横浜ベイスターズの新入団選手発表が8日、横浜市内のホテルで行われ、先のドラフト会議で5巡目指名を受けた香川オリーブガイナーズの福田岳洋投手も会見に臨んだ。背番号「49」のユニホームを初披露した福田は「ようやくユニホームに袖を通すことができた。早く1軍に上がって横浜ベイスターズの優勝に貢献し、尾花監督を胴上げしたいと思います」と力強く抱負を語った。
(写真:「ピンチの時に気迫で投げるピッチングは誰にも負けない」とアピールした福田)
「ハマのバガボンドと呼んでください」
 会見で自らにつけるニックネームを問われて、福田はこう答えた。井上雄彦氏の漫画のタイトルにもなっている「バガボンド(vagabond)」とは英語で放浪者の意。まさに紆余曲折の野球人生をたどってきた彼にはピッタリのニックネームだ。京都・大谷高時代は2000年に夏の府予選決勝まで勝ち進んだが、あと一歩で甲子園への切符を逃した。進学した高知大では四国六大学で最多勝のタイトルを獲得したものの、神宮でプレーすることはかなわなかった。小さい頃から漠然とプロ野球選手になりたいとは思っていたが、それは夢のまた夢だった。

 ならばと研究者の道を志し、京都大大学院へと進む。専攻はスポーツ科学。投球モーションをテーマに筋肉のメカニズムや使い方を調べた。自分を実験台としながら、投球フォームを研究するうちに胸の奥にしまっていた思いがよみがえってきた。「やっぱり野球をやりたい」。クラブチームに入り、野球を再開した。院生活と野球を両立させるため、実家を離れて下宿も始めた。「“この半年間が転機になった”と言っていたんですよ」と母・なな子さんが明かすように、ボールを投げる日々の中で夢は抑えきれないものになっていた。「プロ野球に行きたい」。1年で大学院を休学し、アイランドリーグに飛びこんだ。

 しかし、熱いハートのみで行けるほど、NPBは甘い世界ではない。アイランドリーグではNPBを経験したコーチたちの指導により、夢をかなえるための確かな技術を身につけた。入団当時の加藤博人コーチ(現徳島コーチ)からは、後ろを小さく、前を大きく投げる投球フォームの指導を受けた。「それまでは、どちらかというと腕だけで投げようとしていた。前を大きく投げるには体全体を使わないといけない。改善すると今まで以上にボールが走るようになりました」。実際、球速は香川に来て、5キロアップした。

 今季は岡本克道コーチ(来季より横浜1軍投手コーチ)から変化球に磨きをかけるようにアドバイスを受けた。「それまでは球速を150キロにアップさせることを考えていました。でもいくら速くても同じボールを続けていたら打たれる。カーブを間に挟むことで、140キロのストレートも相手に速く感じさせることができる」。野茂英雄に憧れて、もともと習得していたフォークボールも、単に挟んで落とすだけではなく、一方の指だけ縫い目にかけて変化をつけたり、無回転であまり沈まない形にするなど、バリエーションをつけた。

 大学院の休学期間は2年。今年がダメなら、今度こそ野球をあきらめて研究の道に戻るつもりだった。今季は腰を痛めて戦列を離れた時期もあったが、夏場以降に巻き返し、昨季を上回る10勝(5敗)マーク。10月のフェニックス・リーグで「初速と終速の差が少ない」とスカウトの目に留まり、ついに夢をつかんだ。今回の入団により、大学院は晴れて“退学”。「先生はわがままを言ったにもかかわらず、本当に喜んでくれました。でも普通、京大を切るなんてなかなかないでしょうね(笑)」。研究成果はプロのマウンドで発表することになる。
(写真:体操選手ばりのポーズをみせ、報道陣、関係者を驚かせた)

 対戦したいバッターは金本知憲(阪神)だ。「金本さんは西田監督と(広島で)師弟関係だったと聞いています。僕も監督の弟子なので、ぜひ対戦したい。抑えたら監督に報告したいと思っています」。本当は会見を見守っていた西田真二監督に、壇上でこの話をしたかったができなかった。それでも教え子の晴れ姿に西田監督は「プロは厳しい世界。レベルは高いので、弱気になったらダメ。“これならやれる”というものを早くつかむこと。今日の会見で言ったことを忘れず、キャンプから体をつくって信頼される投手になってほしい」とエールを送った。

「横浜は生まれ変わります。強くなります」と宣言する加地隆雄球団社長の下、横浜は巨人から名投手コーチの尾花高夫監督を招聘した。清水直行を先発の柱として、橋本将を扇の要として獲得するなど、チームが大きく変わりつつある。今回入団したルーキーたちも、1巡目指名の筒香嘉智(横浜高)を除き、全員が投手だ。26歳の福田にとって、年下の同期メンバーも1軍を争う強力なライバルとなる。尾花監督は「“新人はキャンプ中は手をつけるな”とコーチには言っている。良い時と悪い時をじっくり観察する時間を設けなくてはいけない」と選手をまず見極める方針を示しており、キャンプでのアピールは最初の分岐点だ。「何でも印象に残ることは大事なこと。山口(鉄也=巨人)は野球への心がけが良かった。技術をアピールすることは一番だが、それ以外の部分でも見てみたいと思わせることが大事」。指揮官は最下位球団に活気をもたらすルーキーの台頭を待ち望んでいる。
(写真:尾花監督(中央右)、加地社長(中央左)と新入団選手たち)

 福田は先のフェニックス・リーグ、北海道日本ハム・中田翔に外角の速球をバックスクリーンに運ばれている。フェニックス・リーグや交流試合を通じ、NPBへの手ごたえを他のルーキーより早くつかんだ一方で、その厳しさも先に味わった。横浜でお手本とするのはエース三浦大輔だ。「趣味は人間観察」という右腕は、135勝をあげているハマの番長から勝つためのテクニックを貪欲に盗み取るつもりでいる。
「入ったからには言い訳は許されない。いいボールを投げるだけでなく、勝てる投手になりたい」
 流浪の野球人生の末にたどりついた勝負の地。漫画『バガボンド』の主人公、剣豪・宮本武蔵よろしく、ハマのバガボンドは相手バッターをクールに斬り倒す。


<元愛媛・梶原、日本ハムのブルペン捕手へ>

 今季限りで愛媛マンダリンパイレーツを退団した梶原有司捕手が来季より北海道日本ハムのブルペン捕手として採用されることが決まった。梶原は北九州市立大を中退し、リーグ初年度の2005年から愛媛入り。中心選手として、5年間で414試合に出場し、打率.255、6本塁打、125打点の成績を残した。アイランドリーグ出身では今年の5月に元徳島の佐藤学投手が楽天の打撃投手に採用されるなど、裏方としてチームをささえる元選手は少なくない。ブルペン捕手では今季、元徳島の加藤光成捕手が福岡ソフトバンク入りしている。

(石田洋之)