「長崎がんばらんば国体」まで、あと4カ月。6月下旬からは国体出場をかけた四国ブロック予選が各競技で行われる。地元開催の「愛顔(えがお)つなぐ えひめ国体」が3年後に迫るなか、愛媛県体育協会が掲げる長崎国体での目標は「天皇杯(男女総合)10位台入り」。昨年の東京国体は天皇杯26位で、順位を上げるにはブロック予選を勝ち抜き、国体行きの切符を1枚でも多く手にすることが第一条件だ。
(写真:カヌーの選手たちを激励に訪れた県体協・大亀会長<中央>)
「昨年は全種目における予選突破率で愛媛県勢は四国トップ(39%)でした。この勢いで、さらに突破率をあげ、多くの人数を国体に送り込みたいと考えています」
 県体協の藤原恵専務理事は、そう意気込みをみせる。

 ただ、現状は決して甘くない。特に課題である成年の強化に関しては「1年は遅れている」と県体協の大亀孝裕会長も危機感を募らせている。藤原専務は「この春も各競技団体に成年の状況をヒアリングしたのですが、まだ3年後の国体で、どのような陣容で臨むのか見通しが立っていない団体が少なくないんです。チームづくりが具体的に見えなければ、それに応じた人材の確保もままならない」と頭を痛める。

 この4月には60名強の国体候補選手を県内で新たに受け入れたものの、さらに人材を集めて強化を図るには、企業も含めて受け皿を増やすことが求められる。しかし、企業にはそれぞれ採用計画があり、国体が開かれるからといって急に枠を増やすわけにいかない。したがって選手確保は段階を踏んで進めていく必要があるのだが、そのプラン自体が明確になっていないというのだ。

 今年度からは愛媛県の競技力向上対策本部が、スポーツ専門員として11名を任命。ホッケー、ボクシング、バレーボール、バスケットボール、フェンシング、カヌー、なぎなた、スケートの8競技で3年後に上位入賞を狙える選手たちを採用した。各専門員は自身もトレーニングを積みながら、県勢を育成、強化する役割を担う。

 そのひとり、カヌー・スプリントの竹中一生は元日本代表で日本選手権優勝の実績を持つ。カヌーのスプリント種目は少年で計7種目、成年では計3種目と種目数が多く、上位に入れば多くの得点が見込める。しかし、愛媛ではカヌー熱は決して盛んではなく、高校で部活動があるのは大洲高のみ。当然、選手層は薄く、国体での入賞はおろか、出場するのも一苦労の状態が続いてきた。

 未普及の競技をいかに盛り上げるか。立ち上がったのが県カヌー協会理事長の谷野秀明だ。谷野は大洲高時代、国体の少年男子カナディアンペアで8位入賞を収めたことがあり、大学を経て大洲市役所に就職後は家族で楽しめる「ホリデー・イン・カヌー」の事業にも長く携わってきた。

 えひめ国体では大洲市がカヌー・スプリントの会場に選ばれたことから、3年前より谷野が会長となり、ジュニアを対象とした「大洲カヌークラブ」を立ち上げた。現在は小中学生13名の会員で日曜の午後を中心に活動している。「街中を流れる肱川を拠点に練習しています。地元の人にも、観光客にも練習風景を見ていただけるので、“カヌーのまち”をアピールすることにもつなげられればと感じています」と谷野は語る。

 四国のカヌー界は香川が全国でも有数の強豪県として君臨している。香川が強くなった理由としてあげられるのが、1993年に開かれた東四国国体だ。地元開催を機に、香川ではカヌークラブをつくり、継続して競技の普及、人材育成に励んできた。一過性に終わらせない取り組みが実を結んでいるのだ。

 大洲カヌークラブの活動もこれにならったものと言える。「小中学生で競技としてカヌーに触れる子どもは少ないのが実情です。現在活動している子どもたちも野球やサッカーなど他の競技と掛け持ちですが、それでも小学生で全国大会で入賞する選手が出ています」と谷野は手応えを感じている。7月には県の競技力向上対策本部が「Road to えひめ国体」と題して中学3年生を対象とした体験教室を実施するほか、大洲市独自でも小中学生にカヌーに触れてもらう場を設けるなど人材発掘にも力を入れる。

“カヌーのまち”として競技を根付かせる上で、地元のバックアップは欠かせない。7月にも大洲では後援会組織が結成される予定で、地域による支援の下、活動を一層、充実させる。少年の強化拠点である大洲高の部活動も学校の枠を越え、近隣校から選手を集めて層を厚くしていく。後援会設立に際し、公益財団法人大亀スポーツ振興財団からはバスの寄贈を決めており、練習場への選手移動などで大いに役立ちそうだ。

 昨年のブロック予選でも香川の壁は厚く、スプリントで出場権を獲得したのは少年男子の1名のみ。今年も「現実的には成年で1枠、少年で1枠出られることが目標」と谷野は明かす。
「まだ手探り状態ですが、実績、経験を積んでいくことが大事。えひめ国体で少しでもいい成績を収めたい」
 鵜飼いでも有名な水郷のチャレンジはまだ始まったばかりだ。

 同じく愛媛ではメジャー競技ではないホッケーでは、国体開催地となる松前町が、この4月から元日本代表選手で、引退後は代表コーチも務めた吉岡昭嘉を町職員として迎えた。国体に向けたホッケー場の整備も決まっており、これを機にスポーツを通じたまちづくりに乗り出している。松前でもジュニアを対象としたホッケークラブが活動しており、指導者を確保し、練習環境を整えることでさらなる強化が期待される。

 ポイントは成年のチームづくりだが、今回、スポーツ専門員として軽尾誠、逢沢優の2名が採用された。現状、県内では母体となる組織がないため、選手を団体や企業などで数人ずつ受け入れ、選抜チームを結成する方針だ。えひめ国体では上位進出が目標になる。

 こうした動きを藤原は「いいモデルケースになりつつある。国体が終わっても、そのレガシーが地元に残るようにしてほしい」と評価する。国体をきっかけに、未普及競技を“おらがまちの競技”に――。大会を盛り上げ、成功させるうえでも、地域と一体となった取り組みは不可欠である。

写真提供:大洲カヌークラブ

---------------------------
★質問、応援メッセージ大募集★
※質問・応援メッセージは、

---------------------------------
関連リンク>>公益財団法人 大亀スポーツ振興財団

(石田洋之)

(このコーナーでは2017年の「愛顔つなぐ えひめ国体」に向けた愛媛県やダイキのスポーツ活動について、毎月1回レポートします)


◎バックナンバーはこちらから