世界最年少優勝記録となる15歳245日でツアー初優勝を達成し、今や日本男子ゴルフ界きってのスーパースターとなった石川遼。2008年1月にプロ転向を宣言し、1年目で賞金1億円を突破。昨年はマスターズや全英オープンなど海外ツアーに初参戦し、国内では史上最年少で賞金王にも輝いた。今年も逆転優勝した中日クラウンズで世界記録となる58ストロークをマーク。7月の全英オープンではメジャー自己ベストの27位に入るなど、輝かしい成績を残している。なぜ、弱冠18歳の青年がこれほどまでに活躍することができるのか。そしてゴルフファンのみならず、国民に高い人気を誇る理由とは――。今回、当HP編集長・二宮清純が連載コラムを持つ雑誌『パーゴルフ』の対談コーナーにて、石川遼の父親・和美氏と白熱討論。父親だけが知るスーパースターの真の姿に迫った。その一部を紹介したい。
(写真:全英オープンでは息子の成長を感じたと語る勝美氏<左>)
石川: 初めまして、石川です。よろしくお願いします。
二宮: 初めまして、二宮です。本日はよろしくお願いします。

石川: パーゴルフでの二宮さんの連載コラムを拝見していて、例えば他のスポーツ、社会、事業などと比較してゴルフはどうなのか、ということを私も見ていかなくてはならないと思っていました。広い観点でゴルフを見ておられる二宮さんに、ぜひ一度お話をうかがいたいと思っていました。
二宮: 光栄です。石川遼クンというスタープレーヤーは、突然現れたのではなく、お父さんがきちんと指導、マネジメントされたからこそでしょう。私は、長嶋茂雄さん以来のスターだと思っていますよ。

石川: そんなことはないですよ(笑)。
二宮: 長嶋さん同様、遼クンに対するアンチは聞いたことがない。インタビューでの受け答えがいいし、さわやかさもあります。何より、その前提としてゴルフに対する愛情をすごく感じられるからだと思います。私が、日本で最初のスポーツライターと呼んでいる正岡子規は“ボールゲーム”の和訳を“球技”ではなく、“球戯”としました。球と戯れる喜びのようなものと表現したのです。まさに球と戯れる喜びを今の日本で一番表現しているのが“石川遼”だと思うのです。私は、スポーツは偉大な文化だと思っていますが、それを誰よりも表現している。だから、遼クンは愛される。その土台はお父さんの素晴らしい指導、教育によってつくられたものだと感じます。

石川: 私が遼に教えたことは、ある意味では二宮さんが今、お話しされたことの反対かもしれません。というのも、好きなように打ったり、大きく曲げてグリーンに乗せるというようなことはまったく必要ない。着実に一歩一歩できることをやっていこう、と。遼が中学1年生になるころまでは、そのように教えていました。ただ、あるジュニアの試合で競技団体の役員さんに、「ミスをしてもニコニコしてゴルフをしているのは遼クンだけだ。みんな下を向いて苦しそうにプレーしている」といわれたことがあります。みんなは一つスコアを落とすごとに下を向くけど、遼はスコアを落としても楽しくプレーしている。「いいプレーヤーになりますよ」といわれました。
二宮: ある意味、ゲームを楽しんでいるということかもしれませんね。遼クンのプレーを見ていて、「ゴルフは楽しい。やりたいな」という人が増えると思います。長嶋さんのプレーもそう思わせてくれました。ホームランを打ったらみんな絵になりますが、長嶋さんだけは三振しても絵になりました。この辺りに共通する何かを感じます。

石川: 「今日は全然ダメでも、明日は分からないのが石川のゴルフ」と、報道してくださるのはうれしいことです。
二宮: 成長の跡が確実に見えるのも魅力の一つだと思います。今年の全英オープンはその典型。昨年、初出場したときは、なかなか思うようにプレーできなかったと思いますが、今年のプレーを見ていると、また一つ成長したと感じることができました。

石川: 昨年は、精神的な部分で面食らっていましたが、今年は全英オープンとのやりとりを楽しんでいるようでした。できない中でも、“自分ができる部分はここなんだ”というものが分かってきたかもしれません。ただ、優勝スコアには全然及ばない。いかに頂上が遠いかという実感もまた抱いていたでしょう。
二宮: 「木を見て森を見ず」という言い方がありますが、接近しすぎると木の年輪まで見えるけど、森の全体像は分からない。森ばっかり見ていると、今度は木の年輪が見えなくなる。私は、木の年輪も森も見なくてはいけないと考えていますが、お父さんは遼クンに対してどちらも見ている気がします。

石川: ゴルフは1試合で成績が出ますが、それは誰のせいでもなく自分の成績です。ある試合がよかったからうまくなった、ダメだったから上達していない、という考えは、木の年輪だけを見ていることだと思います。マスターズで勝ちたいのであれば森を見て、さらに自分の足元、道筋も見ていかないといけない、と考えています。


<現在発売中の『パーゴルフ』8月31日号では、さらに詳しいインタビューが掲載されています。また、次号ではこの対談の後編が掲載されます。ぜひ、お楽しみください。>