日本の侍ジャパン女子代表が参加する「IBAF女子野球ワールドカップ」が9月1日、宮崎で開幕する。日本は2008年の愛媛・松山での大会から、10年、12年と3連覇中。米国、カナダなど世界8カ国・地域の代表チームが集結する中、再び頂点を狙う。
 このワールドカップに出場する代表選手たちが、それぞれの所属チームで日本一を争ったのが、8月2日から5日間にわたって行われた「全日本女子硬式野球選手権大会」だ。記念すべき10回目を迎えた大会では、愛媛県松山市のマドンナスタジアム、坊っちゃんスタジアムを会場に、全国の高校、大学、社会人の36チームが集まり、熱戦を繰り広げた。

(写真:伊予銀行の大塚頭取が顧問を務めるマドンナ松山も9年連続9回目の出場)
 この大会は第2回から毎夏、松山で開かれている。最初は06年、松山市が小説「坊っちゃん」発表100年記念事業のひとつとして、「2006ベースボールフェスティバルin松山」を実施し、その一環で開催された。松山市にはプロ野球の試合も行われる坊っちゃんスタジアムの隣に、マドンナスタジアムというサブグラウンドがある。女性の名前を冠した球場は全国的にも例がなく、「マドンナスタジアムを女子野球の聖地に」との思いも大会招致につながった。松山開催にあたり、地元企業として伊予銀行が大会をスポンサード。以降、「伊予銀行杯」として実施され、今や「女子野球の夏は松山」とのイメージがすっかり定着している。

 予選リーグは連続完封勝ち

 そして、大会の松山開催を機に四国初の女子硬式野球チームとして発足したのが「マドンナ松山」だ。第2回大会から毎年出場し、10年と昨年は3位入賞を果たした。今年こそは地元で日本一を――。昨春から指揮を執る元西武の上田禎人監督(新田高出身)はチーム力を引き上げるべく、この春は遠征を増やし、選手たちに実戦経験を積ませた。

「女子は男子と違って試合をする場が限られています。やはり試合に出ないとチームは強くならない。3月から沖縄、関西、広島と遠征で大会に出たり、練習試合をしました。昨年と比べれば選手たちは試合慣れした状態で大会に臨めたのではないかと感じます」

 戦力も補強した。愛媛・今治市出身で女子プロ野球チームにも在籍していた外野手の江嶋あかりが6年ぶりに復帰。パワフルなバッティングで4番に座り、打線の軸ができた。成美大からは内野手の廣谷亜弓が加入し、上田監督も3位に入った昨年以上の手応えをつかんで大会初日を迎えた。

 台風接近の影響で雨が降る中、プレーボールがかかった予選リーグ初戦(8月2日)。地元のマドンナたちを後押ししようと、球場には伊予銀行の行員約200名も含め、多くの観客が詰めかけた。トランペットや鳴り物入りで声を合わせ、選手たちを鼓舞した。
(写真:スティックバルーンを叩いて声援を送る観客たち)

 それに応えるように、初戦からマドンナ松山は悪天候をものともせず、好ゲームをみせる。クラブチームのASCA(愛知)に対し、先発のエース・坂本加奈がスコアボードに0を重ねていく。「雨で指が滑るので、低めに抑えて投げることを意識した」という右腕は、相手打線をわずか2安打に封じる好投。打線も中盤に得点を重ね、3−0で白星発進した。

 翌3日、クラブチームのSirius(埼玉)戦では、さらに投打がかみ合った。初回に2点を先制すると、3回には打者11人で7安打を集中して一挙6点。連投となった坂本もコントロールよくバッターを打ち取り、8−0と2試合連続で完封勝ちを収めた。マドンナ松山は予選リーグ連勝となり、決勝トーナメント進出が決まった。

 機動力で主導権奪われた準々決勝

「バッティングは他のチームを見ても、ウチは振り負けていない。少なくとも4、5点は計算できる攻撃力があります。ピッチャーの坂本は体重が前に乗って、いいピッチングを見せていました。彼女は投げてリズムをつかむタイプなので、いいかたちで決勝トーナメントに進めました」
 上田監督もチームも自信を深めて挑んだ準々決勝。相手は京都外大西高だった。両チーム無得点で迎えた3回、制球力のある坂本が先頭打者に四球を与えてしまう。

