8年間で4度のリーグ優勝を達成した落合中日。落合博満前監督の右腕としてチームを支えたのが著者である。文字どおりの「参謀」だった。すなわち本書は「参謀」の視線によるリーダー論である。
「責任はオレが取るから。迷わずに思い切り自分の思ったとおりにやれ」。それが落合の口癖だったという。指揮官は孤独である。全ての責任を負う。好調な時はいいが、負けが込むと細部にまで口を挟みたくなるのが人情というものだ。なかには「利は自分に。非は他人に」というリーダーもいる。組織に不幸が生じるのは、そういうリーダーを戴いた時だ。
 著者は<いかに、大事なことを部下に任せられるか>がリーダーの条件と説く。8年間、落合は著書の投手起用に一切、口出しをしなかった。決めたことは守る。信頼した以上は全て任せる。<自分が人に守れと命令した以上は、自分が守る。ここまで自分を抑えられる監督はすごいといつも思う>と著者は上司を絶賛している。
 将の器とは何か。それをつくづく考えさせられた。ブレない、逃げない、迷わない。部下は常にリーダーの背中を見つめている。 「参謀」 ( 森繁和著・講談社・1400円)

 2冊目は「FC町田ゼルビアの美学」( 佐藤拓也著・出版芸術社・1200円))。 今季20年目のJリーグは40クラブに増加した。クラブの数だけ、それを支える人々の情熱がある。その情熱が街に活気を与える。今季から参戦する町田の軌跡を綴る。

 3冊目は「高校紛争1968‐1970」( 小林哲夫著・中公新書・860円)。 学園闘争といえば、「全共闘」や「安田講堂」に象徴される大学紛争が中心だが、同時期、高校にも反体制の嵐は吹き荒れていた。忘れられた「歴史」に光を当てた労作。

<上記3冊は2012年4月18日付『日本経済新聞』夕刊に掲載されたものです>
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