千葉ロッテと中日の日本シリーズは第7戦にまでもつれ込み、4勝2敗1分けでロッテが5年ぶり4回目の日本一に輝いた。
 カギとなったゲームは第6戦である。3勝2敗とロッテが王手をかけていたものの、残り2試合はナゴヤドーム。中日は本拠地で51勝17敗1分け(レギュラーシーズン)と圧倒的な勝率を残している。中日・落合博満監督も「3つまでは負けられる。ここまでは想定内」と余裕を示していた。

 第6戦の先発はロッテが成瀬善久、中日がチェン・ウェイン。両エースの激突である。
 仮にこのゲームをロッテが落とせば、最終戦の先発ピッチャーはビル・マーフィーと渡辺俊介の2人から選ぶしかなくなる。
 マーフィーは2戦目に先発し、1回1/3KOをくらっている。短期決戦でフォームを修正するのは容易ではない。
 もうひとりの渡辺は第3戦で5安打完投勝ちを飾ったものの、マウンドの傾斜がきついナゴヤドームは風もないため持ち味を発揮しにくい。つまり、どちらもアテにはできない。エースの成瀬でケリをつけなければ、ロッテが握っていた主導権は中日に移りかねないと思われた。

 チェンを攻略するとしたら立ち上がりだ。初回2死三塁の場面で4番サブローのバットが火を噴いた。基本どおりのセンター返しで先取点を奪う。
 サブローが初めて4番に座ったのは前監督のボビー・バレンタイン時代の2005年である。4番といえば大砲が相場だが、サブローは状況に応じたバッティングができる。送りバントも器用にこなす。誰が名付けたか“つなぎの4番”。導火線の役割を担う。

 1対2と1点のビハインドで迎えた8回表、マウンドには12球団最強のセットアッパー浅尾拓也が立っていた。今季の防御率は1.68。この回を抑えれば、最後はクローザーの岩瀬仁紀が登場してくる。
 典型的な中日の勝ちパターンだ。カウント2−1。浅尾は150キロ台のストレートであっという間にサブローを追い込む。最後は得意のフォークか。
 縦のスライダーだったが、落ち際をサブローは待っていた。バットをテニスのラケットのようにして落ち際を拾った。左中間への値千金の同点打。神業のようなバットコントロールだ。
 結局、このゲーム、延長15回引き分け。試合時間は日本シリーズ最長の5時間43分。あと6分で日付が変わるところだった。
 中日にとっては負けに等しい引き分けであり、一方のロッテにとっては勝ちに等しい引き分けだった。

 状況に応じてゲームメイカーとしての役割をしたと思えば、ここ一番の場面ではポイントゲッターとして試合を決めにかかる。地味ではあるが、相手ベンチからしたら、これほどやりにくい4番もいないのではないか。
 日本シリーズでは6戦目の2打点を含む6打点をあげる活躍をしながら野球機構からの賞はなし。これがロッテの強さの秘密なのかもしれない。

<この原稿は2010年11月28日号『サンデー毎日』に掲載されたものです>

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