野球王国・四国――。かつては、そう呼ばれていたと書くのが正解だろう。残念ながら、もはや過去形である。
 夏の甲子園、四国勢は大会9日目ですべて姿を消した。宇和島東(愛媛)、英明(香川)、鳴門(徳島)が初戦敗退、明徳義塾(高知)は2回戦敗退。4校のうち宇和島東、鳴門、明徳義塾の3校は甲子園優勝経験校である。その矜持を少しは示してくれるかと思ったのだが願望に過ぎなかった。
 それでも四国勢の選手権大会での勝率は依然として高い。昨年までのデータだが全国1位は愛媛県の6割6分3厘。6位に高知県が入り、6割1分1厘。徳島県が14位で5割5分2厘。香川県が19位で5割2分5厘。過去の遺産を食い潰しながら生きているようなものだ。

 四国の高校野球を支えていたのは古豪の公立校だ。松山商(夏優勝5回、春優勝2回)、西条(夏1回)、宇和島東(春1回)、高松商(夏2回、春2回)、観音寺中央(春1回)、高知商(春1回)、池田(夏1回、春2回)、徳島商(春1回)、鳴門(春1回)、徳島海南(春1回、現・海部)。戦後創設の新興公立校では伊野商(春1回)。近年は、こうした優勝校が全く振るわない。黄金期を築き上げた先達は草葉の陰で泣いているのではないか。
 ノスタルジーついでに野球殿堂入りを果たした四国出身者の名前を列挙しておこう。【特別表彰】正岡子規、佐伯勇、千葉茂、森茂雄、景浦将、大社義規、伊丹安広、太田茂、宮武三郎、【競技者表彰】藤田元司、坪内道則、白石勝己、藤本定義、中西太、筒井修、牧野茂、三原修、水原茂、上田利治。中西と上田以外は全員、故人である。名前を書き連ねていて改めて感じた。プロアマ問わず、彼らの功績なくして日本野球のここまでの発展はなかったのではないか、と。

 しかし、ノスタルジーに浸る者は未来への展望が開けぬ者と相場が決まっている。過去の栄光にしかアイデンティティを見出せないようでは、いよいよ四国の野球も終わりである。
 ちなみに高野連会長の奥島孝康氏は宇和島東のOBである。相撲協会の改革をリードする「ガバナンスの整備に関する独立委員会」の座長でもある。相撲もいいが、四国の高校野球も何とかして欲しい、との声もありや、なしや…。

<この原稿は10年8月18日付『スポーツニッポン』に掲載されています>
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