ロフタス・バースフェルドは悲しみに包まれた。
 スコアレスドローのままPK戦に突入し、3人目の駒野友一がキックを外してしまうとスタジアムは歓喜と悲鳴が交差した。パラグアイはきっちりと5人目まで決め、GK川島永嗣はがっくりとうなだれた。奮闘むなしく、岡田ジャパンの夢は16強でついえた。
 パラグアイは、日本にとって苦手な部類に入る相手だった。

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 グループリーグで日本が戦ったカメルーンは最終ラインが脆弱だったし、デンマークは前がかりに来たためにスペースを使えた。しかし、このパラグアイは堅守速攻をモットーとし、中盤を激しい守備でつぶしてくる。スペースがないために攻めにくい。
 しかし、それは相手にとっても同じだ。日本も守備では結果を残してきた。ゾーンに入って中盤がつぶしにいく守備は統率がとれ、グループリーグ3試合で2失点というのは上出来だ。まして闘莉王と中澤佑二のセンターバックコンビが抜群の安定を見せているだけに、この対戦はロースコアでの決着が予想された。

 前半はパラグアイに押し込まれた。ネルソン・バルデスが控えで、今大会初出場のネストル・オルティゴサがアンカーに入る布陣。ボールをキープしながら日本陣営に迫っていくのだが、攻撃にバリエーションがないために日本は助かった。
 南アフリカのある通信社はこの試合を「退屈な試合」と評した。
 岡田監督が守備的な戦術に衣替えを選んだ以上、付け焼刃で前がかりにいったところでうまくいくとは思えない。中村俊輔や岡崎慎司などこれまで代表の常連組を外してきて、1対1に強い選手を前線に並べてチームを構成している以上、連係というよりは個の力で点を取っていくしかなかった。

 だが、退屈であればあるほど、日本にはチャンスが出てくる。
 パラグアイがミスをして攻撃のチャンスを無駄にすれば、日本はリスクを極力冒すことなく戦った。後半に入ってパラグアイの運動量が明らかに落ちたところで、日本はトップ下に中村憲剛を入れて勝負に出た。
 パラグアイのコンディションは決してよくなかった。後半の早めに日本が勝負に出ていれば、という声はあるだろう。しかし、現場で見ている立場でいえば、日本にも連戦の疲れが目立っていた。1点をどこで奪いにいくか。延長戦も視野に入れなければならない。そういうなかで岡田監督が中村憲の交代に踏み切ったタイミングは悪くなかった。
 引き分けで終わらせようと思うなら違う選択肢もあったろう。しかし、守りの姿勢に入ってしまえば、それを敏感に察知する南米のチームだったら襲いかかってくるはずだ。もちろん点を取るためではあるが、防御のための攻めの交代でもあった。

 中村憲剛は試合後、攻略の難しさを口にしていた。
「パラグアイもリスク管理というか、しっかり後ろには人がいた。押し込まれたというか、うちの両サイドもロングボールで押し込まれて、そこから出て行かないといけない。前に(本田)圭佑とちょっと後ろに俺しかいない状態だった。相手もペナルティーエリアにゴリゴリと入ってきたし、それを返すので精いっぱいだった」
 消耗戦の末のスコアレスドロー。お互いに攻め手を欠く以上、順当な結果だったのかもしれない。PK戦は時の運でしかない。残念ながら川島の読みがほとんど外れてしまっていたのをみると、日本に不利な流れであったのは間違いなかった。

 岡田ジャパンの16強は賞賛に値する。急遽守備的な戦術に切り替えて、カメルーン、デンマーク相手に勝利したのだから岡田武史監督、そして岡田ジャパンの選手たちの奮闘ぶりには素直に拍手を送りたい。世界相手に日本の組織的な守備がある程度通用することは分かった。次はぜひ攻撃で世界を驚かせてほしいものだ。

(おわり)

二宮寿朗(にのみや・としお)
 1972年愛媛県生まれ。日本大学法学部卒業後、スポーツニッポン新聞社に入社。格闘技、ボクシング、ラグビー、サッカーなどを担当し、サッカーでは日本代表の試合を数多く取材。06年に退社し「スポーツグラフィック・ナンバー」編集部を経て独立。携帯サイト『二宮清純.com』にて「日本代表特捜レポート」を好評連載中。