2日、南アフリカワールドカップ準々決勝がポートエリザベスで行われ、オランダ(FIFAランキング4位)とブラジル(同1位)が対戦した。序盤から試合を支配したのはブラジルだった。前半10分、MFフェリペ・メロ(ユベントス)のスルーパスに反応したFWロビーニョ(サントス)がシュートを決め先制点を奪うと、その後も優れた個人技でオランダゴールへと迫る。しかし、後半に入ると右サイドからオランダがチャンスを作る。8分、MFヴェズレイ・スナイデル(インテル・ミラノ)のあげたクロスにF・メロがヘディングでクリアに入るものの、ボールはそのままブラジルゴールへと吸い込まれオランダが追いつく。23分には右サイドからのコーナーキックをFWディルク・カイト(リバプール)がニアでコースを変えるとゴール前でヘディングであわせたのはスナイデル。計算通りのプレーでオランダが逆転に成功すると、そのまま逃げきり2対1で勝利を収めた。オランダは3大会ぶりの準決勝進出となる一方、ブラジルは2大会連続で4強入りを逃がした。

 W杯の舞台で36年ぶりにセレソンから白星(ポートエリザベス)
オランダ 2−1 ブラジル
【得点】
[オ] オウンゴール(53分)、ヴェズレイ・スナイデル(68分)
[ブ] ロビーニョ(10分)

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 大会期間で初めての休養を2日間挟んで行なわれた準々決勝の初戦は、大会屈指の好カードとなった。優勝候補同士のオランダとブラジルは、過去のW杯では3度対戦している。最初の対戦は1974年西ドイツ大会で、ヨハン・クライフ擁するオランダがブラジルを下した。2回目の対戦は94年アメリカ大会、4対3でブラジルが打ち合いを制した。最後の対戦は98年フランス大会。この試合は1対1のまま延長戦でも決着がつかずPK戦を制したのはブラジルだった。通算成績は1勝1敗1分け(W杯のPK戦は引き分け扱い)。互角の結果を残している両者の対決に多くの注目が集まった。

 試合開始前にアクシデントに見舞われたのはオランダだ。直前の練習中にDFヨリス・マタイセン(ハンブルク)が負傷し、急遽DFアンドレ・オーイエル(PSV)が先発出場となった。オーイエルはベテランながら今大会初出場。連係が重要なセンターバックだけに少なくない不安を抱えてのキックオフとなった。

 オランダの懸念は、いきなり失点という形で現実のものとなる。10分、中盤でボールを持ったF・メロがドリブルで持ち込むと、ゴール前へスルーパスを出す。センターバック2人の間に通されたボールに走りこんだのは、やや下がり目の位置から全力で前に上がってきたロビーニョだ。マークについていたFWアリエン・ロッベン(バイエルン・ミュンヘン)を一気に振り切ると、完全にDFラインの裏をとりスルーパスをダイレクトでゴールへと流し込む。ロビーニョの鮮やかな飛び出しから先制点を奪ったブラジルが1点のリードを築く。

 その後も流れを掴んだのはブラジル。圧倒的にボールを保持しオランダゴールへと襲い掛かる。31分には左サイドでロビーニョがDF2人をかわしゴール前へパス。FWルイス・ファビアーノ(セビージャ)がヒールで流すとMFカカ(レアル・マドリッド)が右足のインフロントでコースを狙ったシュート。これはゴール右に逸れるが、完全にオランダDFを手玉にとるプレーだった。さらに前半終了間際にはDFミシェウ・バストス(リヨン)が左サイドからクロスをあげ、これを受けたMFダニウ・アウベス(バルセロナ)がためをつくり右サイドへ。そこへDFマイコン(インテル・ミラノ)が走りこんで右足でシュートを放つ。これはGKマールテン・ステケルンブルク(アヤックス)にセーブされるものの、一方的に攻撃を仕掛け主導権を握った。

 一方のオランダは相手の勢いに押されセットプレーでゴールを狙うほかに術がなかった。これまでの試合で右サイドからチャンスを演出してきたロッベンも突破する場面がほとんど見られず、苦しい前半となった。

