二宮: 今年はJリーグが開幕して20年目。日本サッカーリーグ(JSL)がプロ化すると知ったのはいつ頃ですか?
北澤: Jリーグ開幕の3年前、1990年ですね。当時は本田技研工業(現Honda FC)に在籍していて、ブラジルへ留学していました。プロ化するということを聞いた時はただただ驚きました。


二宮: しかし、本田技研はプロ化しないことを表明しました。
北澤: 本田技研でプロになりたいという思いはありましたが、会社の方針で決まった以上は仕方ありません。“それならば”ということで、一番おもしろいサッカーをやっていた読売サッカークラブ(現東京V)に移籍したんです。

 プロとしての心得

二宮: 読売クラブには最もプロ意識の強い選手が集まっていました。
北澤: 先が見えない部分もありましたが、僕も周囲もプロとしてどうすべきなのか、いろいろ考えていましたね。カズさんが急に、「コンビニには行かない」と言いだしたこともありました(笑)。

二宮: その理由は?
北澤: カズさんなりの、プロ選手としての定義とでもいいましょうか。要するに、一般の人たちと同じ生活をしてはいけないという意味でしょう。その具体例が、コンビニやファミレスに行かないということだったんです。「飲みに行くのは銀座だ」とか、当時はそういうことばかり言っていましたね(笑)。

二宮: 一流のステータスなんだということでしょうね。当時、プロ野球の選手たちは、よく銀座で飲んでいました。
北澤: 僕たちは運転手を雇って、選手だけで行っていました。お店にいる時間はせいぜい20分ぐらい。少ししたら「次行くぞ!」と2軒目に向かうんです。ほとんど「俺たちもこれぐらいできるんだ」と見せつけるためだけですよ(笑)。

二宮: アハハハ。プロ野球の選手には負けないぞと。
北澤: Jリーグ開幕当初は、ジュリアナにいたとかいろいろ言われましたが、みんなが100パーセント遊びたい気持ちではなかったと思うんです。遊びの場にいながらも、ユニホームにビッと着替えれば、120パーセントでサッカーに取り組む。「これがプロ」というのを示したかったんです。

二宮: プロになって年俸も上がったことでしょう。大きな買い物もしたのでは?
北澤: いや、しばらくは買えなかったですね。というのも、ラモスさんの存在が大きかった。チームメートが高級車を買うと、その上にカラーコーンを置いたり、砂をかけるんです(笑)。「オマエはまだ何もしてないだろ。このクラブに何か還元したのか?」と。それを見て、僕も結果を出すまで「贅沢はダメだな」と思いましたし、自分の中でもプロはそうあるべきという考えもありました。

二宮: ラモスは本当にプロフェッショナルでしたね。
北澤: 僕が小学校の時からラモスさんは読売サッカークラブでプレーしていました。まさかこの人と一緒のピッチに立つとは思っていなかったので、いつも緊張感がありましたね。

二宮: ラモスから雷が落ちることもあったのでは?
北澤: そうですね(苦笑)。ただ、僕たちは明日も首があるかないかの世界で生きています。自分のミスを指摘してくれる人が近くにいてくれたのは大きかったと思いますね。ラモスさんに加えて、説教大好きな柱谷哲二さんもいましたから(笑)。

二宮: 柱谷哲二はバリバリの体育会系ですもんね(笑)。
北澤: 飲みに行った時の説教が長くて……つらかったなぁ(苦笑)。何年か経つとそれを笑い話にできるようになりましたけどね。でも、怒られて「なにくそ!」と若手のモチベーションを上げるために、哲さんのような役割も必要なんです。

 先のプレーが読めていた外国人選手

二宮: Jリーグ開幕戦のヴェルディ川崎対横浜マリノス(現横浜FM)の試合は今や伝説です。舞台となった国立競技場は5万人以上の超満員。私も取材していて、あれほど興奮したことはありません。伝説の一戦のピッチに立った心境は?
北澤: この年代に生まれてよかったと思いましたね。少し年代がずれてJリーグ開幕前に引退した人もいます。僕は当時24歳で、年齢的にもタイミングが良かった。本当にすべてがうまく重なったので不思議な感じがありましたね。

二宮: Jリーグ創成期は海外のスター選手が多く、華やかな印象がありました。
北澤: 僕はポジションが左MFでしたので、マッチアップするのは外国人選手が多かった。ジーコや(ピエール・)リトバルスキー(元ドイツ代表)、エドゥー(元ブラジル代表)……。とんでもない選手ばかりでした(苦笑)。9月のイラク戦で岡崎(慎司)がスローインを受けに行って、スッと相手の裏をとった動きはジーコの得意なプレーなんです。実際、僕はJリーグでやられました。一生懸命、マークについていったら、いつの間にか背後をとられていたのをよく覚えています。

