狙う的は、5年ぶりの国体だ。
 ダイキ弓道部が新体制で目標達成へ勝負をかけている。監督には松山工高などで長年指導し、国体で県代表を率いた実績を持つ青野常孝氏が就任。昨年より部員たちにアドバイスを送ってきた安部峰康コーチとともに2人体制で選手たちを指導する。さらに、この4月には玉木里奈、岡本豊未と2人の有望な新人が入部し、選手間の競争が激しさを増してきた。
(写真:切磋琢磨しながら強化を図る弓道部員たち)
「技術は悪くありません。むしろ、いいほうでしょう。重要なのは心の鍛錬だと思います」
 青野新監督は弓道部の課題をズバリ指摘する。ここ数年、部の大きな壁となっていたのが“勝負弱さ”。練習では好調だったり、他の全国大会では好成績を収めているにもかかわらず、肝心要の国体予選では実力を発揮できていなかった。昨年の四国ブロック予選では、ダイキの3選手で構成された成年女子県代表が、まさかの4県中最下位。部員たちもショックを隠しきれなかった。

「弓道は相手との戦いではなく、自分との戦いです。いかに平静に試合に臨み、日頃と同じように矢を放てるか。それが一番大事なんです」
 国体予選での惨敗を受け、指揮を執ることになった青野監督は選手のメンタル面を強化すべく、3つのテーマを掲げて取り組んできた。
1.試合経験を積ませる。
2.自信をつける。
3.企業チームとしての誇りを持たせる。  

 試合を重ねる中で、徹底しているのは「自分の射に集中すること」だ。青野は「弓を引きながら、“今日はいいぞ”とか“調子が良くないから何とか当てなきゃ”と余計なことを考えると乱れてしまう。“終わるまでは何も考えるな”と選手たちには伝えています」と語る。

 とはいえ、人間、いくら無心になれと言われても、雑念からは簡単には逃れられない。緊張や不安は否が応でも襲ってくる。そんな時に、心を支えるのが自信や誇りというわけだ。青野は長い指導経験から、選手たちを、その気にさせる引き出しをいくつも持っている。
「大会まで残り3日になったら、いいところばかりを褒めたり、一種の“マインドコントロール”をするんです(笑)。試合前の時間をどうやって過ごせば、落ち着いて弓が引けるかといった部分も話をしています」

 このように青野監督が精神面でのアプローチを試みつつ、技術面を安部コーチがサポートする。安部コーチは最近まで県代表として活躍しており、選手に近い視点で各自の悪いクセなどを指摘できるのが強みだ。たとえば山内絵里加は弓を引いた「会」と呼ばれる状態で矢がブレる点が安定性を欠く一因になっていた。安部が自然体で真っすぐ引くように指摘し、本人に意識させることで、この問題点は解消されつつある。
(写真:主将の原田は、3月末の国体県代表2次選考会で試合中に「弓を大きく引きなさい」と言われ、1立目のつまづきから立ち直った)

「自信をつける上でも、技術的な課題をクリアし、不安要素を少しでもなくすことが大切です。一度、身についてしまったクセを修正するのは大変な作業ですが、根気強く取り組ませようと考えています」  
 そう話す安部の存在を、ダイキの元選手だった石田亜希子前監督は「今までは選手がお互いに改善点を指摘し合うスタイルで限界があった。客観的に見ていただける人に加わってもらえたのは大きい」と感謝する。

 指導体制が充実した弓道部を、さらに活性化させているのが、この春から入社した2人の新入部員だ。岡本は西条高出身の18歳。高校時代は国体の強化指定選手に選ばれており、安部が「伸びしろがある」と将来性を買っている。
(写真:岡本は高校時代、本番に弱く「ガラスのハート」と呼ばれたのが悔しくて猛練習を積み、成長を遂げた)

