12日から11日間にわたって長崎県で開催された国民体育大会に、伊予銀行テニス部が出場。佐野紘一・廣一義ペアで臨んだ男子はベスト4進出、そして女子では長谷川茉美選手が大学生の清水真莉奈選手とペアを組み、一般女子の部としては県勢31年ぶりの入賞(6位)を果たした。そこで今回は、チームが今大会でつかんだ手応えと課題について、秀島達哉監督に訊いた。

 3年ぶりに伊予銀行の選手が2人そろっての国体出場となった男子テニスは、エースの佐野選手と今季最も成長著しい廣選手が挑んだ。最大のヤマ場は、順当に勝てば福岡県と当たる準々決勝だとにらんでいた。果たして、その通りとなった。福岡県の代表はプロの片山翔選手(イカイ)と、元学生チャンピオンの伊藤潤選手(九州電力)。国内での2人の実力は折り紙つきだ。秀島監督も実力だけを見れば、「勝率は3割程度」だと考えていた。

 だが、勝機は十分にあるとも感じていた。そのきっかけとなったのが、国体の約1カ月前に行なった福岡県との合同練習だった。その時は既にトーナメントは発表されており、お互いに初戦を突破すれば準々決勝で当たることはわかっていた。その合同練習では佐野選手も廣選手も、完敗だったという。しかし、指揮官はこの時の試合を踏まえて、対策を立てていた。

 福岡県との試合でカギを握ると見られていたのは、シングルスNo.2の廣選手だった。同No.1の佐野選手と対戦するのはプロの片山選手。さすがの佐野選手も、片山選手(13年東アジア大会金メダリスト)に勝つのはかなり厳しい。そこで、なんとかNo.2の廣選手でシングルスを1本取り、ダブルスに持ち込みたいと考えていたのだ。だが、合同練習では廣選手は伊藤選手にいいようにやられていた。内容的には競っても、最終的にスコアは離されていた。最大の敗因は、廣選手の好調さにあった。

「廣は今シーズン、ベースラインでのストロークが安定していて、とても調子がいいんです。そのために、クロスの打ち合いをしがちなのですが、そうすると伊藤選手にはパワーで押し切られてしまうんです。合同練習では、まさにそのパターンでやられてしまっていました」

 そこで秀島監督が編み出した対策は、次のようなものだった。
「伊藤選手に勝つには、クロスで打ち合うのではなく、ダウン・ザ・ライン、つまりストレートをカウンター気味に打って、相手の体勢を崩したところで、ネットに詰めてフィニッシュすると。とにかくこちらから早めにしかける展開をしていこうと話をしていました」
 その戦略がズバリ的中した。廣選手は伊藤選手相手に9−8と接戦を制し、シングルスを1勝1敗としてダブルスへと持ち込んだのだ。

 ダブルスには指揮官も、そして佐野、廣両選手も自信を持っていた。愛媛県予選、四国ブロック予選を通過し、国体出場が決まって以降、2人はダブルスに力を入れてきた。8月の愛媛オープンでは決勝に進出するなど、本番に向けて2人のプレーはブラッシュアップされていった。そして、片山・伊藤の強豪ペアにも臆することなく、佐野・広瀬ペアは8−6で勝ち切った。広瀬選手が後ろで安定したストローク戦を展開し、佐野選手がネットプレーで仕留める――2人の強みがいかされた理想的なゲーム展開だった。

 3位決定戦、序盤で決したダブルス

 しかし、同日に行なわれた準決勝では、和歌山県にシングルスを連続で2本取られての完敗を喫し、翌日の3位決定戦へとまわることとなった。昨年、同行初の3位となった伊予銀行としては、それ以上の成績を目指してきた。それだけに、せめて昨年と同じ成績をキープしたいという思いは強くあっただろう。3位決定戦では、そんな思いが動きをかたくした部分はあったに違いない。

 迎えた三重県との3位決定戦、まずはシングルスNo.1の佐野選手が8−5で勝利した。そしてシングルスNo.2に挑んだ廣選手も常にリードする展開で、接戦ながら試合を優位に進めていた。そして7−6からの14ゲーム目、相手のサービスゲームをブレークすれば、廣選手が勝利し、3位が決定するという場面、廣選手はマッチポイントを握った。しかし、このプレッシャーがかかる場面で、相手が積極的に攻めてきた。このゲームを逆に取られて、7−7で並ばれると、ここから廣選手は相手の攻撃に防戦一方となってしまったのだ。結局、7−9で逆転負けを喫した。

