優勝候補のイングランドを筆頭にアメリカ、スロベニア、アルジェリアが同居するグループC。スペイン・ブラジルについで高い評価を得てきたイングランドだが、ここへきて負傷者が続出し、ファビオ・カペッロ監督は頭を抱える日々が続いている。
◎ アメリカ
〇 イングランド
▲ スロベニア
  アルジェリア

 特に主将のリオ・ファーディナンドの離脱は大きな痛手だ。腰に爆弾を抱えコンディションが上がらなかったファーディナンドは練習中にさらに左ひざを負傷し、代表から外れることとなった。カペッロ監督はマイケル・ドーソン(トッテナム)を追加招集したが、ドーソンはこれまで代表戦出場はなく、実力・経験ともにファーディナンドに大きく劣る。ジョン・テリー(チェルシー)とセンターバックを組むのはレドリー・キング(トッテナム)、もしくはマシュー・アップソン(ウェストハム)になるか。豪華な攻撃陣に比べると、非力な感が否めない守備陣。守護神も絶対的な存在がいないため、テリーに圧し掛かる負担が大きくなりそう。

 イングランドに代わって、グループCの主役になるポテンシャルを秘めているのがアメリカだ。昨年行われたコンフェデレーションズカップでスペインに土をつけたのも記憶に新しい。“サッカー不毛の地”と言われ続けてきたが、代表選手の多くは英・プレミアリーグを中心に欧州リーグで活躍している。コンフェデ準優勝の再現となれば、イングランドを出し抜いて首位通過の可能性もある。

 鍵を握るのはGKティム・ハワード(エバートン)だ。プレミアの古豪でプレーする彼はイングランド代表を知り尽くしている。元バスケットボール選手という異色の経歴の持ち主は高いフィジカルパフォーマンスでチームを鼓舞する。イングランドとは対照的に、絶対的守護神がゴールを守ることでチームに安定感を与えている。攻撃はカウンター中心で司令塔のマイケル・ブラッドリー(ボルシアMG)がスピード豊かな選手たちを操る。初戦のイングランド戦で引き分け、もしくはそれ以上の結果を残すようであれば、02年日韓大会以来のベスト8も見えてくる。

 アメリカはこれまで独自の方法で代表チームを強化してきた。彼らのアプローチは日本代表にも大いに参考になる。アメリカが上位に進出することで、欧州や南米以外の地域でも世界に通用するサッカーが創造できることを証明してもらいたい。

 スロベニアは旧ユーゴ勢の中でも地味な印象を受けるが、組織立ったプレーで厳しい予選を突破してきた。特にフース・ヒディンク率いるロシアをプレーオフで下しているだけに、その実力は侮れない。プレーオフで決勝点を挙げたズラトコ・デディッチ(ボーフム)をはじめとして前線からプレスをかけ相手に自由を与えない。相手がDFラインで少しでも隙を見せれば、あっという間にボールを奪いにくる。組織の完成度も高く、ハードワークを厭わない彼らが世界を驚かせる可能性は十分にある。

 アルジェリアは20年ぶり3回目の本大会出場となる。今年のアフリカネーションズカップでは4強入りを果たし上り調子できていたものの、ここ最近の親善試合では黒星が続いている。上位進出は難しいが、アフリカ大陸での大会という“準ホーム”のアドバンテージをいかし、どこまで格上相手に食らいついていけるか。

(A.O)

 イングランドにとってW杯は敗北の歴史の積み重ねだ。1966年のイングランド大会優勝を除けばベスト4入りを果たしたのは90年イタリア大会のみ。サッカーの母国として毎回優勝を期待されながら、決勝トーナメントに入ると勝負弱さを露呈し、国民の期待を裏切り続けてきた。そんなイングランドに勝者のメンタリティを持ち込んだのがファビオ・カペッロ。厳格なイタリア人に率いられたイングランドは欧州予選を9勝1敗と圧倒的な強さを見せ付けて突破した。カペッロ政権下のイングランド代表の勝率は実に75パーセントにも上る。カペッロが叩き込んだ勝負強さは、悲願のW杯制覇に向けた最後のピースとなるはずだ。

◎ イングランド
〇 アメリカ
▲ スロベニア
  アルジェリア

 だが、それでもいくつか不安要素が挙げられる。まずは攻撃面におけるウェイン・ルーニー(マンチェスター・ユナイテッド)に対する依存度の高さだ。本大会ではどの国もルーニーを徹底マークしてくるだろう。フランク・ランパード(チェルシー)やスティーブン・ジェラード(リバプール)など攻撃力のある中盤の選手のサポートで、彼への負担を和らげることができるかがポイントだ。

 また守備陣にも大きな不安が残る。最大の懸念はGKだ。いまだに誰がゴールマウスを守るのかはっきりしない。安定感のあるロバート・グリーン(ウェストハム)、若手のジョー・ハート(バーミンガム)、そして39歳のベテラン、デイビッド・ジェームズ(ポーツマス)が登録されているが、いずれも一長一短があり決定的な要素に欠ける。ファーディナンドが代表から外れ、右サイドバックのグレン・ジョンソン(リバプール)の守備力にも不安が残る。ディフェンスは決して磐石とはいえない。

 イングランドには勝たなければいけない理由が他にもある。それはデイビッド・ベッカム(ACミラン)の存在だ。3月にアキレス腱を断裂し、本大会出場は叶わなかったがサポート役としてチームに同行する。誰よりもW杯でのプレーを望んでいたベッカムにW杯を手渡すことが、スリーライオンズ(イングランド代表の愛称)にとって大きなモチベーションとなるはずだ。

 アメリカ代表も上位進出の可能性を十分秘めている。昨年のコンフェデ杯では35試合連続無敗記録を継続していたスペインから大金星を挙げた。意外に知られていないが、最初のW杯(30年ウルグアイ大会)では3位という結果を残している。

 アメリカ代表の武器は鋭いカウンターだ。ランドン・ドノバン(ロサンゼルス・ギャラクシー)、クリント・デンプシー(フルアム)、ジョジー・アルティドール(ハル・シティ)などスピードのある選手たちが一気にゴールに襲い掛かる。ディフェンスも守護神のハワードを中心に安定している。高い身体能力と、組織化されたサッカーを武器に02年日韓大会以来のベスト8以上を目指す。

 スロベニアは堅守でW杯出場を勝ち取った。プレーオフを含めた欧州予選では12試合でわずか6失点。特にセリエAで活躍するサミール・ハンダノビッチ(ウディネーゼ)はワールドクラスのゴールキーパーだ。スロベニアの命運はこの守護神の双肩にかかっている。

 アルジェリアはやや厳しい戦いを強いられるかもしれない。個ではナディル・ベラージ(ポーツマス)やカリム・ジアニ(ヴォルフスブルク)など高いテクニックを持つ好タレントもいるが、組織としての力は高くない。個人としても、チームとしても、イングランドやアメリカには太刀打ちできないだろう。

(S.S)