのかも、と感じることもあります。ヘンなクセがつかなかったから、高いレベルで演技できるようになったとプラスに考えることもできますね。

 “一言”の重要性

二宮: フィギュアスケートの場合、成功するかどうかは本人の才能に加え、コーチとの相性も大きいような気がします。コーチとの関係がうまくいかなくて伸び悩んでいる選手も少なくない。
八木沼: 私も生意気な選手だったので、他人のことは言えませんね(笑)。反抗期もありましたし、先生はかなり苦労したと思いますよ。ただ、昔は選手の才能に賭けて、コーチとの二人三脚で強くする方法だったのが、最近はチームで育てる方法に変わりつつあると感じます。練習するリンクを確保する大変さはありますが、トレーナーや栄養士のサポート体制も充実してきて、選手たちにとっては成長しやすい環境が整ってきていますね。

二宮: とはいえ、まだコーチの占めるウエイトは大きいのではないでしょうか。八木沼さんにとって、どんな関係が理想の師弟と感じますか?
八木沼: やはりお互いに尊敬し合っている関係ですね。教える側も生徒を親御さんから預かって育てるわけですし、「この子は絶対伸びる」という思いと気持ちを込めて生徒と向き合います。教わる側も「この人を100%信じてついていきます」とならないと一生懸命、練習に打ち込めない。本物の恋愛とまではいかなくても、お互いにお互いを認め合うような師弟愛と言いますか、“疑似恋愛”的なところはある程度必要かもしれません。

二宮: 確かにひとつの目標に向かって家族以上に同じ時間を過ごしますから、恋人同士の関係と重なる部分も出てくるでしょうね。だからこそ、ささいなことで関係が崩れやすい……。
八木沼: コーチにとって難しい部分はあるでしょうね。当然、選手といい関係を構築しているコーチには、他からも指導のオファーが来る。いろいろな選手を受け持っているコーチも多いですが、新たに受け入れると、もともとの選手との関係がこじれることが少なからずある(苦笑)。

二宮: いわゆる、“やきもち”ですね(笑)。
八木沼: 男子でもありますが、女子同士の場合は特にそうなりやすいかもしれないですね。“自分の先生”だと思っていたのに、別の選手が入ってきて指導されると、どうしても“嫉妬”に近い感情が湧いてくる。同じくらいのレベルの選手同士になると大変でしょうね。

二宮: 事前に選手の気持ちをケアする作業が必要になると?
八木沼: 知り合いのコーチに聞いても、その点はかなり気を遣っているようですね。たとえば、新しい選手を受け入れる前には、必ず、もともと担当していた選手本人と直接話をして事情を説明する。「あなたが一番の生徒なのは変わらないからね」と考えをちゃんと伝えることもするそうです。

二宮: なるほど。まさに“恋人”に対するような細やかな心配りが求められるんですね。
八木沼: 選手にしてみれば、その一言があるかないかで、気分がだいぶ違いますね。いくら信頼しているコーチとはいえ、“お互いの気持ちは分かるだろう”と思っているだけではうまくいかない。私自身が選手の時に、実際にコミュニケーションが不足して、関係が離れてしまったケースもいろいろ見てきましたから。それは選手からコーチに対してもしかり。ささいな言葉かもしれないけど、その後、気持ちのいい関係をずっと続けられるかどうかは大きく変わってきます。

二宮: 一言、声をかけるかどうかが大事というのは私たちの日常でも当てはまりますね。
八木沼: 夫婦生活にしろ、友人との関係にしろ、仕事にしろ、ちょっとしたコミュニケーションで変わってくる。フィギュアスケートの師弟関係を見ていると、その大切さを改めて感じます。

 セカンドキャリアの道を示せた

二宮: 最年少で五輪に出場して以降、世間からはアイドル的な見方もされていました。それゆえに今だから言える悩みもあったのではないでしょうか。
八木沼: たくさんの方に応援していただいたのは、とてもありがたかったのですが、確かに当時の私の中では、そういう見方でしか見てもらえないのかなという残念な思いがありました。いい成績を収めたとしても「八木沼はスタイルがいい」とか、「まとまっている」とか、見た目の印象でしか語られない。演技そのものに対する評価をしてほしいという気持ちはありました。まぁ、性格的にもあまり悩み過ぎないタイプだったので、切り替えては臨んでいましたが……。

