二宮: 沖縄はゴルフも盛んな土地です。プロツアーの大会開催はもちろん、レジャーでプレーする愛好者もたくさん訪れます。宮里藍選手、宮里優作選手、宮里美香選手、諸見里しのぶ選手らトッププロも多く輩出していますね。
青木: 沖縄は日本でゴルフをやるには一番いい環境でしょうね。年間通じて暖かくて、まさに日本のハワイ。いつでもラウンドできるのはゴルファーにとってはありがたいよね。

 パッティング、アプローチ強化には最適

二宮: 沖縄は海もあり、山もありで、ラウンドしていて見晴らしもいいでしょう。
青木: そうだね。山もいいけど、シーサイドコースが特徴的で、どちらかといえばイギリスに近い感じかな。沖縄のコースは潮風の影響もあってベントの芝が育ちにくい。だから芝目の強い高麗系の芝が多いんです。だから沖縄出身のゴルファーはパッティングがうまくなる傾向があります。

二宮: というのは?
青木: 芝目が強いから強めに打たないと届かない。しっかり打つには思い切りがないといけないからもメンタルも強くなる。パッティングやアプローチを鍛えるには、いい場所なんです。僕も春先、沖縄に行ってトレーニングする時には、喜瀬カントリークラブ(名護市)やカヌチャゴルフコース(同)、琉球ゴルフ倶楽部(南城市)などに行って勉強します。うまくいけば思い通りに打てるようになるんだけど、そこに到達するまでの距離感がなかなかつかみにくい。

二宮: 海沿いだと風の影響も受けるから、そのあたりを読む力も自然と養われるのでしょうか。
青木: 潮風ですから、塩分を含んでボールも飛ばなくなる。そういったものも含めて沖縄のコースには難しさがあるんです。2〜3月のシーズンが始まる前、沖縄でアプローチの感覚を養えると自信がつく。日本にこういう場所があるのは、ゴルファーにとっては恵まれていますよ。

二宮: 沖縄は雨も多い地域ですが、プレーで気をつける点は?
青木: 雨が降るとグリップが滑るけど、僕はあまり気にしないほうかな。もともと握力が強いから、さほど影響は出ない。技術的にも、今はクラブもボールも高く打って飛ばすのが基本になっていますが、僕は低く打つ方法も両方やってきました。そういった引き出しがあるから、どんな状況にも対処できる。昔、試合をやっている時には、「雨、降れ」と願っていたくらいです(笑)。

二宮: クラブやボールは年々進化し、飛距離はどんどん伸びています。そこで勝負がつかないとなると、次は技術力の勝負になるというわけですね。
青木: 70歳になっても、40歳前後と同じくらいの距離をキープできるのは、まさにクラブやボールの改良のおかげですよね。そこに技術があるから長くプレーできる。年齢を重ねても頑張れる時代が来ていますね。

 松山はケガ治療に専念を

二宮: 今年の国内男子ツアーは松山英樹選手がルーキーながら賞金王に輝きました。海外メジャーでも連続トップ10入りを果たし、日本人初制覇の期待もかかります。
青木: 1年目が良かっただけに、来年以降が本当の勝負になるでしょうね。ひとつ心配なのは、左手親指の付け根を痛めていること。左手はショットの際、ボールの行方の舵をとる役割を果たします。ケガを治すなら、しっかり時間をかけたほうがいい。ごまかしながらやるとスイングが狂って修正がきかなくなります。まだ若いからケガを治して鍛えれば強くなる。右利きだと、どうしても右のパワーが強くなるので、それを支えるだけの左手の強化も今後は課題になるでしょう。

二宮: 大学4年間でみっちりと土台づくりをしたことがプロ1年目での活躍につながりましたが、世界で勝つには、さらなる体力強化が求められると?
青木: もちろんです。最初に松山に会った時、彼はまだ華奢でした。「細いな。しっかり食べて体を大きくしなさい」と話をすると、しばらくすると体重を10キロ以上増やしていました。ところが、ちょっと太り過ぎていたので、今度は「相撲取りになるんじゃないから、トレーニングして絞りなさい」と言ったんです。今はちょうどいい体型になってきます。これで、しっかり筋力がつけば世界で戦える体になるでしょう。

二宮: 一方、同級生の石川遼選手は、米ツアーに本格参戦したものの思うような結果が出ず、苦しんでいます。ただ、松山選手の活躍は刺激になっているでしょうね。
青木: 今まで遼には同年代に競争相手がいなかった。でも松山が出てきて、今や世間的には“抜かれた”とみられています。闘争心に火がついているのではないでしょうか。プロになって6年が経ちますから、これをいいきっかけにゴルファーとして自立し、脱皮できればいいなと思います。

二宮: 今、話題に出た松山選手、石川選手、宮里藍選手らに憧れてゴルフを志す子どもたちも増えてきました。今回、青木さんは沖縄でジュニアゴルフスクールを実施し、若手の育成にも力を入れていますね。
青木: 50歳の頃からジュニアの指導に乗り出して20年。やはりゴルフを普及して、跡継ぎをつくらないと競技は発展しません。素晴らしいことに最近は松山や遼といったジュニアから競技に取り組んでトップに上り詰める選手が増えてきました。ただ、皆が若くしてプロを目指すあまり、基本的な“義務教育”がおろそかになってはいないかと感じる面もあります。

