28日、シドニー五輪女子マラソン金メダリストの高橋尚子選手が現役を引退することを明らかにし、都内ホテルで記者会見を行った。終始笑顔で臨んだ会見で高橋は「今まで走ってくることができたのは、応援して下さる温かい皆さんのおかげです。本当に心から感謝をしております。どうもありがとうございました」と、自らの支えとなった人々への感謝の気持ちを伝えていた。
 会見の冒頭で自らの陸上生活を「中学から陸上を始めて、オリンピック、世界記録など多くの経験することで、台風のごとく色々なことが引退まで過ぎ去って、今は過ぎ去った台風の後に爽やかな風が吹いているよう」と振り返った。また「陸上人生に悔いはない。完全燃焼できました」と引退発表に臨んだ現在の心境を述べた。
(写真:晴れやかな表情で会見に臨んだ高橋尚子選手)
 高橋はにこやかな表情ながらも、引退という苦渋の決断をした経緯を語った。
 その中で彼女は「トップアスリートとしての姿」「プロ高橋尚子」という言葉を頻繁に口にした。自ら思い描く走りをしなければ、応援してくれるファンに申し訳ないという気持ちを持っていたのだろう。5月から米国で合宿を行ってきた高橋が焦りを感じてきたのは8月頃からだったという。自分が思うとおりに体がついていかなくなった。「このままではいけない」「もっとがんばらなければいけない」。一人で悩みながら8月からの2カ月間を過ごした。9月に代理人に初めて自らの苦しい胸中を告げ、もう少しがんばってから決断をすると決めたという。しかし、1カ月経っても体、気持ちの状態は変わることなく、10月10日に現役引退を決め、関係者にその意向を告げた。

 驚きを持って迎えられた日本国内の3大マラソン(11月東京、1月大阪、3月名古屋)を走破する夢は2001年頃から持っていた。しかし、“プロ高橋尚子”として3連戦に出場しても思ったような成績を上げられないことは自らが最もわかっていた。「ファンランのような形になるならば、一度現役を退いてから挑戦したい」と高橋は語った。今年、現役選手としてその夢は叶わなかった。しかし、常々「あきらめなければ夢は必ず叶う」といい続けてきた彼女はいつの日かこの夢も実現してくれることだろう。

 質疑応答では「3大会のうち1つの試合にも出ずに終わることは、完全燃焼したことにはならないのではないか」という手厳しい質問が飛んだ。これに対し高橋は「私は常に全力で走ってきました。それは練習でも試合でも変わりません。練習の中で全力で走ることができなくなっていった。そんな状態で試合に出ても、自分が全力で走れるとは思えません。ここまで思えるのだから、私は完全燃焼できたんだと思っています」と、改めて挑戦しつづけた陸上人生に悔いなく幕を下ろすことができたとコメントした。
(写真:会見の最後には思わず涙ぐむシーンも)

 その後も終始晴れやかな表情で記者の質問に答えてきた。悩みぬいた末での決断に、気持ちの整理はしっかりとついているようだった。会見の最後にもファンへの感謝を述べ、その場を締めくくった。
 席を立つ際に集まった多くの報道陣から拍手が上がる。これに不意をつかれ驚いたのか、高橋は堪えていたものを抑えきれなくなり涙ぐんだ。今回の決断がいかに困難なものだったか、この涙が語っているように思えた。

 日本人女子として陸上界で始めて世界の頂点に立った希代のアスリートが一線から退く。女子マラソン界の最盛期を牽引した彼女の引退で、日本陸上界にとって一つの時代が終わりを告げた。



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