 ダイキは弓道普及活動の一環として2007年から県連盟とともにジュニアの大会を実施、運営している。岡本も高校時代から大会に出場して力をつけてきた選手だ。「高校2年の時にダイキの先輩たちを見て、かっこいいなと思って憧れていました。大学進学も考えましたが、ダイキ弓道部に入れるなら、絶対にそっちのほうがいいと思ったんです」と岡本は目を輝かせる。これはダイキが中心となって撒いたタネが芽を出したと言ってよい。

 もうひとりの玉木は広島県の安田女子大から瀬戸内海を渡って愛媛にやってきた。沼田高では全国高校選抜で個人優勝を収め、団体3位に貢献。大学進学後も昨年の東京国体では成年女子の広島県代表に選ばれ、近的、遠的とも2位に入った。「国体は通常の大会とは違って観客も多く、注目度が違った」と本人は振り返る。大舞台を知り、かつ結果を残している点で弓道部にとっては大きな戦力だ。

 岡本も玉木も「今年、国体に出たい」と意気込む。スポーツは実力の世界。試合になれば新人もベテランも関係ない。国体に向けては既に県代表の選考会が始まっており、5月下旬までの4回の予選、6月の最終予選を経てメンバーが4名に絞り込まれる。そのうち3選手が本大会への切符獲得をかけてブロック予選に挑む。すなわち6人の部員は仲間であり、ライバルなのだ。
(写真:玉木は大学ではインテリアの勉強もしており、ダイキを選んだ決め手のひとつになった)

 当然、既存の選手も黙ってはいない。国体出場経験がある5年目の北風磨理は弓の引き方を根本的に見直し、不調から脱しつつある。
「これまでは調子が悪くても、なぜダメなのかが分かりませんでした。でも、今は“ここを修正すれば”という対策が打てるようになりました」
 国体予選や大会の中で射の安定度を高め、状態を上げることが次なるステップだ。

 小早川貴子は「新人から受ける刺激を、いい方向に生かして自分を変えたい」と部内での争いを前向きにとらえる。社会人6年目で任される仕事も増え、競技との両立も大変になってきているが、「1本、1本をおろそかにしないように全力でやりたい」と集中力を研ぎ澄ませて的に向かう。

「調子の波を小さくすることが課題」と常々語ってきた山内は、先述したように安部のアドバイスを受け、射型の細かい部分を修正している。昨年から特に気をつけているのは、弓を持つ押し手。「ギュッと力を入れ過ぎているので、素直に真っすぐ押すように言われています」。昨年、一昨年と県代表に選ばれながらブロック予選敗退した反省を踏まえ、「いい意味で気持ちに余裕を持って、落ち着いて試合に臨みたい」と、平常心で代表入り、そして国体出場を勝ち取るつもりだ。
 
 チームをまとめる主将の原田喜美子は「部員が6人になったので、2チームで出られる大会に3名ずつに分かれて全員が参加できるのはメリット」と部として人数が増えたことを歓迎する。これまでは4名の部員だったため、必ずひとりは試合に出られない状態が続いていた。部員の増加は競争が熾烈になる一方で、実戦経験を積む上ではプラス面もある。

「その上で2人の先生に見ていただいているので、試合中でも練習とどこが違うのか、すぐに指摘してもらって立て直せる。アドバイスがなくても、見てもらっているという安心感があるだけでも精神的にも違うのではないでしょうか」
 新たな体制がいい方向に向かう感触を原田は抱いている。青野監督も「国体まで、あと3年。その時にはそれぞれの選手が立派に完成するはず」と手応えを感じ始めた。

 ダイキ弓道部は国体予選と並行して、6月には和歌山県田辺市で開かれる全日本勤労者弓道選手権に参加。ここで好成績を収め、ブロック予選にいい流れを呼び込みたいところだ。信頼できる指導者の下、ひとりひとりがレベルアップして、今年こそ「国体出場」という的をきれいに射抜いてみせる。 

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(石田洋之)

(このコーナーでは2017年の「愛顔つなぐ えひめ国体」に向けた愛媛県やダイキのスポーツ活動について、毎月1回レポートします)


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