後期はここまで7勝8敗。勝ったり負けたりで波に乗れていません。前期のように連勝できない理由のひとつは先発投手陣のバテがあるでしょう。野原慎二郎吉川岳山隈茂喜の3本柱が打ちこまれるケースも目立ってきています。この猛暑ですし、高知にはナイタ―設備もありませんから、ある程度、こうなることは想定していました。その分、打線に奮起してほしかったのですが、攻撃も日によって良かったり悪かったりを繰り返しています。
 加えて、左腕の吉川が肩の違和感を訴え、先週は先発を回避しました。そこで代役として先発を任せたのが、3年目の山中智貴と新人の山慎一郎です。山中は10日の香川戦で2失点完投、15日の徳島戦では6回途中からリリーフで投げ抜き、この1週間で2勝を挙げました。3本柱に次ぐ存在として名乗りをあげたのではないでしょうか。

 彼は地元・伊野商出身で1年目から期待していた右腕です。しかし入団時は19歳でしたから、焦らず1年目は体づくりを重点的に行いました。続く2年目は経験を積ませる番です。先発、中継ぎとフル回転でチーム最多の35試合に登板しました。そして今季、彼の投球には成長の跡が見られます。何より投げる体力がついたことでストレートの球速がアップしました。これはNPBを目指す上で、ひとつの武器になるでしょう。今後は配球にしてもキャッチャーのリード通りではなく、自分で考えてクビを振ることも必要です。マウント上でのバッターとの駆け引きを覚えれば、もっと勝てる投手になるでしょう。武器を生かすためのひと工夫を覚えればドラフト指名も見えてきます。

 山は5月中旬から肩痛で戦列を離れており、10日の香川戦でようやく復帰しました。5回5失点と負け投手になったものの、これから香川キラーとして起用できるのではないでしょうか。というのも彼の良さは右打者のインコース攻めにあるからです。山のストレートは決して速くはないものの、ナチュラルシュートがかかるため、右打者の内側に少し食い込みます。思い切って懐を突き、外へゆるいボールで泳がせる。こういった投球ができれば、強打の香川打線もかなり苦しむはずです。今は肩の状態をみながら100球をメドにしていますが、問題がなければ投球イニングも徐々に伸ばしていく予定です。

 打線では前回、紹介した安田圭佑の打率が夏場に入って急降下してしまいました。一時は3割6分を上回る好調ぶりだったのが、現在は3割そこそこです。彼にとって長いシーズンを経験するのは初めて。疲れや細かいケガもあって、バッティングの状態が落ちているのは明らかです。ただ、僕はあえて彼を休ませることなく、試合に出し続けています。NPBでも144試合を戦う間にはケガもあれば、調子の悪い日もあります。完璧な体調で試合に臨める時のほうが少ないくらいです。それでも結果を残さなければ、プロでは生き残ることはできません。悪いなら悪いなりに、どう対処するか。この部分を安田には体得してほしいのです。幸い、ここにきて最悪の状態は脱しつつあります。夏場を過ぎて一回り成長した姿が見られるのではないでしょうか。

 一方、心配なのは2年目の今中尭大です。彼は昨季、20歳で打率.270をマークし、内野手としてさらなる飛躍を楽しみにしていました。ところが、今季はここまで.201。打てる時と打てない時の差が極端すぎます。傾向としては長崎の石田大樹のような左腕を得意としている反面、外に逃げるスライダーを投げ込む右投手が苦手です。技術的に前へ突っ込みやすいフォームであることにプラスして、気持ちも「打とう打とう」と焦りがみられます。開幕当初はサードの守りでエラーが多く、その点も打撃に悪影響を及ぼしていました。途中からは守備の負担が少ないファーストにまわしたものの、調子は上向いてきません。そこで最近では思い切ってショートの練習をさせています。どんどん打球の飛んでくるポジションで体を動かし、キレを出そうと考えたからです。もちろんフォームもしっかり後ろに体重が残るよう微調整しています。

 後期は前期優勝した香川が独走しそうな気配が漂っています。前期は最後の最後で取りこぼして優勝を逃しただけに、どうにか待ったをかけたいところです。20日からは、その香川との3連戦がやってきます。ここは最低でも勝ち越さなくてはいけません。吉川が先発できるか、まだ分からないため、投手陣では山中、山がカギを握るでしょう。そして打線では今中もキーマンのひとりです。彼が復調すれば、攻撃に厚みが出てきます。

 香川とはがっぷり四つに組んでも勝てません。接戦に持ち込み、小技や機動力を駆使しながら少ないチャンスをモノにする。相手は投手も良いですから全打席ヒットを狙うのは難しいでしょう。ただ、チャンスに集中して1本を打つことは不可能ではないはずです。前期同様、最後に見せ場をつくれるよう頑張ります。香川との3連戦はビジターになりますが、暑さに負けない熱い応援をよろしくお願いします。


定岡智秋 (さだおか・ちあき)プロフィール>: 高知ファイティングドッグス監督
 1953年6月17日、鹿児島県出身。定岡三兄弟(次男・正二=元巨人、三男・徹久=元広島)の長男として、鹿児島実業から72年、ドラフト3位で南海(現ソフトバンク)に入団。強肩の遊撃手として河埜敬幸(元長崎監督)と二遊間コンビを形成した。オールスターにも3回出場し、87年限りで現役を引退。その後、ホークス一筋でスカウトや守備走塁コーチ、二軍監督などを歴任。小久保裕紀、松中信彦、川崎宗則などを指導し、現在の強いソフトバンクの礎づくりに貢献した。息子の卓摩は千葉ロッテの内野手。08年より高知の監督に就任。現役時代の通算成績は1216試合、打率.232、88本塁打、370打点。
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