風薫る5月、スポーツのシーズンも本格化している。ダイキに所属するボートの武田大作は3日から滋賀県・琵琶湖漕艇場で開催された朝日レガッタに出場。一般男子シングルスカルで2年連続12度目の優勝を収めた。さらに18日まで埼玉県・戸田ボートコースで開かれた全日本軽量級選手権大会でも同種目でも5年ぶり6度目の優勝を飾っている。ダイキ弓道部では1日に行われた大阪・住吉大社全国弓道大会で主将の原田喜美子が個人で8位入賞。その2日後に参加した全日本弓道大会(京都市)でも有段者の部で原田が3位に入った。秋の「長崎がんばらんば国体」での好成績を目指し、練習と実戦を重ねる選手たちの今を紹介する。
(写真:全日本軽量級を40歳で制し、表彰台で笑顔をみせる武田<中央>)
<ボート・武田、国体へ「確実に勝つ」>

 不惑を迎えても、ボート界の第一人者は健在だ。
 この5月、武田は朝日レガッタ、全日本軽量級を続けて制覇。全日本軽量級の決勝では、現在の日本代表クラスの選手を相手にスタートからリードを奪い、終始、先行するかたちで2位に5秒近くの差をつけた。

 昨年12月に40歳となった武田がこの全日本軽量級を初めて制したのは19年前、愛媛大4年生の時だった。
「きっと、19年前のチャンピオンに若い選手たちが敬意を表してくれたんでしょう」
 そう冗談混じりにレースを振り返りながら、「もっと(後続を)突き放せなかったのは残念」と本音も漏らした。

「スタートがうまくいったので、“勝てるな”と思って、1000メートルからの中盤でまったりして力を緩めてしまった。途中でスピードを上げなきゃいけないところでの対応が鈍かったです」 
 全日本軽量級では初日の予選を突破すると、1日おいて準決勝、決勝と1日2レースをこなす必要がある。昨年は決勝まで体力が持たず、2位に終わった。今年も予選前日に軽いギックリ腰を発症し、不安を抱えた大会だった。
 
 それでも勝てるところに、この40歳のすごさがある。無駄がなく、かつ力強いオールさばきに衰えは感じさせない。昨年末の体力測定でも数値に大きな変化は見られなかったというから驚きだ。「この年齢になれば、キープできるだけでいいことかもしれません。ただ、選手としては少しでも伸びる可能性を探りたいですね」とレース翌日も休まず、ウエイトトレーニングで体をいじめ抜く。

 昨年は久しぶりに海外に出ず、国内だけで活動した。今年も引き続き国内の活動がメインだが、「心の中から五輪を目指す気持ちは消えていない」と2年後のリオデジャネイロ大会への意欲も出てきた。
「そのために今年の間にどれだけ状態を上げられるか。今以上にスピードが出てこないと世界では戦えない。どこまでできるか勝負をかけたいと思っています」
(写真:同年代は現役を引退して多くが指導者に。「所属に関係なく、僕のことを常に気にかけて助言をしてくれるのはありがたい」と話す)

 武田は選手として6度目の五輪挑戦を視野に入れつつ、重要な役割を兼務している。愛媛県ボート協会強化部長として、3年後の「愛顔つなぐ えひめ国体」を見据えた県勢の競技力向上だ。朝日レガッタでは2位には井出健二、3位は別府晃至(ともに今治造船)が入り、表彰台はオール愛媛で占めた。また高校女子かじつきクォドプルでは松山東高が優勝を勝ち取った。武田は強化部長の立場から「いいシーズンの滑り出しになった。特に課題だった成年の強化も進んできている」と手応えを感じている。

 とはいえ、世界を知る強化部長は貪欲だ。国体に向けて「“勝てそう”ではなく、“確実に勝つ”ための練習をしてほしい」と選手たちには高い次元を求める。
「調子が良ければぶっちぎりで勝つし、調子が悪くても僅差で勝つ。どんなことがあっても1番になることを目指してほしいですね」
 
 今後は6月の県内での国体予選会を経て代表が決定し、7月の四国ブロック予選に臨む。武田は県勢の底上げを図るべく、自身のトレーニングの傍ら、選手たちの練習を見に行き、アドバイスを送る。全日本軽量級でもレースの合間に、愛媛から参加した高校生や、出身選手の漕ぎの状態をチェック。今後の課題を指摘するなど強化部長の仕事もこなした。加えて、武田も指導を仰いでいた大林邦彦日本代表ヘッドコーチを定期的に愛媛へ招聘し、さらなるレベルアップを試みている。

 今年は新たな試みとして県代表が決まった段階で、成年と少年合同による合宿も行う考えだ。「一緒に練習すれば、成年は少年に負けるわけにはいけないし、少年は成年のスピードを実感できる。お互いに刺激し合って相乗効果が生まれたらいい」と武田は狙いを明かす。

 昨年は国体で100点獲得を目標に掲げていたが、結果は86.5点。今年はさらに目標値を上げ、「130〜140点」に設定する。「成年が6種目中5種目で3位以内。残りの1つも決勝に残るような成績を出せれば、不可能な数字ではない」と強化部長は高みを見据える。

 この春からは長男の大吾が新田高でボートを始めた。
「たまに“どうやったら速く漕げる?”と聞かれるんですけど、“気合だ”と答えていますよ(笑)。楽しんでやっているようなので、強くなるかどうかは本人次第。僕がそうだったように、自分の道は自分で開拓してほしいですね」

