酒場で「オレはG党だ」とか「私はアンチ巨人」とかワイワイ騒いでいた時代、プロ野球は娯楽の王様だった。それゆえ<巨人軍とは何だろう>と大上段に振りかぶられても読む側に抵抗はない。<それは、日本のプロ野球の半分ぐらいを背負って立つものである>。1960年代から70年代にかけてプロ野球を論じることは、すなわち巨人を論じることだった。
 しかし、このコラム集が凡百の野球評論と一線を画すのは細部へのマニアックなこだわりにある。そして、それこそは野球や競馬をはじめとする庶民文化をこよなく愛した山口瞳の真骨頂と言えるだろう。
 著者は巨人に必要なのは「王者の風格」だと説き、こう注文をつける。<三十七歳の関根にトップを打っていただくことを巨人は恥とせねばならぬ>。関根とは近鉄から移籍した関根潤三のこと。安易な補強に頼るフロントに、正面から盟主たるものの覚悟を問うている。
 ちなみに、このコラムは今から47年前に書かれたものだ。内容にギャップがあってもよさそうなものだが、さして違和感はなかった。果たして、それはプロ野球にとっていいことなのか、それとも…。
「昭和プロ野球徹底観戦記」 ( 山口瞳著・河出書房新社・1600円)

 2冊目は「ステップ バイ ステップ」( 小塚崇彦著・文芸春秋・1300円))。 バンクーバー五輪での自身初の4回転成功。昨年の世界選手権銀メダル。失敗をも糧にしながら着実に成長し続ける男子フィギュア界の星が、これまでの道のりを振り返る。

 3冊目は「ダメ男が世界チャンピオンをつくった」( 渡辺均著・広済堂出版・952円)。 著者は内山高志ら2人の世界王者を擁するボクシングジムの会長。小さな無名のジムを、30年かけて世界王者を生むまでに成長させた背景にはどんな努力があったのか。

<上記3冊は2012年2月15日付『日本経済新聞』夕刊に掲載されたものです>
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