 ここで京都外大西は足を絡め、バッテリーを揺さぶりにかかった。すかさずスチールで得点圏にランナーを進めると、ヒット1本で生還し、先取点を奪う。さらに盗塁を決め、プレッシャーを与えた。

「正直、私のクイックは遅いですし、キャッチャーもスローイングが早くない。走らせないようには気をつけていたのですが……」
 坂本は、その後も相手に“足攻”を仕掛けられ、このイニングだけで4盗塁を許す。重い3点を先行された。ベンチで見ていた上田監督は「足を使われるのは予想していましたから対策は練っていました。ボールを長く持ったり、牽制を入れたり、ウエストして外すことも伝えていたんです。コントロールがいい坂本だから、“2球連続で外したっていいぞ”とバッテリーには話したんですけど、カウントが悪くなるのがイヤだったのか、余裕がなかったのか、相手が走りやすい状況をつくってしまいましたね」と残念がる。

 それでもマドンナ松山は中盤以降、反撃を開始。5回に3点を返すと、3点差に突き放された最終7回には、3番・笹原瀬菜、4番・江嶋の連打で2点を返す。5−6と1点差、なおも無死満塁と一打逆転サヨナラのチャンス。ここで打順は強豪・尚美学園大で4番を張ったこともある柏崎喜美に巡ってきた。

「スクイズはない。狙い球を整理して思い切って打て」
 上田監督はそう耳打ちして打席に入らせたが、結果は裏目に出た。ファーストゴロでホームゲッツー。押せ押せムードは潰え、1点差を追いつけないまま、マドンナ松山の戦いはベスト8で終わりを告げた。

「相手は同点を覚悟して中間守備だったので、センター返しを徹底しておけば、最悪、ショートゴロ、セカンドゴロでも追いつけたかもしれませんね」
 指揮官はあと一本に泣いた敗戦を悔やむ。2試合連続完封から一転、6点を失ったエースの坂本も「ボールのキレが良くなかった。3連投の疲労は感じなかったが、ボールにはその影響が出ていたのかも」と唇をかんだ。

 クラブ選手権では優勝を

 負けに不思議の負けなし。マドンナ松山は敗因を真摯にみつめ、さらなる飛躍を誓う。坂本はクイック投法の習得とともに、もうひとつ球種を増やすことを課題に掲げた。
「試合後、ジャパンの大倉孝一監督から“あと1種類、変化球を覚えたらいいな”と言われました。私もそれは感じていて、右バッターのインコースに食い込むシュート系の球種を覚えようといろいろ試しているところです」

 今年は下半身と体幹を強化したことでピッチングがより安定した。「コントロールは誰にも負けない。まだまだ伸びると思ってやっている」とエースは言い切る。08年、10年のワールドカップで坂本は代表に選ばれ、連覇を経験した。今回、侍ジャパン入りは叶わなかったが、日の丸のユニホームへの思いは捨てていない。 
(写真:坂本は伊予銀行の関連会社である伊予トータルサービスで勤務。平日の業務終了後や休日に練習している)

 上田監督は「1球1球を大切にプレーする」ことを選手たちに求める。
「準々決勝で敗れましたが、上位との差はそれほど大きくない。粘り強く、丁寧にひとつひとつアウトを重ねていけるチームになれば、どんな相手でも勝てるはずです」

 高校や大学の部活動とは異なり、仕事との兼ね合いで全員が集まって練習する機会はなかなかつくれない。「いつも10名前後で練習していますから、もう少しチームの人数を増やしたい。そうすれば細かい連携プレーも、もっと練習できるようになる」と上田監督は選手集めにも奔走している。
「現状、ピッチャーは坂本と堀越(若菜)の2人体制。2人とも右ですから、左ピッチャーの獲得を目指しています」
 来年は2名ほど選手を増やし、より戦力を厚くする方針だ。

 マドンナ松山は10月に千葉・市原市で開かれる全日本女子硬式クラブ野球選手権大会に出場する。昨年は4位に終わり、坂本も「同じクラブチーム同士の戦いなので負けられない」と意気込む。これからも日本一という“坂の上の雲”を追いかけ、マドンナたちは白球に向かい続ける。




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