二宮: それはどういうテクニックなんですか?
北澤: 相手の視界から消えるわけです。わざと自分に意識を引きつけておいて、相手がボールを見た瞬間にクッと背中のほうに入っていく。そして、敵が見失ってる瞬間に距離をとるんです。当時はこういうプレーをあまり教わることもなかったので、マークしていて本当に“消えた”という感覚でしたね。

二宮: 私が驚いたのは、リティがヴェルディ戦のFKで、ジャンプした壁の下を抜いたことです(笑)。
北澤: やられた(笑)! あのO脚からの蹴り方なら、絶対カーブで打ってくると思いますよ。それが、ジャンプした下を抜くわけですから……。頭がいいというか、先のプレーが読めていましたね。

二宮: 99年のオールスターゲームではロベルト・バッジョと当時鹿島に在籍していたレオナルドの競演もありました。
北澤: 練習を一緒にやったんですけど、2人ともめちゃめちゃうまかったですね! 別にスピードも上げないし、派手なことをやるわけでもない。ですけど、ボールを置く場所にズレがないんです。ズレがないから、ポンポーンって次のプレーにすぐ移るわけです。そのプレースピードは半端ではなかったですね。本当にすごかった!

二宮: 基本を速く、正確にやっているだけなんでしょうね。彼らも含め、スーパースターと一緒にプレーした経験は大きかったのでは?
北澤: 世界のレベルを体感できて、発見も多かったですね。現在は遠藤(保仁)が昔の外国人選手のようなプレースタイルだと思います。別にスピードを上げていないですけど、正確で、よりうまくプレーしているように見せている。それは、ボールを自分が扱いやすい場所に置いて、フォームを崩さずにプレーしているからです。今は子供たちが日本人選手から学べる時代になってきていると感じますね。

「やっぱり、カズさんはすごい!」

二宮: 現在はFリーグ(日本フットサルリーグ)の最高執行責任者(COO)補佐ですが、どういう仕事を?
北澤: 主にFリーグの認知度を高めるための活動ですね。日本フットサル界の最高峰であるのに、まだまだ世間の人々には認知してもらえていない。ですので、Jリーグのように、ほとんどの人が存在ぐらいは知っている状態までに持っていきたいんです。内容的には広報活動の部分が多いですけども、リーグの中身に関しても少し、関わらせてもらっています。

二宮: 北澤さんは元フットサル日本代表ですもんね。
北澤: そうなんですよ。1989年の第1回W杯に出場しました。当時は本田技研に所属していて、出場機会が多くありませんでした。W杯は日本サッカーリーグの中断期間でしたので、経験のつもりで参加したんです。

二宮: フットサルでのプレーがサッカーに生きたことはありましたか?
北澤: 頭の回転が早くなって、限られたエリアのなかでの必要なプレーをやるようになりましたね。何か自分の頭の中が整理されたような感覚です。W杯が終わった後に、本田技研でも試合に出られるようになりました。

二宮: 狭いコートでプレーするから頭の回転も速くなり、判断の整理ができるわけですね。
北澤: フットサルではそういう準備をしておかないと、プレーが成立しないんです。今も、フットサル選手と一緒にプレーする機会がありますが、展開があまりにも速くて僕は首を振って終わっていることが多い(笑)。ですから、カズさんはすごいと思いますね。今年1月に1試合だけFリーグの試合に出場した時、ある程度、プレーできていましたから。

二宮: 私も驚きました。よく付いていけるなと……。
北澤: 試合前に会った時には「まずい」と僕に話していたんですよ(笑)。前日に練習した時も、フットサルの動きについていけないし、予想以上にできなかったので「ちょっと、このままじゃまずいかもしれない」と言っていました。それが、本番ではゴールに迫る場面もありましたからね。あの辺はやっぱり、“さすがカズさん!”とは感じました。

二宮: サッカーで成功したプレーヤーだから、フットサルでも成功するというわけではないですもんね。
北澤: サッカーとは似て非なるスポーツですね。僕も、どうしてもベースがサッカーですから、フットサルをやる時には、フットサルバージョンに変えます。プレーを切り替えないとできないですね。

二宮: たとえば?
北澤: サッカーだとコートが広い分、相手との間合いもある程度離れています。ですから、ボールを自分から少し遠い位置に置いても、奪われることは少ない。ところが、フットサルで少しボールを前に置けば、もう奪われています。足の内側でキープするとか、サッカーの常識から考え方をまず改めないといけませんね。

二宮: 11月にはタイでW杯が始まります。日本(世界ランク10位)は前回王者のブラジル(世界ランク2位)、ポルトガル(同5位)、リビア(同26位)と同組です。
北澤: いわゆる死の組ですね(苦笑)。特にブラジルとポルトガルは、親善試合でも対戦していますが、やはり差が大きいです。名古屋オーシャンズにリカルジーニョというポルトガル代表選手がいるんですが、Fリーグの中でも別格ですよ。

