「愛顔(えがお)つなぐ えひめ国体」まで残すところ、あと3年。国体成功に地元勢の活躍は不可欠な要素である。男女総合での天皇杯獲得を目指す愛媛県にとって、喫緊の課題は、このコーナーでも何度も取り上げてきた有力選手と指導者の確保だ。
(写真:今年度から設けられたスポーツ専門員として採用されたスピードスケートの土田愛)
 愛媛県体協では6年前より、県の補助を受けて普及指導員制度を導入。選手として競技に取り組みながらジュニアへの指導や体験講習会などを通じ、底辺を拡大させる試みを行ってきた。現在は3名が普及指導員として活動している。

 そのひとりがサッカーの愛媛FCレディースに所属する阿久根真奈だ。鹿児島県出身の阿久根はサッカーの強豪・神村学園で主将を務めた実績を持つ。高校卒業後は宇和島市にあるIPU環太平洋大学短期大学部へ。同時に愛媛FCレディースに加入した。今春、短大を卒業し、県体協の普及指導員として昼間は事務を手伝い、夜はチーム練習に参加する。また週3回、愛媛FCのスクールで子どもたちを教えている。

「他の選手は朝から夕方まで仕事をして練習に来ていますが、私の場合は体協の皆さんのおかげでサッカーに費やせる時間が多い。その点は非常にありがたく思っています」

 阿久根は昨季からFWに転向し、東京国体「スポーツ祭東京2013」の3位入賞に貢献した。女子の2部リーグにあたる「チャレンジリーグ」ではチームトップの10得点をマーク。今季の愛媛FCレディースはチャレンジリーグで16チーム中11位と低迷しているが、国体ではさらなる上位進出を目指す。まずは8月に行われる四国ブロック予選が第一のハードルだ。
(写真:昨年は皇后杯で4連覇を果たしたINAC神戸とも対戦。大差で敗れたものの、貴重な経験を積んだ (c)EHIME FC)

「私自身もイマイチの成績なので、チームとともに結果を出していきたいですね。なでしこリーグ(1部)昇格、えひめ国体での優勝目指して、一緒にレベルアップしていきたいです」
 20歳のストライカーは貪欲にゴールを狙い、チームを勝利に導く決意だ。

 愛媛県の競技力向上対策本部では今年度からスポーツ専門員制度を設けた。各競技で3年後に上位入賞を狙える選手たちを採用。各専門員は自身のトレーニングを積みながら、県勢を育成、強化する役割も担う。現在は以下の12名が専門員として県体育協会や県下の高校に配属されている。

ホッケー: 輕尾誠、逢沢優
ボクシング: 福森雄太
バレーボール: 橘尚吾
バスケットボール: 武村栞
フェンシング: 森美里、野里崇有
カヌー: 竹中一生、小松正治
なぎなた: 長沢美咲
スケート: 土田愛、郷亜里砂

 県体協所属のフェンシング・野里は鹿児島県出身。中央大4年時には「ぎふ清流国体」で鹿児島県代表の選手兼任監督を務め、成年男子サーブルで準優勝に輝いた。
「国体は1チーム3人による団体戦です。ひとりひとりの力を上げて、いい選手を揃えないと勝ち抜くのは難しいと感じます」
 野里は自身の練習に加え、週末は県勢の少年の競技拠点となっている三島高に行き、フェンシング部員とともに汗を流し、アドバイスも送る。

 また週に3回、松山市内でジュニアの指導も行っている。
「北京、ロンドンと五輪で日本が2大会連続のメダルを獲得したこともあり、競技に対する関心は高まっています。ただ、まだまだ競技人口は多くありません。いろんな選手と練習や試合をして経験を積める環境が整えば、もっと選手の力も伸びるはずです」
 秋の「長崎がんばらんば国体」では成年男女、少年男女ともにベスト8を狙っている。3年後の地元開催ではもちろん優勝が目標だ。

 スケートの土田は、この1月に栃木県日光市で開催された国体冬季大会に愛媛県代表として参加。スピードスケート成年女子500メートルで4位入賞を収めた。県勢が冬季国体のスケート競技で入賞したのは3年ぶりのことだった。

 北海道出身の土田は小学1年から競技を始め、国体には、これまで駒大苫小牧高時代に北海道代表で3度、山梨学院大進学後は山梨県代表で4度出場している。大学3年時(2011年)には成年女子2000メートルリレーで表彰台の頂点に立ち、翌12年の全日本学生スピード選手権ではスプリント女子総合優勝も果たした。