二宮: 残念ながら五輪出場は1回だけでしたが、アマチュアを引退後はアイスショーの出演はもちろん、メディアを舞台に幅広く活躍されています。八木沼さんの活動がフィギュアスケート界にもたらせたものは大きいのではないでしょうか。
八木沼: どこまでできたかは分かりませんが、フィギュアスケートの選手たちのセカンドキャリアとして、いろいろな道があることを示せたかもしれません。それまでのフィギュアスケート界では一部の方を除いて、アマチュアを辞めたら普通に学校を卒業して就職したり、結婚して家庭を持つといった道が普通でしたから。

二宮: 八木沼さんといえば、ニュース番組のスポーツキャスターとして、いろんな競技を取材している姿が印象に残っている方も多いと思います。
八木沼: サッカーのJリーグも盛り上がっていましたし、プロ野球では長嶋茂雄さん、王貞治さん、野村克也さんと個性的な方が監督をしていた時期でしたからね。プロ野球のキャンプに行って、長嶋さんを追いかけて直撃インタビューをしたり、まだ現役だった落合博満さんに話を伺ったり、楽しかったです。私の場合、五輪のメダルを獲ったり、世界チャンピオンになったわけではありません。それでも評価していただき、ニュース番組のスポーツキャスターのお仕事をいただいてメディアの世界に入ることもできました。もし競技で最高の結果を残せなくても、他にも自分を生かせる場所があるかもしれない。今はいろんな分野で活躍している元アスリートもいますし、その可能性を示せた点は、ひとつ良かったのかなと感じています。

二宮: 当時はまだ日本ではアイスショーが今ほど一般的ではなかったと思いますが、この道に進みたいと思ったきっかけは?
八木沼: フィギュアスケートを始めてすぐ、小学1年生の時に観たショーがきっかけですね。これは本当に衝撃的でした。当時から私を指導していただいている福原美和先生や、佐野稔さん、浅田真央ちゃんを教えている佐藤信夫コーチなどが出演していて、暗闇の中、スポットライトを浴びながら、きらびやかな衣装で音楽に合わせて回ったり、大きなジャンプを飛んだりする。「夢みたいな世界だなぁ」と純粋に憧れを抱きました。小さい時から踊ることは好きだったので、将来、機会があれば出てみたいなという気持ちはずっとありましたね。

二宮: 実際に念願のアイスショーに出演した時は最高の気分だったでしょう。
八木沼: 本当に楽しかったですね。もちろんアマチュアの競技会での緊張感も独特で刺激的だったのですが、またプロの世界では違うおもしろさに気づかされました。アマチュア時代は決められた目標に向かって、毎日、練習を繰り返して追求していく感覚でしたけど、プロは自分たちでいろいろと考えながら、お客様を楽しませるためにショーをつくりだしていく。アマチュア時代に縛られていたものから完全に解き放たれたような気分になりました。ショーや練習が終わって、一緒に出演する先輩方とお酒を楽しむ場が、人との繋がりを強めたり、新しいアイデアを発見する場となったりして楽しかったですね。

二宮: では、アイスショーを通じてお酒の楽しさも覚えたと?
八木沼: はい。先輩方にお酒の大好きな方が多かったので、いろいろ教えていただきました。

二宮: 気づけばグラスが空いていますね。そば焼酎「雲海」のロックはいかがですか。
八木沼: 飲みやすくておいしいです。そば焼酎は体にもいいですし、どんな食事にも合いそうですよね。お肉でもお魚でもおいしくいただける感じがします。これはスイスイおかわりしてしまいそう……(笑)。

(後編につづく)

<八木沼純子(やぎぬま・じゅんこ)プロフィール>
1973年4月1日、東京都出身。5歳からスケートをはじめ、世界ジュニア選手権で2位に入るなど早くから国際大会で活躍。88年に全日本選手権初出場で2位に入り、最年少の14歳でカルガリー五輪に出場する。93年にはアジアカップ、冬季ユニバーシアードで優勝。94年のNHK杯では3位。95年プロに転向後はプリンスアイスワールドのリーダーとしてアイスショーに出演する傍ら、フィギュアスケートの解説、各種メディアでのスポーツキャスター、 コメンテーターとしても活動している。現在はBSフジ「アスリートの力」(毎月最終金曜日)にレギュラー出演中。
>>公式ブログ

★今回の対談で楽しんだお酒★[/color]

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◎クイズ◎
 今回、八木沼純子さんと楽しんだお酒の名前は?

 お酒は20歳になってから。
 お酒は楽しく適量を。
 飲酒運転は絶対にやめましょう。
 妊娠中や授乳期の飲酒はお控えください。

(構成:石田洋之)
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