4年ぶりに1部リーグに復帰した伊予銀行女子ソフトボール部。第8節を終えた現在、3勝15敗で10位タイという成績だ。苦しい試合が続いているが、そのなかでも酒井秀和監督は「18試合中、完封負けを喫したのはわずかに4試合。1部のピッチャー相手にも打線は点が取れている」と手応えも感じている。リーグ戦は残り4試合。伊予銀行は新たな戦略を練る。

 今シーズンの伊予銀行の得点パターンは、ランナーが出塁すると犠打で送り、タイムリーあるいは本塁打でランナーを返す、という理想的なかたちだ。だが、1部リーグのピッチャーのレベルはやはり高い。2死となってからでは、たとえランナーがスコアリングポジションにいても返すのは難しくなる。得点力を高めるには、無死、1死といった若いアウトカウントでいかにチャンスをつくることができるかがカギを握る。酒井監督はそのことを痛感したという。

 そのために必要なのが、機動力だ。伊予銀行の盗塁数は、現在わずか3。この数字を高めようというのだ。もちろん、これまでも走塁練習はしてきた。だが、試合では足を絡めた攻撃をしかけることが、なかなかできずにいる。その要因のひとつに、酒井監督は「サインを出すことに躊躇していた」と、自らの采配を反省材料に挙げている。要因は、6月1日の戸田中央総合病院戦にあった。

 この試合、初回に2点を先制し、6回表を終えた時点でリードしていたのは伊予銀行だった。ところが、6回裏に1点を失い、1点差に迫られると、7回裏に2死満塁から2点タイムリーを浴びて逆転サヨナラ負けを喫したのだ。この試合で酒井監督が反省点として挙げたのが、2回以降、チャンスはあったものの追加点を奪えなかったことだった。
「実は足を絡めた攻撃をしかけたのですが、それが微妙なタイミングでアウトという判定になったんです。今考えれば、そのことで監督である私がサインを出すことをためらいがちになってしまったのかもしれません」
 そして、こう続けた。
「でも、残り4試合では積極的にサインを出しますよ」

 チームとしても機動力に自信を得ている。9月の全日本総合選手権では、1部リーグで現在3位の強豪デンソー戦で2つの盗塁を決めているのだ。
「1部のキャッチャーは肩が強く、走るのは容易ではない。ただ、そのリスクを怖がっていては得点力は上がりません。相手ピッチャーの隙をついたり、ボールカウントによっては走れるケースが必ずありますので、そこを攻めていきたいと思っています」

 13.11メートルの勝負

 さて、エースの木村久美投手とともに、今や投手陣の柱となっているのが、高卒ルーキーの庄司奈々投手だ。9月7日のルネサス高崎戦では負け投手となったものの、完投。指揮官からの信頼の厚さが窺い知れる。
「途中でリリーフを送ることも考えていたんです。でも、とてもいいピッチングをしていましたからね。何度もピンチを迎えながら、決して勝負を逃げなかった。アウトコース一辺倒ではなく、インコースも果敢に攻めていたんです。入行して半年ですが、制球力もアップしましたし、1部のバッター相手にも思い切り投げているところがいいですね」

 一方、野手では山あずさ選手の成長が顕著だという。攻守ともにレベルは数段上がっていると酒井監督は見ている。
「ショートの守備は安定していますね。しっかりと確実にアウトを取りますし、肩もいいので三遊間の深いゴロもアウトにすることができる。彼女が内野にいれば安心、とチームからの信頼も厚いんです」

 プレーのレベルが上がった背景には、気持ちの変化があると指揮官は見ている。1部のチームがいかに速い攻撃をしかけてくるかを痛感し、山選手は彼女らに勝つには、さらに自らの心技体を鍛えなければいけないという自覚が出てきたのだ。それが練習の取り組み方にも表れ、以前にも増して、一球一打一走を全力で取り組んでいる。

 そして、試合でも山選手には雰囲気を感じるという。彼女にはルーティンワークがある。打席に入った際、左手一本でバットを持ち、右手でパンツの裾を上げる。そして、その右手をバットに据え、構える。これを練習の時からしているという。
「ソフトボールはピッチャーとバッターの間にある13.11メートルの勝負なんです。いかに自分のタイミングでバットを振ることができるか。その“間”がつくれるかどうか。ここから勝負は始まっているんです」
 山選手はルーティンワークによって、その“間”をつくり出しているのだ。

 さて、約2週間後には、第9節(10月11、12日)が控えている。豊田自動織機とぺヤングとの試合だ。
「しっかりと準備をして、2試合ともに勝ちにいきます」
 と酒井監督。ここで連勝すれば、その後の国民体育大会、そして最終節へと弾みがつくはずだ。足を絡めた攻撃で、新たな強さを見せられるかがカギとなる。




◎バックナンバーはこちらから