 スピードスケート種目の愛媛県代表・井上清孝監督が山梨学院大OBだったつながりもあり、昨年4月からは拠点を愛媛に。特にリンクが使えない夏場は県内の施設を活用してフィジカル面の強化をはかっている。「もともと中距離を得意としていたので、課題はスプリント力。愛媛は山もあって海もあり、アップダウンが多いので陸上トレーニングで下半身を鍛えるには役立っています」と土田は語る。

 国体では1月に行われる冬季競技を皮切りに、その年の天皇杯の得点が加算される。
「今年は500メートルは4位でしたが、1000メートルは予選落ちしてしまいました。来年は500メートルと1000メートルの両方で決勝進出を目指します。そして国体の行われる3年後には2つの種目で表彰台に立ち、愛媛県にいい流れを持ってきたい」
 颯爽とした滑りで土田は県勢の躍進へ先陣を切る意気込みだ。

 昨年の5月より愛媛県では「えひめ国体選手および指導者確保推進班」が設置され、県、市町、企業、競技団体が連携して人材集めに東奔西走している。この4月までの約1年間で今回のスポーツ専門員(4月時点で11名)も含め、62名を県内で受け入れた。公務員や教職員としての採用に加え、ダイキ、伊予銀行、ウエストコンサルタント、今治造船、レディ薬局など企業でも選手を雇用する体制が生まれつつある。

 県の国体競技力向上対策室が主体となり、県内で活動中の社会人チームに対する支援も拡充させた。国体などの全国レベルの大会で好成績が期待できるチームを対象に、金銭面、環境面でのサポートを行う。昨年度は9チーム(伊予銀行の男女テニス部、女子ソフトボール部、愛媛銀行の女子卓球部、ダイキの女子弓道部、男子ソフトボール・ウエストSBC、サッカー・愛媛FCレディース、女子バレーボール・CLUB EHIME、女子バスケットボール・今治オレンジブロッサム、男子ハンドボール・EHC)が強化指定を受けた。今年度はこれらにサッカー男子のFC今治が加わった。

 県では、このような施策でさらなる選手、指導者の受け皿づくりを進めたい意向だが、天皇杯獲得を現実にするには、一層の“補強”が求められる。推進班の班長でもある県体協の藤原恵専務理事は「国体までに300人規模を受け入れられるのが理想です。最低でも200人程度は確保したい」と明かす。

 現在、藤原が頭を悩ませているのは、選手、競技団体、受け入れ先とのマッチングの問題だ。
「競技団体によっては、まだ国体に向けて、どんな人材がほしいのかプランニングが不十分なところがあります。人材確保の計画が定まらなければ、選手にも声をかけられないし、受け入れ先との調整もできない。競技によって活動に必要な資金や練習環境などの条件面も異なりますから、それを満たす受け入れ先をどのように見つけていくかも重要な課題です」

 国体優勝を目的として人材を全国から集めることには「やりすぎ」との批判がある。本来であれば、自前で競技を普及し、選手を育て、強化するのが、あるべき姿だろう。一方でスポーツ専門員や普及指導員に話を聞くと、「愛媛に呼んでもらえなければ、競技生活を続けられなかったかもしれない」と口を揃える。企業を取り巻く経営環境は厳しいものがあり、以前のようにスポーツ部を所有し、多くの選手を抱えることは難しくなっている。国体目当てであっても、サポート先を探している選手は少なくない。

 大切なのは受け入れた人材を単なる国体までの“助っ人”で終わらせるのではなく、地元に競技を根付かせ、発展させる“伝道師”にできるかどうかだ。実際、2012年に国体を開催した岐阜県では大会までに336選手を雇用し、その多くが今も県内を拠点にしているという。藤原専務は「結果として、昨年の国体でも岐阜は天皇杯5位と大きく順位を落とすことはありませんでした。このように国体をきっかけに競技力が向上し、それが定着していくように我々も努力したいと思っています」と国体後も見据えている。

 2017年のえひめ国体の後、2020年には東京五輪・パラリンピックが控えている。愛媛のみならず、日本全体でスポーツ界への注目が集まることは間違いない。
「選手に話を聞くと、“できれば2020年まで面倒を見てほしい”との要望が出てきます。それに、どう応えられるかも人材確保のポイントになってきていますね」
 えひめ国体で活躍した県代表の選手たちが、東京でメダルを獲得する――そんな夢をみるには、まず横たわっている現実を県全体でひとつひとつクリアすることが求められている。

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関連リンク>>公益財団法人 大亀スポーツ振興財団

(石田洋之)

(このコーナーでは2017年の「愛顔つなぐ えひめ国体」に向けた愛媛県やダイキのスポーツ活動について、毎月1回レポートします)


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