 後半に入ると、前半は消されていたロッベンが少しずつ存在感を見せはじめる。挑発的なドリブルで相手のファウルを誘うと、フリーキックのチャンスから惜しいクロスをゴール前へと供給していった。

 迎えた8分、右サイドでロッベンが倒されて得たフリーキックをスナイデルが早いリスタートでロッベンへ送る。やや深いところまで侵入したロッベンはスナイデルへリターンパス。それを左足でスナイデルがゴール前へとクロスをあげる。GKとDFの間にコントロールされたボールをGKジュリオ・セーザル(インテル・ミラノ)がパンチングできず、そこへ競りかけていったF・メロの頭をかすめてボールはブラジルゴールへと吸い込まれ、オランダがオウンゴールというラッキーな形で同点に追いついた。

 それまで動きの重かったオランダだが、1点が入ったことで一気に出足がよくなる。段々とボールを持つ時間が増え、ブラジル陣内でプレーする時間が長くなっていった。12分にはPA右サイドで粘ったFWロビン・ファン・ペルシー(アーセナル)がシュートを放つ。しかし、これはDFファン(ローマ)が必死のクリアをみせゴールにはならず。

 だが、ここで得たコーナーキックのチャンスで、ロッベンは左足から鋭いボールを蹴りこむ。ニアサイドで待っていたカイトがバックヘッドでコースを変えると、ゴール前に入っていたスナイデルがヘディング。シュートは見事にコントロールされ、ゴールネットを揺らした。このゴールで2対1となり、オランダが逆転に成功した。

 逆転を許したブラジルに追い討ちをかけたのはF・メロの退場だ。28分にロッベンのマークについたF・メロが相手を倒すとファウルの後にスパイクでロッベンを踏みつけた。これを目の前で見ていた西村雄一主審は即座にレッドカードを提示し、F・メロは一発退場となる。F・メロにとってはオウンゴールにレッドカードと2つの不幸が重なる試合となった。

 10人となったブラジルを相手にオランダは余裕の試合運びをみせる。前半では何もさせてもらえなかったオランダの姿はもうそこにはなかった。34分にはショートカウンターから4対3の場面を作りゴールに迫り、39分にはゴール前でファン・ペルシーが粘ったところへスナイデルが走りこみシュート。これはGKの正面を突くが、いつ点が入ってもおかしくない状況が続いた。

 一方のブラジルは数的不利をはね返す力がなかった。1人減った場面からほとんどチャンスが生まれなくなり、ただ時間が過ぎていくだけ。ドゥンガ監督が切った攻撃のカードはL・ファビアーノに替えてニウマール(ビジャレアル)を入れたのみ。今大会で初めてリードを許したブラジルは、苦しい立場になってもあまりに無策で同点にする意欲も感じられなかった。残り2分でDFルシオ(インテル・ミラノ)が上がって倒されて得たフリーキックもD・アウベスが壁にあてゴールならず。前半のオランダのように、後半はブラジルにチャンスらしいチャンスがなかった。

 このまま試合は終了し、2対1でオランダがブラジルを下した。W杯での対ブラジル戦勝利は36年ぶりだ。出足こそちぐはぐな守備でピンチの連続だったが、ハーフタイムを境に攻撃の形を作ることができた。やはり大きいのは同点弾だ。早い時間に追いつけたことで、一気に勢いを掴み逆転へとつなげた。組み合わせを考えると、このまま決勝まで勝ち進む可能性が高い。悲願の初優勝まであと2勝。最大の壁を打ち破ったオレンジ軍団は初Vに向けて視界良好と言えるだろう。

(大山暁生)

【オランダ】
GK
ステケルンブルク
DF
ハイティンガ
オーイエル
ファン・デルビール
ファン・ブロンクホルスト
MF
ファン・ボメル
デヨンク
スナイデル
FW
カイト
ロッベン
ファン・ペルシー
→フンテラール(85分)

【ブラジル】
GK
J・セーザル
DF
ルシオ
ファン
マイコン
M・バストス
→ジウベルト(62分)
MF
F・メロ
G・シウバ
D・アウベス
カカ
FW
ロビーニョ
L・ファビアーノ
→ニウマール(77分)