龍谷大平安高の高橋大樹なら見たことがある。今夏、甲子園に出場したチームの4番打者だ。強打者という前評判だったが、とにかく豪快にバットを振る、という印象が強い。

 とはいえ、まさかドラフト1位とは。しかも、我が広島カープの。
「えっ! ってホンマにビックリです。1位になれる選手じゃないですから」
 というのが高橋の指名後の第一声だそうだ。正直な感想だろう。むしろ、その次の言葉に注目しておきたい。

「この先、ずっとホームランを打てるとは思わない」
 少なくとも甲子園で見せた彼のスイングは、全打席ホームランを狙っているのではないかと思うくらい豪快なものだった。おそらくは、金属バットで飛ばしてきたんだろうな、と容易に想像がつくスイングというべきか。

 高校生野手がプロに入って最初にぶつかるのが、この金属と木製のバットの違いである。私が堂林翔太を1年目からムキになって注目し続けたのは、彼のスイングは珍しく高校時代から木製バットでも通用する軌道だったからである(中日の高橋周平もそうですね)。ただし、むしろこちらのほうが例外である。

 とすると、常識的には、高橋は金属と木製の壁に苦しむことになるだろう。だからこそ、彼の2番目の言葉に注目したいのだ。

 ずっとホームランを打てるとは思わない、と自分で判断できるということは、木製バットの世界に対応していく心の準備ができている、と受け取れる。せっかくのドラ1、なんとか成功してほしいものだ。

 今年のドラフトには去年の野村祐輔のような即戦力はいない。ならば、ひとり覚えておきたい選手がいる。

 育成ドラフトの1位投手、辻空である。

 実は私は辻を見たことがない。インターネットで検索すれば、動画で見られるかもしれないが、あえてしないでおく。そして、まだ見ぬ夢を語っておくことにする。

 まず、名前がいいですね。つじ・そら。菊池雄星よりもいいな。

 岐阜城北高で、今夏、県大会ベスト8だそうだ。資料にはこうある。
「右投右打。MAX146キロ。柔軟なフォームから投げおろす」

 投手で重要なのは、“柔軟なフォーム”である。それから、少なくとも若いうちは、上から下へ投げおろしてほしい。できれば長身細身であってほしい。辻は184センチ、77キロ。条件を満たしているではないか。
 
 ついでにいえば、近年、中部地区では、堂林(中京大中京高)、菊池涼介(中京学院大)とドラフトの成功例がある。3年後、いや2年後、まだ見ぬ辻空を1軍のマウンドで見てみたい。

(このコーナーは二宮清純と交代で毎週木曜に更新します)
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