20日、陸上世界選手権6日目で男子200m決勝が行われ、100mに続く金メダル獲得を目指したウサイン・ボルト(ジャマイカ)が19秒19のタイムで世界新記録を樹立。自身が北京オリンピックで記録した19秒30を0秒11縮める驚異のタイムで今大会2冠を達成した。
 満員のスタジアムが再びボルト劇場に酔いしれた――。男子200m決勝でボルトがついに真剣勝負を挑んだ。ボルトの相手は共に決勝のレースを走る7選手ではなく、昨年、北京オリンピックの舞台で19秒30を記録した自分自身の姿だったに違いない。大会期間中のインタビューで「伝説を作るためにベルリンへやってきた」と公言してきたボルト。自身がもっとも得意とするこの距離で世界新記録を更新すること。これが今日の彼に与えられたミッションだった。

 ボルトは5レーンという絶好の位置でレースに臨んだ。スタートでは2レーンのダビド・アレルト(フランス)がフライングを犯し仕切り直しとなるが、ボルトはそれでも冷静さを欠かなかった。2回目のスタートを告げるピストルが鳴ると同時に、抜群の反応でスタートを切る。

 大きなストライドでコーナーから直線に向く前に、アウトコースを走る選手に並びかけるボルト。直線に入ると、さらにギアを上げ後続を突き放し、早々に金メダルを確定させた。ここからが彼の本当の勝負だ。これまで世界新記録を樹立した100m決勝ですら、最後に力を抜くシーンがみられたが、200mでは最後まで真剣な表情でゴールラインを駆け抜ける。このレースぶりからも、ボルトがベルリンでの世界記録樹立に並々ならぬ意欲を持っていたことがうかがえた。独走でゴールラインを超えた瞬間、スタジアムに計時されたタイムは19秒19。1年前の記録を0秒11と大幅に更新する驚くべき世界記録を樹立した。

 100mに続き200mでも世界新記録を更新。偶然にも2種目とも従来の記録を0秒11ずつ刻んだことになる。陸上短距離の世界で記録を縮めることは、張り詰めた緊張感の中で100分の1秒ずつ更新していくのが今までの姿だった。しかし、ボルトはまさに桁違いのスケールで0秒1以上も記録を塗り替えた。しかも100mでは横目をみながら、そして200mではレース前にカメラの前でパフォーマンスをする“余裕”が垣間見られた。

 これまで高身長の選手は空気抵抗が大きく、短距離では不利になるという説が一般的だった。人類は100mをどんなに早くても9秒6を切ることはできないという発表をする研究者もいた。しかし、ボルトの走りを見ていると、それらは机上の空論にすぎないと思わざるを得ない。

 規格外の走りというより、全ての常識を覆す走りで、短距離2種目の世界記録を樹立したボルト。彼の最後の目標はジャマイカチームによる4×100m金メダル獲得だ。2日後に行なわれる決勝では、200mを欠場しこの種目に懸けるタイソン・ゲイ擁する米国チームとの対戦が待っている。このレースでも金メダルを獲得し、さらに世界新を更新することになれば、北京オリンピックに続く“世界新3冠”が達成される。1年前の偉業を自らの手で再演する。これが完結すれば“伝説”は達成される。ボルト劇場最終幕・4×100mが今大会のクライマックスになるのは間違いない。