 続いて行なわれたダブルスでは、実力的には十分に勝てる試合だった。ところが、出だしで相手に流れがいってしまったという。
「その日は風が強かったのですが、相手はそれを計算していたのでしょう、ロブを多用して、緩いテンポで打ってきたんです。それに、佐野と広瀬が対応しきれず、序盤でミスが続いて一気に0−4と引き離されてしまったんです。盛り返そうと必死になったのですが、こちらがブレークしそうになると、大事なところでサービスエースを決めてくる。その繰り返しで、向こうが集中力を高めていく一方で、佐野と広瀬は焦りが募って、かみ合わなくなってしまいました。もちろん、この試合を甘くみていたわけではありませんが、向こうの方がゲームの入りをストイックに考えていた。その差が出たのだと思います」

 結果は4位と、昨年を下回る成績となった。だが、最もヤマ場だと考えていた格上の福岡県に勝利したことは、佐野、廣の両選手はもちろんのこと、チームへの勢いにもなったに違いない。そして、出場していない選手たちが懸命にサポートし、チーム一丸となって佐野、廣の両選手を盛り上げたことが、厳しい局面を乗り越えた大きな要因となったと秀島監督は見ている。ひいてはそれが、1カ月半後に待ち受けている日本リーグへの弾みとなると指揮官は確信している。

 トレーニングで得た手応えと自信

 また、今年新たに入部した女子の長谷川選手も、大学生の清水選手とペアを組み、国体に出場した。実は長谷川選手は夏に膝の十字靭帯損傷という大ケガに見舞われ、1カ月半以上もの間、リハビリ生活を送ってきた。「国体には絶対に出場したい」という強い思いが、厳しいリハビリ生活に耐え得るモチベーションとなっていたのである。

 そして国体では、1回戦では奈良県、2回戦では京都府に勝利し、準々決勝へ。その準々決勝では茨城県に惜しくも敗れるも、5〜8位決定戦で岐阜県に勝利し、一般女子では県勢31年ぶりの入賞という快挙を達成した。
「清水選手とのダブルスは練習する時間がなくて、現地で練習しただけなんです。それでも2人の性格が合っていたみたいで、息の合ったプレーをしていました。とにかく、膝の故障からここまでよく頑張りましたよ」
 そう言って、秀島監督は努力の末の見事な復帰を称えた。

 さて、11月の全日本選手権を終えると、いよいよ実業団にとって決戦の舞台となる日本リーグが幕を開ける。4年ぶりの決勝トーナメントを狙う伊予銀行。そのキーマンとなるのが今季絶好調の廣選手だ。好調の要因は、積極的なトレーニングによって、体幹などのフィジカルが鍛えられ、ひいてはそれがプレーにもつながっていることがあげられる。と同時に、メンタルの部分にも変化が生まれている。

「昨年の日本リーグが終わってから、廣のテニスに対する言動が変わってきたんです。特にトレーニングへの取り組みはチーム一ですね。フィジカル強化が自分のプレーを引き上げていることがわかってからというもの、一番トレーニングに積極的です。トレーナーから与えられたメニューの中には、複雑な動きのものもあって、なかなか覚えられないメンバーもいるのですが、廣は一番覚えがいい。だから他のメンバーにも指導する役割を担っているんです。チームの中では暗黙の了解で、トレーニング隊長となっていますね」

 もともとダブルスを得意としてきた広瀬選手は、ネットプレーに定評があった。今季はそれに加えてストローク戦でも負けない力をつけ、自ら攻めてゲームを展開していくことができるようになっている。そのため、これまで日本リーグでは主にダブルス要員だったが、今回はシングルスでの出場も十分に可能性はあると指揮官は語る。
「これまではシングルスは佐野、飯野の起用が主でしたが、ここに廣が割って入ってきた。それだけ層が厚くなり、チームとしての引き出しが増えたということ。そういう意味でも廣の成長はチームにとって大きいですね」
 今回の日本リーグでは、これまでとはひと味違った伊予銀行のテニスが見られそうだ。




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