二宮: このコーナーでは沖縄でトレーニングや合宿をしている選手や指導者をゲストに迎え、沖縄の魅力を中心に語り合います。沖縄ではさまざまなスポーツが盛んですが、トライアスロンの大会も多く開催されています。中でも石垣島はITU(国際トライアスロン連合)ワールドカップが1996年から開催されてきました。佐藤さんは今年4月のレースで上田藍さんに次いで2位に入っています。
佐藤: 石垣島の大会に出場するのは4回目でしたが、世界のトップ選手と最後のランまで争えたことは収穫になりました。

 来間大橋(宮古島)がオススメ

二宮: 石垣島のコースはどんな感じですか?
佐藤: 大好きなコースですね。スイムが終わって、バイクに入るとサザンゲートブリッジを通って海を渡るのですが、橋がアーチ状になので、最初は坂を昇っていくかたちになります。ここが最初の難関です。橋を渡ると、また折り返して、今度は石垣島の中を走る。これを7周回しますから、サザンゲートブリッジをいかに渡るかがポイントと言えますね。

二宮: 海の上を渡るのは気持ちいいでしょうが、風も強いのでは?
佐藤: そうなんです。バーッと風が吹き抜けるので、その影響をいかに少なくするかが重要です。最初に出場した時はバイクでかなり体力を消耗してしまいました。その後のランでもサザンゲートブリッジを往復するので、風が強いと橋を渡るのは本当に疲れます(苦笑)。

二宮: それでも大好きな理由は?
佐藤: 島の中はすごく走りやすくて、景色もきれい。私たちは世界あちこちで大会に出ますが、海も空もきれいという場所でレースをするのは滅多にないんです。

二宮: ただ、残念ながら来年の石垣島大会は一時休止になるとか。
佐藤: 空港が新しくなって観光客が増え、大会を開催するには宿泊などの受け入れ体制を見直さなくてはいけない状態だと聞きました。毎年、楽しみにしていた大会なので、ぜひ再来年には復活してほしいです。

二宮: レース以外で沖縄でトレーニングをしたのはいつ頃から?
佐藤: 高校1年の時に初めて合宿をして以来、毎年、2、3月には必ず沖縄に行っています。1年目は沖縄本島の本部(もとぶ)で練習をして、翌年からは宮古島でトレーニングをしています。

二宮: 宮古島でもトライアスロンの大会がありますし、環境はいいでしょうね。
佐藤: ものすごく海がきれいで、練習していて気持ちがいいですね。バイクで走っている最中に海を見ると、ものすごく癒される。心が休まる感じがします。それから練習後の食事もおいしい。沖縄での合宿から帰ると、いつも日焼けしていますよ(笑)。

二宮: ランやバイクで走ったり、オフで訪れた場所で沖縄のオススメスポットは?
佐藤: 宮古島の来間(くりま)大橋です。島と島を結ぶ橋なのですが、そこから見える海は、本当にきれいな水色なんです。長距離の練習をするときは、そこでいつも休憩して、海を眺めています。私にとって沖縄は1年に1回以上は必ず訪れる場所なので、もうすっかり第2の故郷のようになっていますね。

 緊張の五輪招致最終プレゼン

二宮: 佐藤さんといえば、9月のIOC総会、東京五輪・パラリンピック招致の最終プレゼンテーションで壇上に上がりました。檀上はどんな雰囲気でしたか?
佐藤: 私が何かスピーチするわけではなかったのに、ものすごく緊張しました(笑)。しかも隣が安倍(晋三)首相と、猪瀬(直樹)都知事だったので余計に……。

二宮: 発言がなくても、ただ座っているだけではなく、笑顔をみせたり、手を振ったり、いろいろ役割があったそうですね。
佐藤: 手を振る位置もきれいに見えるように指導されましたし、入場する際の歩き方も背筋をピーンと伸ばしてシャキシャキ歩くように練習しました。

二宮: へぇ〜。そこまで細かく準備したんですね!
佐藤: 笑顔のつくりかたも1時間くらいみっちりレクチャーを受けました。何も話さない私でさえ、そのくらいやったので、スピーチする方たちはもっと大変だったと思います。

二宮: 壇上に上がる話はいつ頃知ったのでしょうか。
佐藤: 1カ月前に(チームの)飯島(健二郎)監督に連絡がありました。スピーチするのは英語が苦手なのでどうしようかと一瞬、思ったんですけど、話はしないということでした。

二宮: 佐藤さんは2010年のユース五輪第1回大会(シンガポール)で金メダル第1号に輝いています。このユース五輪を始めたのがIOCのジャック・ロゲ会長(当時)。壇上に上がったのは、そのアピールの意味が込められていたんですよね。
佐藤: はい。でもプレゼンテーションを見ている方からしたら、「あの子、誰?」と思われたかもしれないですね(苦笑)。最前列に座っているのに、何も話さない……。

二宮: プレゼンの途中、招致委の竹田恒和理事長(JOC会長)の紹介で全世界中の視線が佐藤さんに集まりました。
佐藤: ほんの10秒くらいでしたけど、立ち上がって頑張って手を振りました(笑)。

二宮: 1週間後にはロンドンでの世界選手権のグランドファイナルを控えている中で、IOC総会が開かれるブエノスアイレスに飛びました。日程的には強行軍だったでしょう?
佐藤: だからレセプションなどは参加せず、他の方とは別行動でした。ブエノスアイレスの滞在期間は2日間。その間もホテルのジムで走ったり、練習もしていました。

二宮: 日本、ブエノスアイレス、ロンドンと地球1周したかいがありましたね(笑)。
佐藤: 移動時間は本当に長かったですけど(苦笑)、東京に決まって本当に良かったです。7年後に日本の皆さんの前で最高の結果が出せるよう頑張らないといけないと強い気持ちになりました。

(後編は12月18日に更新予定です)

<佐藤優香(さとう・ゆか)プロフィール>
1992年1月18日、千葉県生まれ。トーシンパートナーズ・チームケンズ所属。小学3年からトライアスロンを始め、2007年の日本ジュニア優勝。翌08年には16歳ながら日本選手権で5位入賞を果たす。09年にはITU世界選手権横浜大会のユース部門で優勝。10年にはシンガポールでの第1回ユース五輪で全競技を通じて最初の金メダリストに輝く。この9月のIOC総会では2020年五輪・パラリンピック招致団の一員として東京の最終プレゼンテーションに登壇。3年後のリオデジャネイロ五輪、7年後の東京五輪での活躍が期待されている。



(構成・写真:石田洋之)
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