オランダ戦は、岡田ジャパンのベストマッチとも言える内容でした。カメルーン戦同様、DFラインはしっかりバランスを保ち、相手を追い込んでボールを奪えていました。徐々にオランダはボールを回しに終始するようになり、攻め手を欠いていましたね。組織だった守備からリズムをつくり、攻撃に転じる。遅ればせながらW杯本番になって、日本のスタイルが確立されたのではないでしょうか。


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 日本には“退場者”がいた

 失点シーンは一瞬のスキを突かれました。まず左クロスをあげたDFジョバンニ・ファン・ブロンクホルスト(フェイエノールト)への寄せが甘かった。そしてクリアボールも田中マルクス闘莉王(名古屋)が悔やんでいたように小さくなってしまいました。そして、ミドルシュートに対するGK川島永嗣(川崎)のパンチングも中途半端でした。シュートの軌道は右にスライスしており、変化しやすい今大会の公式球の特性が災いしましたね。

 しかし、明らかな守りのほころびは90分間でこのワンプレーのみ。選手たちを責めることはできません。むしろワンチャンスを逃さないオランダの勝負強さ、技術の高さを褒めるべきでしょう。相手は日本より少ない9本のシュートながら枠内に入った本数は上でした(日本3、オランダ5)。シュートは枠内に飛ばし、少なくともふかさない。日本は大久保嘉人(神戸)にしろ、岡崎慎司(清水)にしろ、シュートがバーの上を越えてしまいました。キーパーが触る位置に来れば、今大会のボールは何が起こるかわかりません。こういった技術は小さい頃からの指導で培われたものです。育成部分からの日本と強豪の差が最後は明暗を分けたとも言えるでしょう。

 好ゲームのなかで、苦言を呈したいのは途中出場した中村俊輔(横浜FM)、玉田圭司(名古屋)です。この大会は松井大輔(サンティエヌ)が非常に献身的に動いているだけに、交代してからの中村俊の運動量の低さが余計に目立ちました。岡田武史監督は彼に攻撃の起点となることを期待したのでしょう。そのためにはまずボールを取らなくてはいけません。ところが、中村俊は自分から奪いに行かず、ただボールが来るのを待っているようにしか映りませんでした。

 これは今、日本がチームで徹底しているスタイルとは正反対の動きです。厳しい言い方ですが、これでは1人退場者が出ているのと変わりません。フィジカルの問題もあり、彼自身も現状には決して満足してはいないと思います。ここまで中村俊は代表の中心として大きな貢献をしてきました。ただ、目の前の試合を勝ち抜くには戦力として厳しい。そう判断せざるを得ないのではないでしょうか。

 そして玉田に関しては、何をしにピッチに入ったのか、全く分かりませんでした。同じ高校(市立習志野)の後輩だけに非常に悔しいです。彼は前回のドイツW杯にも出ています。1点ビハインドの場面で何をすべきかは充分、理解していたはずです。それなのに画面を通してギラギラしたものが伝わってこない。これでは代表に選ばれなかった他の選手たちに失礼です。玉田に今後出番があるかどうか知りませんが、日本のサッカー人の代表として恥ずかしくない姿を示してほしいと願っています。

 45分ではなく50分間戦い抜け!

 次はいよいよ運命を分けるデンマーク戦です。この2戦で日本の守備は通用することがはっきりしました。これは大きな収穫でしょう。今の戦いを90分間継続すれば勝てる。それは岡田監督や選手たちも確信を持っているはずです。ひとつ注意しなくてはいけないのは相手のサイド攻撃。デンマークはボールを奪うと、早く長いボールを左右のスペースに入れてくる傾向があります。ただ、日本も長友佑都(FC東京)、駒野友一(磐田)の両サイドバックが好調ですから、問題なくケアしてくれることでしょう。

 となるとやはり最終的にはゴールを奪うことが求められます。攻撃面でアクセントとなる選手が必要です。私はその役目を担うのは森本貴幸(カターニア)だと考えています。彼は海外で揉まれる中で、突破力、そして決定力に磨きをかけました。まず、前半を無失点で切り抜け、デンマークが前がかりになった後半に森本、岡崎を投入する。そしてラインの裏をとる。さらにはこぼれ球を狙って2列目から飛び出す――こんな展開になれば高い確率で決勝トーナメント進出がみえてきます。

 この一戦ですべてが決まるといえば、個人的には“ドーハの悲劇”を思い出さずにはいられません。あの時はロスタイムの同点弾でW杯出場を逃しました。今回も試合終了のホイッスルが鳴るまで気が抜けない戦いになると予想します。負けていれば攻めるしかありませんから、むしろ難しいのは同点、あるいは1点リードしている時の試合運びです。あの悲劇を経験した人間として、2つアドバイスをしたいと思います。

 ひとつは「中途半端なプレーをしない」。当然のことですが、これは極めて重要です。余裕がなくなってくると、どうしてもプレーが小さくなります。するとセカンドボールを相手に拾われ、守りを立て直す時間がなく、さらに焦りを生みます。クリアなら大きく蹴る。ボールを外に出すなら確実に出して試合を止める。はっきりさせることが大切です。

 次は「試合を50分ハーフで考える」。試合は絶対に45分では終わりません。たいてい3〜5分のロスタイムがあります。ドーハの際には、時計が45分を指した瞬間、ピッチもベンチも「もう終わりだ、早く終わってくれ」という雰囲気になっていました。それが冷静さを奪い、最後の落とし穴につながったのではないかと感じています。ですから後半40分の時点で、あと5分ではなく、まだ10分と考える。そして、その10分間を頑張り抜く。こういったメンタリティを全員が共有してゲームに臨んでほしいものです。

 最後の最後までチーム一丸となって戦い、ホイッスルが鳴った瞬間、歓喜の瞬間がやってくる――。デンマーク戦は日本では深夜になりますが、選手たちを信じ、みんなで応援しましょう!


大野俊三(おおの・しゅんぞう)
 元プロサッカー選手。1965年3月29日生まれ、千葉県船橋市出身。1983年に市立習志野高校を卒業後、住友金属工業に入社。1992年鹿島アントラーズ設立とともにプロ契約を結び、屈強のディフェンダーとして初期のアントラーズ黄金時代を支えた。京都パープルサンガに移籍したのち96年末に現役引退。その後の2年間を同クラブの指導スタッフ、普及スタッフとして過ごす。現在、鹿島ハイツスポーツプラザ(http://business2.plala.or.jp/kheights/)の総支配人としてソフト、ハード両面でのスポーツ拠点作りに励む傍ら、サッカー教室やTV解説等で多忙な日々を過ごしている。93年Jリーグベストイレブン、元日本代表。