 また次男の大地は中学3年でセーリングに取り組んでおり、こちらは少年で県代表入りが期待されている。親子揃っての国体出場も夢ではない状況だ。「簡単に国体へ出られると思ってもらったら困る。“もっと練習しなさい”と息子たちには言っています」と苦笑を浮かべつつも、父親としてうれしそうな顔をのぞかせた。

 選手として、強化部長として、そして父親として……。何足ものわらじを履き替えながら、日本ボート界の“レジェンド”の挑戦に終わりはない。 

<弓道、目標は高く“国体優勝”>

 住吉大会、全日本大会と続く遠征に先立ち、原田は弓道部の青野常孝監督からアドバイスをもらっていた。
「自分の射を守れ!」
 シンプルな助言だが、実践は決して容易ではない。結果を出さねばと心が揺れれば射が乱れ、矢もブレる。それは長年、弓を引き続け、3月には220人中わずか2人しか合格しなかった難関を突破して「錬士」の資格を取得した原田にとっても一番難しい課題だった。
(写真:「錬士」の審査では実技のみならず、学科試験や面接もあった。「競技だけでは行き詰っていたものが、新たな角度から弓と向き合えた」と振り返る)

「“自信を持って引きなさい”と言われますが、どうしても本番になると不安や焦りが出てきます。今回は青野先生に言われた“射を守る”ことを、いつも以上に意識して臨みました」
 住吉大会は昨年、団体戦で6年ぶりの優勝を収めている。今回、ダイキは新入部員の玉木里奈、岡本豊未の2名を加えた6選手を2つに分け、2チームで大会にエントリーした。

 しかし、1人4射、計12射の的中で争われる団体戦で、原田・山内絵里加・北風磨理のダイキAチームは7中。小早川貴子・玉木・岡本のBチームは5中。入賞ラインとなった8中に及ばず、連覇はおろか3位以内にも入れなかった。個人戦では何とか原田が8位で入場したものの、満足のいく成果は残せなかった。しかし、いくら悔やんでも、やり直すことはできない。部員たちは中1日で挑む全日本大会へ気持ちを切り替える必要があった。

 切り替えが求められたのは精神面だけではない。住吉大会が遠的で実施されるのに対し、全日本大会は近的で試合が行われる。大阪から京都へ移動しての前日練習では、体の動きを遠的モードから近的モードに変更しなくてはならなかった。

「遠的では弓を引き分ける際に角度をつけ、矢を斜め上に放つのですが、近的では地面と平行に弓を引きます。遠的の感覚が体に残ったまま、弓を引くと矢が上に行ってしまう。十文字(体の縦横のライン)を調整するのが難しいんです」
 そう話す原田だが、修正は思い通りにいった。良い感触を持って、本番当日を迎えた。

 全日本大会では、まず予選で1人2射、皆中者のみが決勝に進める。ダイキからは原田、山内、北風、小早川の4名が有段者の部で参加したが、通過できたのは原田だけだった。

「せっかく会社に応援してもらって遠征したのに手ぶらで帰るわけにはいかない。その一心で引きました」
 決勝は射詰と呼ばれる方式で的を外した者から脱落していく。原田は2射続けて的中。決勝の3射目からは、さらに人数を絞りこむため、的が直径36センチから24センチへと小さくなった。

 的が小さくなって最初の射。「しまった!」。原田は矢を放った瞬間、心の中で叫んだ。自身の感覚では完全な“失敗”だったからだ。しかし、痛恨の思いとは裏腹に、視線の先の矢は的をとらえた。
「感覚はダメだったのですが、体のバランスが良かったのでまっすぐ飛んだのでしょう。試合をやっていると、こういうラッキーもある。運を味方につけて、改めて自分の射に集中しようと思いました」

 原田は続く射も的中させ、ここで人数が5人に絞られたため、5位以内の入賞が確定した。次の射を外して優勝は逃したものの、同じ射で脱落した3人との競射では最も的の中心に当てる。同大会では自身最高位となる3位が決まった。

「なんとか結果が残せてホッとしています。ただ、青野監督には“団体で結果を残せるように全員で頑張ることが大事”と言われました」
 原田がそう課題を語るように、国体は3名による団体戦だ。誰かひとり好調でも、他の選手が不調ではブロック予選や本大会は勝ち抜けない。県代表の選考は25日に最後の予選会を迎え、上位12名が6月22日の最終予選に進む。全4回の予選会と最終予選の成績が加味され、上位6人が代表候補となる。そのうち8月のブロック予選に出られるのは3選手だ。

「ダイキの3人で代表に選出され、まずはブロック予選を突破する」と原田は部の目標を掲げる。今年から6名に部員が増え、国体出場に向けては互いが競い合う関係だ。部内にはいい意味での緊張感と活気が生まれた。
「新人たちも力があるし、何より“負けたくない”という気持ちが強い。練習の雰囲気は変わりましたね。私たちもうかうかしていられないと刺激を受けています」

 6月には和歌山県で開かれる全日本勤労者弓道選手権大会にも出場する。
「国体予選も含めて試合が続きますが、実戦を重ねる中で状態を上げ、部員ひとりひとりが自分の射をしっかりできるようになれればと思っています」
 原田たち弓道部員が見据えている的は、5年ぶりの国体出場よりも、もっと先にある。「国体優勝」。その的はまだまだ小さくしか見えないが、高い次元で切磋琢磨すれば、きっと矢は的を射抜くと部員たちは信じている。

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関連リンク>>公益財団法人 大亀スポーツ振興財団

(石田洋之)

(このコーナーでは2017年の「愛顔つなぐ えひめ国体」に向けた愛媛県やダイキのスポーツ活動について、毎月1回レポートします)


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