大相撲九州場所は15日、福岡国際センターで2日目が行われ、横綱・白鵬が前頭筆頭の稀勢の里に寄り切りで敗れ、初場所の14日目から続いていた連勝が63でストップした。白鵬は今場所、7日目まで勝ち続ければ、双葉山の持つ69連勝(1936年春場所〜39年春場所)に並ぶところだったが、大記録を塗り替えることはできなかった。また歴代最多となる9度目の全勝優勝と、自身が持つ年間最多勝記録(86勝)の更新(全勝すれば87勝)もならなかった。
★二宮清純コメント★

 白鵬には記録更新への重圧が感じられた。大事に行き過ぎた感がある。本人は双葉山にならって「後の先」の取り口を目指していたようだが、本来の「後の先」とは受けて立つように見えながら相手の出方を読み、先回りして動くものだ。厳密に言えば「先の後の先」とでも言うべき戦法である。ただ、この日の白鵬は稀勢の里に合わせたリアクティブな相撲をとってしまった。負けない相撲を意識しすぎたのが災いした。

 対する稀勢の里は終始、横綱にひるむことなく攻め切ったのが良かった。やはり「攻撃は最大の防御」だ。稀勢の里は期待の日本人力士でありながら、これまでは三役止まりだった。双葉山の連勝記録を止めた安藝ノ海も後に横綱になった。この金星をきっかけに大化けを期待したい。敗れた白鵬も、これで呪縛から解き放たれるだろう。また今後、さらに進化した横綱の相撲が見られるはずだ。

<先場所の対戦に伏線?>

 初日の盤石な相撲を見れば、69連勝の更新は間違いないと誰もが感じた矢先の落とし穴だった。
 伏線はあったといえばあった。先場所7日目の対戦だ。この時は千代の富士の持つ53連勝を更新する一番だった。立ち合いでまわしが取れず、稀勢の里の引きに一瞬体が泳いでヒヤリとさせられた。そのことを横綱自身がどこまで意識していたかは知る由もない。ただ、この日も立ち合いで押し込みながら、またもまわしが取れなかった。そしていなされ、体が浮いた。

 逆襲を受け、逆に左四つ、右上手と相手十分の体勢を許す。ここで横綱は珍しく慌ててしまった。強引に体を入れ替えようと、不用意に投げを打ってしまったのだ。不利な局面からジリジリと持ち直すところが強みのはずが、これが黒星から長く遠ざかっていた影響か。かえって相手の体を呼び込む形になった。さらに内掛けも不発で正面土俵に後退。前に出る稀勢の里の圧力を受け、最後は土俵下まで転がった。終わってみれば、あっけない連勝ストップだった。

 連勝を止めた稀勢の里は、かねてから大関候補と呼ばれてきた。日本人のホープと期待されながら、ここ1年は2ケタ以上勝った場所がない。2場所連続の負け越しで、今場所は平幕に落ちていた。だが187センチ、173キロの体格は素晴らしく、左四つになった時の馬力はすさまじいものがある。この一番でも十分なかたちになれば、横綱をも圧倒することを改めて証明した。

「“オレの目は節穴じゃないぞ”と彼には言っているんです」
 そう師匠の鳴戸親方(元横綱・隆の里)は愛弟子に期待を寄せていた。精神面で弱いと言われてきた24歳が、大記録を止めて一皮むけることができるのか。もし、そうなれば連勝ストップは残念だが、相撲界の活性化には意義のある一番になる。