二宮: 青木さんは単なる技術指導だけでなく、人間教育の部分も重視されているそうですね。
青木: 僕は小さい頃、ワンパク坊主だったから、先輩によく叱られて挨拶を徹底的に叩きこまれました。でも、この頃はゴルフの世界に限らず、挨拶がしっかりできない人間が増えている。僕がゴルフ場に行くと、若いゴルファーから「おいっす」と声をかけられるんです。

二宮: えっ!? 青木さんに対してですか。
青木: ええ。「“おはようございます”ってちゃんと言えないなら挨拶しなくていいよ」と注意したら、「えっ、ちゃんと言いましたよ」と不思議な顔をされる。「でも、こっちには“おいっす”にしか聞こえないんだよ。そういう挨拶をしていたら、子どもたちもマネするから、するならちゃんとしてくれ」と。僕も若い時、先輩の宮本留吉さんや、山本増二郎さんに「目と目が合ったら、“おはようございます”と先に言え」と教わりました。どんな相手であっても、挨拶をしたら気持ちがいいものです。そういった部分から、なぁなぁにならないよう子どもたちに教えています。

二宮: 礼儀作法は、どの道に進んでも大切ですからね。
青木: それで教室が終わったら、子どもたちには「帰ったらお父さん、お母さんに“ありがとうございました”と言いなさい」と伝えています。両親がお金を出したり、サポートしてくれなければゴルフはできない。その場で細かい話はしませんが、感謝の気持ちは忘れてほしくないなと感じるんです。

 ジュニア指導のやりがい

二宮: 最近、ジュニアの指導現場では両親が熱心なあまり、あれこれ口出しをしてくるケースがあると聞きます。
青木: 子どもよりも親の教育をしないといけない状態だよね(苦笑)。「うちの子どもはどうでしょう?」と言うばかりで周りが見えていない……。だから、レッスンの間、教えるのは僕たちだけで、親は立ち入らせないようにしています。親がいると、どうしても子どもは顔色を見ながらゴルフをするようになる。でも、いずれは子どもたちも自立しなくてはいけない。ゴルフは個人競技ですから、なおさら自分でプレーの選択や、スイングの修正ができないと伸びるものも伸びていかないんです。

二宮: 長所を伸ばす指導法が近年は主流ですが、青木さんが技術を教える上で心がけていることは?
青木: 長所も大事だけど、短所をどう改善するか。そこを指摘してやることも重要だと考えています。たとえば、バックスイングした時に体が落ちやすい子どもには、「走って下半身を強くしなさい」とアドバイスします。グリップが不安定な選手には「お風呂の中で手を握って握力を強くしよう」と、日頃の生活でできるようなトレーニングを教えるんです。労せずに、うまくなることはありません。その道筋をこれまでの経験を踏まえて提示してやることが僕の役目だと思っています。

二宮: ゴルフは次のリオデジャネイロ五輪で正式競技に復帰します。アドバイスしたジュニアがメダリストになる日が来るといいですね。
青木: そうだね。沖縄はもちろん、全国各地で教室をしていると、いろいろな子どもたちと出会います。ひとりひとり性格も特徴も違うので、コミュニケーションをとりながら、どんな指導をすればいいか考える。僕たちも子どもたちに教わっている面も多いんですよ。

二宮: 次回は3月に沖縄でスクールを開催予定と聞いています。
青木: 沖縄の子どもたちは芯が強い傾向があって、少々のことではめげない。将来が楽しみな選手も多いから、ものすごくやりがいがある。いい選手が出てきて、それが僕のゴルフ人生の1ページになったら幸せですよね。


(後編は1月上旬更新予定です)

<青木功(あおき・いさお)プロフィール>
1942年8月31日、千葉県生まれ。中学時代にゴルフと出合う。キャディとして働きながら腕を磨き、64年にプロ入り。71年にプロ初優勝。76年には初のツアー賞金王に輝くと、78年からは4年連続で賞金王に。海外でも活躍し、78年には「ワールドマッチプレー選手権」(英国)で優勝。80年の「全米オープン」ではジャック・ニクラウスと激闘を繰り広げての2位。83年の「ハワイアンオープン」で米ツアー初優勝を果たし、89年の「コカ・コーラクラシック」(豪州)を制して日米欧豪の4ツアーで優勝する快挙を達成した。70歳を超えた現在も国内外で精力的にプレーしている。04年には世界ゴルフ殿堂入り。08年には紫綬褒章を受章。日本ツアー通算51勝は歴代2位。この12月に日本プロゴルフ殿堂入りが決定した。

☆プレゼント☆
 青木功選手はじめ、当コーナーに登場したゲストの直筆サイン色紙などを読者の皆様に抽選でプレゼント致します。応募は「SPORTS ISLANDS OKINAWA」のサイトにてアンケートにご協力いただいた方が対象となります。アンケート、応募要項については現在準備中です。応募がスタート次第、当コーナーでもお知らせしますので、どうぞお楽しみに。
「SPORTS ISLANDS OKINAWA」へのアクセスは下のバナーをクリック!!



(構成・写真:石田洋之)
◎バックナンバーはこちらから