6億円。一般人には到底手の届かない大金だが、前日付のスポニチには、2人のスポーツ選手がこの額を手にしたという記事があった。一人は巨人の阿部慎之助、もう一人はゴルフの松山英樹である。
 厳密にいうと阿部の6億円は年俸、松山の6億円はレクサスとの年間2億の3年契約によるものなのだが、何にせよ、途方もない大金であることは間違いない。有馬記念でかすりもせず、残るは競輪グランプリと年末ジャンボに期待をかけるしかない身にはため息も出るが、それでも、さしたる才能もない人間としては諦めもつく。

 だが、Jリーガーたちはどう感じているのだろうか。

 プロ野球のソフトバンクは、このシーズンオフの戦力補強に4年総額で26億円もの巨費を投じたという。首位打者を獲得した長谷川勇也外野手は、今季の年俸8000万円が2億円にアップすることにもなった。いうまでもないことだが、ソフトバンクが本拠地としているのは福岡である。Jのチームが資金難にあえいでいる福岡である。

 なぜ野球選手は日本でプレーしていても億をはるかに超える額を手にすることができるのか。なぜJリーガーは同じことができないのか。かつてヴェルディの選手たちは巨人の選手にも負けないギャラを手にしていたが、なぜいまは比べものにもならなくなってしまったのか。

 そろそろ、本気になって考えなければいけないのではないか。

 近年のJリーグではよく「身の丈にあった経営」なるフレーズが聞かれるが、これは、言い換えれば選手に忍従を強いる経営である。どれほど才能に恵まれていても、どれほど日本代表で活躍しようとも、いまの日本サッカー界にはそれに見合ったギャラを提供できる仕組みがない。カネがほしいのであれば海外に出るほかはない。野球やゴルフのニュースを見ていると依然として日本が世界3位の経済大国であることを実感もできるが、多くのJリーガーは、経済破綻しかけている国や、若者の失業率が40%を超える国よりもはるかに低いギャラしか受け取れずにいる。

 今年、ACLでは中国の広州が初優勝を果たした。選手を育てなければならないW杯には出場することさえ叶わなくても、クラブであれば勝利をカネで手にすることができる。そのことを知った中国人は、おそらく、より多くの資金をサッカーにつぎ込んでくるだろう。

 Jリーグは、そこに英知だけで対抗するのか。そもそも、対抗できるのか。ファンが見たいのは、金満中国相手に耐え忍ぶか弱い日本、なのだろうか。

<この原稿は13年12月26日付『スポーツニッポン』に掲載されています>
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