北京五輪代表選考会を兼ねた陸上の第92回日本選手権は最終日の29日、男女12種目の決勝などが行われた。女子5000メートルは19歳の小林祐梨子(豊田自動織機)が15分11秒97で初優勝。小林はすでに五輪参加標準記録Aを突破しているため初の五輪代表に内定した。
 男子100メートルは塚原直貴(富士通)が10秒31で3連覇、初の五輪代表に内定した。2位には朝原宣治(大阪ガス)が10秒37で入った。朝原も標準記録Aをすでに突破しているため、4大会連続の五輪代表は確実と見られる。
(写真:女子5000メートルで優勝し初の五輪出場に内定した小林)
 男子400メートルは、怪我からの回復具合が心配された金丸祐三(法大)が45秒69で4連覇を果たし、初の五輪代表に内定した。
 男子走り高跳びは、身長171センチと走り高跳び選手としては一際小柄な土屋光(モンテローザ)が2メートル18で初優勝。五輪参加標準記録Aを突破している日本記録保持者の醍醐直幸(富士通)は2メートル18をパスして2メートル21に挑んだが3度失敗に終わり、2位となった。
 男子3000メートル障害は岩水嘉孝(富士通)は2年連続7度目の優勝を果たし、五輪代表に内定した。男子やり投げは、村上幸史が5度目となる標準記録B突破の79メートル71で9連覇を果たし、2大会連続出場へ向け大きくアピールした。
 女子100メートルは福島千里(北海道ハイテクAC)が11秒48で初優勝。同400メートルは丹野麻美(ナチュリル)が52秒68で2年連続4度目の優勝を果たした。
 日本陸連は30日、強化委員会と理事会を開き、北京五輪代表選手を発表する。  

 塚原、3連覇で初五輪切符獲得

 男子100メートル決勝、好スタートを切ったのは36歳の朝原だった。だが終盤、新社会人となった塚原が伸びを見せ、残り15メートルで朝原をかわすとトップでゴール。10秒31で3連覇を果たし、自身初の五輪切符を掴んだ。
(写真:男子100メートル決勝。左端が優勝の塚原。右端は2位の朝原)
 3月に左アキレスけんを故障し、この日も恥骨が炎症を起こすなど万全の状態ではなかったという塚原は、レース後、「下半身がガクガク(笑)。やっぱりまだまだ練習が足りてない」と苦笑い。
「スタートは精彩を欠いてる部分があるし、後半に頼った走りになってしまっている」と自己の走りを分析した上で、「残り10メートルの勝負だと思っていた。絞った狙ったレースで勝てたのは大きい。刻まずに乗り込んでいく、という良い走りはできている。良い部分を殺さず、さらに挑戦していきたい」と意気込んだ。
 2位に入った朝原も、すでに標準記録Aを突破しているため、五輪代表入りはほぼ確実と見られる。この日の決勝は、朝原が3コース、塚原が6コースと離れていたため「塚原が見えなくて、勝てると思って走っていた」と朝原。塚原のラストの伸びに敗れたものの、「自分の感触を掴んで走ることができた」と手ごたえを口にした。
 代表に決定すれば4度目となる五輪に向けては「五輪はいつも楽しいところで夢の舞台だと思っている。今回が本当に最後になるので、楽しみながら結果を出したい」と意欲を見せた。
 昨夏、大阪で行われた世界選手権で5位に食い込んだ400メートルリレーでの活躍も期待がかかる。

 小林、残り500メートルの鮮やかスパートで初? 
 
 降りしきる雨の中で行われた最終種目の女子5000メートル決勝。1万メートルで激しい優勝争いを演じた渋井陽子(三井住友海上)、福士加代子(ワコール)、赤羽有紀子(ホクレン)ら実力者を抑えて優勝したのは、本来専門とする1500メートルの出場を見合わせてこの種目に挑んだ19歳の小林だった。
 1万メートルでの激走を見て「鳥肌が立った。あのメンバーと一緒の舞台に加われると思ったら、走る前から楽しくてソワソワしていた」。
 序盤から渋井がレースを引っ張り、4000メートル地点で福士が前へ。ピタリとつけた小林は「20回くらい、前に出ようかと思ったが、鐘のなる前、ラストの1番自信があるところで出ようと思っていた」と冷静な判断で、残り500メートルで先頭に立つと、1500メートルで磨いた切れ味の鋭い走りで後続を一気に引き離した。
 初の大舞台となる北京五輪へ向け、「世界はすごかった、では意味がない。日本で勝つことが目標じゃないので、(五輪の舞台に)立てただけで喜んでいてはいけないと思う。何かを得て帰ってきたい。まずは決勝に進んで、世界のスピードに肌で触れたい」と力強く語った。志の高い19歳の初舞台での走りに期待が高まる。