近年、競技力向上に必要な要素としてフィジカル、メンタルに加え、スポーツビジョン(スポーツ特性に応じた視機能)が注目されてきている。このほど、医師、体育学者、スポーツ指導者等で構成される「スポーツビジョン研究会」(代表:真下一策氏)が14回目となる研究集会を都内で開催した。日本サッカー協会専務理事の田嶋幸三氏や、各研究者から、スポーツビジョンに関する報告が次々と行われた。
(写真:「いい視野を確保することがパーフェクトスキルにつながる」と話す田嶋氏)
 研究集会はまず、代表の真下一策氏が挨拶。動体視力や瞬間視などをトレーニングするゲームソフトが登場したことを例にあげ、「スポーツビジョンが一般に広く知られるようになってきた。また、選手だけでなくサッカーS級ライセンスの審判に検査を取り入れるなど広がりをみせてきた」とスポーツビジョンの認知度がアップしている現状を示した。
「競技力に適した視力は両眼で1.2〜1.5と言われている。現在、各スポーツで選手の視力矯正が流行しているが、日常の視力矯正とスポーツに必要な視力矯正は異なる。その点を踏まえ、スポーツビジョンの更なる普及に務めていく必要がある」と今後の目標を語った。
(写真:会の冒頭で挨拶する真下代表)

 続いて、日本サッカー協会専務理事の田嶋幸三氏が「サッカーの競技パフォーマンスとスポーツビジョンについて」と題して、特別講演を実施した。
 田嶋氏は「日本の指導者は、ひとつひとつのプレーを指示して、選手に判断させない傾向がある」と指摘。フランス人のコーチが、選手のプレーが悪いと、目をドクターに診てもらうように指示していたと体験談を披露し、「サッカーはボールも人も動くスポーツ。瞬時にプレーを判断する力を養う必要がある。情報収集のための視覚を鍛えることはスキルアップに必要不可欠だ」と語った。

 視覚による情報収集と判断が重要な要素を占めた一例として田嶋氏はトルシエ・ジャパン時代の戦術だった「フラット3」を説明。「フラット3」では、ボールが動いている状態や、相手が後ろを向いている状態ではラインを押し上げ、ボール保持者が前を向いた瞬間にラインを下げる。一糸乱れぬラインコントロールを行うため、トルシエ・ジャパンでは個々人が的確に情報をキャッチしてプレーにつなげるトレーニングを何度も繰り返して実施した。

 田嶋氏によると、情報収集の観点からサッカー指導で大切なポイントは以下の3点だという。
1.技術を高めさせる。
2.どこでどのように視ればよいかを考えさせる。
3.視る習慣をつけさせる。
 日本サッカー協会は「2015年までに世界のトップ10に入る」ことをミッションに掲げている。「チームドクターやトレーナーが代表チームに帯同しているように、スポーツビジョンの専門家も世界を勝ち抜くためには必要だと思っている。みなさんの今後の研究成果を、どんどん活用していきたい」
 田嶋氏はスポーツビジョン研究の未来に期待を寄せ、講演を締めくくった。

 教育講演では、視覚トレーニングのゲームソフトを監修した石垣尚男氏(愛知工業大学教授)が「個別トレーニングの考え方 ―卓球を例に―」と題して発表した。石垣氏は卓球を題材にした実験の結果、トップ選手ほどボールから早く目を離し、相手の動きを見ていることを指摘。「初心者に対しては“ボールを最後まで見て”と指導するが、そのままの方法ではレベルアップしない。ある段階に達した時点でボールから早く目を切り、相手や状況を把握するための周辺視を行うトレーニングを行うべきだ」と強調した。

 このほか、野球の投球スピードとバッターのまばたき(瞬目)の関係についての実験結果や、陸上の跳躍選手の視機能と踏み切り位置の誤差に関する実験結果、外斜視のハンデを乗り越えて全日本ジュニアカート選手権連覇を果たした選手に対する1年間の視覚トレーニングの報告など、多くの発表が行われた。参加者たちはそれぞれ興味深く報告に聞き入り、質問も頻繁に飛び交っていた。

 スポーツを行う上で、「視る」行為はきわめて重要な役割を果たす。これからも、まさに“目からウロコ”となるような研究成果が続々と生まれ、各競技のレベルアップに寄与することだろう。