二宮: 日本とフットサル強豪国の違いはなんでしょうか?
北澤: 次につながるプレーを連続的にやっていることではないでしょうか。次のプレーのイメージができているかいないかの差だと思いますね。これは経験の差というものが大きい。その差を埋めるのはまだ時間がかかるかなというのが正直なところです。ただ、日本もFリーグができて今年で6年目。今年5月のアジア選手権では4大会ぶりに優勝しました。これも、Fリーグがあったからこその成果だと感じています。今回のW杯は、悲願のグループリーグ突破を果たしてほしいですね。

 フットサルで守備のコツを覚える

二宮: 日本サッカーも南米のように、育成年代からフットサルを取り入れればさらなるレベルアップが期待できるのでは?
北澤: 僕はフットサルはサッカーに役立つものと考えています。子供たちが早い段階でフットサルに触れることによって、サッカー界全体も変わる。将来的にはバルセロナのようなサッカーに昇華するのでは、という期待もあります。

二宮: 最初にフットサルを経験して、サッカーに移行する子供もいるそうですね。
北澤: 金崎夢生(名古屋)やロンドン五輪代表の大津祐樹(VVV)もフットサル出身です。高いテクニックを生かしたドリブルなどのプレーに生かされているのではないでしょうか。

二宮: なるほど。プレーするスペースが狭い分だけ、先が読め、テクニックも磨けると?
北澤: そこは大事ですね。シュートを打つ場面では、直接ゴールには打たない時もあります。わざと少し外して打って、キーパーをゴールから離れさせたところを押しこむ。常に相手より先を考えないといけません。

二宮: ディフェンスへの影響はどうですか?
北澤: 守備のポジショニングが身につくので、育成年代の選手にはとてもいい経験になると思います。フットサルは、ひとりでもサボれば失点につながります。全員がしっかりとポジショニングをとっておかないといけない。実は守備のポジショニングが、日本サッカー界の育成年代で一番、教えられていない部分なんです。

二宮: それがフットサルによって修得できると?
北澤: ディフェンス時の自分の立ち位置がわかってくるんです。サッカーの育成年代の大会でも、無失点で勝ち上がってくるチームは、だいたいフットサルを経験していることが多いです。特徴としては、ドリブルやパスで突破されても、シュートコースだけはふさいでいる。そして、相手が前がかりになったところを、カウンターで崩して試合をモノにするケースが増えてきていますね。

二宮: ガムシャラにボールを追いかけてもダメだと?
北澤: そこがサッカーしか経験していない選手たちとの一番の違いですね。サッカー経験者はボールを持っている選手を追って、危険な中央のゾーンをあけてしまうことがある。一方で、フットサル経験者は与えてはいけないゾーンさえ押さえておけば、失点しないとわかっているんです。要領よくディフェンスをしていますね。

二宮: なるほど。本日はどうもありがとうございました。北澤さんとお話していると、いつも時間が経つのが早い(笑)。
北澤: 気づいたら3杯目ももう空ですね。話に盛り上がっていて、つい飲んでしまいました。お酒と空間が一体化しているというんですかね。それにしても、このそば焼酎「雲海」の飲みやすさはクセになりそう(笑)。妻も焼酎をたまに飲みますので、そば焼酎のソーダ割りを勧めておきます。

(おわり)

<北澤豪(きたざわ・つよし)プロフィール>
1968年8月10日、東京都生まれ。読売サッカークラブ(現東京V)ジュニアユース―修徳高―本田技研を経て、91年に読売クラブへ加入。三浦知良、ラモス瑠緯らとヴェルディの黄金時代を築き上げる。94年にはJリーグベストイレブンに輝いた。91年に初選出された日本代表でも主力として活躍。03年に現役引退。現役時代から社会貢献活動に積極的に取り組んでいる。FリーグのCOO補佐としてフットサルの普及に努める傍ら、この6月に日本サッカー協会理事に就任した。J1通算265試合出場、41得点。国際Aマッチ通算59試合出場、3得点。

★今回の対談で楽しんだお酒★[/color]

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TEL:03-3356-7571
営業時間:
ランチ  11:30〜14:30(月〜日)
ディナー 17:00〜23:30(月〜金)、17:00〜22:30(土、日、祝日)

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◎クイズ◎
 今回、北澤豪さんと楽しんだお酒の名前は?

 お酒は20歳になってから。
 お酒は楽しく適量を。
 飲酒運転は絶対にやめましょう。
 妊娠中や授乳期の飲酒はお控えください。

(構成:鈴木友多)
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