来る2013年は女子ラグビーにとって重要な1年になる。まず2月には今季から新設されたセブンズのワールドシリーズに参加するため米国へ渡る。続く3月は15人制で14年に開かれる女子W杯フランス大会に向けたアジア地区予選。日本は前回、前々回と出場を逃しており、ここで3大会ぶりの本戦行きを狙う。そして6月はモスクワでのセブンズのW杯だ。初開催となる前回大会、日本は4戦全敗に終わった。4年後のリオデジャネイロ五輪へ弾みをつけるためにも世界と対等に戦えるところを示したい。
 ジャパンの主力である鈴木彩香には当然、両方での活躍に期待がかかる。最近はセブンズの代表候補合宿に、15人制のセレクションを兼ねた試合が続き、スケジュールはハードだ。1週間の中で月曜日は基本的にオフだが、在籍する立正大学大学院でティーチングアシスタントとして教官の講義をサポートする役割もこなす。完全なオフはほとんどないといっていい。
「でも練習や試合が続いて、むしろ充実しています。強くなるためにやっているのですから苦にはなりませんね」
 疲れた顔ひとつ見せず、鈴木はそう言い切る。

 「中国との差は縮まっている」

 両方を掛け持ちしているからこそ、新たな発見もある――23歳はあくまでも前向きだ。
「7人制はお互いに人数が少ないので、ボールを持ったら、まずは突破することを考えます。求められる要素はフィットネスの部分が大きい。でも15人制は、それぞれがポジションごとに役割を果たすことが大切になる。戦術の理解度や組織をいかに動かすかが求められます。15人制をやることで7人制でも戦術やスキルの部分が生きてくるし、7人制をやることで15人制になっても運動量が増えたり、プラスになるところが多いです」

 セブンズが五輪競技に採用されたことにより、どの国・地域も女子ラグビーの育成、強化に力を入れてきている。現状、オーストラリア、カナダ、イングランド、オランダ、ニュージーランド、米国の6カ国・地域がコアチームと呼ばれ、世界のトップ6だ。日本は、この「世界のトップ6入り」を当面の目標に掲げている。しかし、世界の上位に入るには、当然のことながらアジアのトップになることが重要だ。最大のライバルとなるのは中国だろう。前回のセブンズW杯でも両者は激突したが、5−21で敗れた。

「明らかに力の差がありました。あの時の日本は全員、責任を持ってプレーしていたし、強いチームだったと思います。それでも勝てなかった……」
 この敗戦を機に、日本ラグビー協会も強化体制を見直した。大会に合わせて選手をセレクションするのではなく、年間を通じて合宿を開き、長期的な視野で育成、強化を図る。継続したトレーニングの結果、鈴木自身も「差は縮まっている。このままいけば中国にも勝てるレベルになるはず」と手ごたえを感じてきている。

 日本の強みはパスのつなぎといった細かいスキルにあると鈴木は考えている。小学校からタグラグビーをやってきただけに、つなぎのセンスは他国のプレーヤーにも負けていない。
「15人制はパワーで押されてしまうところがどうしてもあります。でも7人制はスピードやスキルで何とかなる。強豪のオーストラリアやイングランド、ニュージーランドが相手でも勝てないことはないと思っています」

 「一生、ラグビーに携わりたい」

 それだけに最後までスピードを落とさず、走りきれるだけのフィットネス強化は欠かせない。鈴木の課題も、まさにこの部分にある。セブンズの浅見敬子ヘッドコーチは「もうワンランク上に行くにはスピードをアップする必要がありますね。センスがあるので相手を抜くことができても、そこから突破してトライまで持ち込めない」と指摘する。

「スピードも遅いし、持久力もない。1試合だけでなく大会を通じて、最後の最後まで走ってトライできるような体力をつけないといけないですね」
 もちろん本人も改善すべき点は自覚している。立正大の大学院に進み、男子のラグビー部員に交ざって練習をしているのもフィジカルを強くするためだ。 

 女子サッカーもなでしこジャパンのW杯優勝をきっかけに、一躍、脚光を浴びた。日本のラグビー人気は決して低くないだけに。女子ラグビーも世界で結果を出せば、大きな注目を集める可能性がある。
「だから私たちにとっては1年1年が勝負です。結果を残さなければ先は見えてこない」
 女子ラグビーは大学、社会人になっても競技を続けられる受け皿が日本には少ない。ラグビーに取り組む女の子は年々、増えているだけに、代表が目立てば彼女たちの環境改善にもつながるはずだ。

 最低=アジアの中で一番になる。
 中間=世界一の選手になる。
 最高=五輪で金メダルを獲る。

 現時点で鈴木が掲げる3つの目標である。鈴木は目標を立てる際、最低、中間、最高の3つを設定するようにしている。中学時代、先生からもらった「目標設定用紙」に、その3つを書きだすようになっていたからだ。2013年は、その目標を達成するための土台を築く1年だと考えている。

「目標を達成するまで、何歳になっても現役を続けたいですね。やれる限りはずっと代表でプレーしたいし、一生、ラグビーに携わっていきたいです。これは高校生で初代表に選ばれてからずっと考えていることです」
 スタジアムのセンターポールに日の丸が揚がるその日まで――。楕円のボールに魅せられたラグビーガールは、桜のジャージでナンバーワンをつかむべく新たな年もグラウンドを駆けていく。

(おわり)
>>前編はこちら

鈴木彩香(すずき・あやか)プロフィール>
1989年9月30日、神奈川県生まれ。立正大学ラグビー部所属。ポジションはSO。小学2年でタグラグビーをはじめ、翌年からラグビーに本格的に取り組む。中学時代はラグビーを続ける傍ら、陸上部にも所属し、100メートルハードルで県大会優勝、全国大会にも出場。中学2年よりユース強化一期生に抜擢され、海外遠征を重ねる。07年の香港セブンズで初代表に選出。関東学院大に進学後、09年にはセブンズW杯に出場。7人制、15人制の両方で日本代表の中心選手となる。12年より立正大大学院に進み、10月のセブンズW杯アジア地区予選では13年本大会の出場権獲得に貢献した。168センチ。
>>オフィシャルブログ

☆プレゼント☆
鈴木選手の直筆サイン色紙をプレゼント致します。ご希望の方はより、本文の最初に「鈴木彩香選手のサイン色紙希望」と明記の上、住所、氏名、年齢、連絡先(電話番号)、この記事や当サイトへの感想などがあれば、お書き添えの上、送信してください。応募者多数の場合は抽選とし、当選は発表をもってかえさせていただきます。締切は1月8日(火)までです。たくさんのご応募お待ちしております。

(石田洋之)
◎バックナンバーはこちらから