8月5日、当ホームページ編集長の二宮清純と元日本代表DFの宮澤ミシェル氏が八王子の日本工学院専門学校で対談を行った。その中身を公開したい。
(写真:壇上で対談を行う宮澤ミシェル氏<左>と二宮清純<右>)
宮澤: アジアカップを見ていて、今の日本のディフェンスにはパワーが足りないなと感じましたね。今さら言っても仕方がないですが、闘莉王がいたら、結果は変わっていたのかなと。闘莉王は技術的には決して高くはない。ただ、ガッツを持っている。彼がディフェンスラインに入ると、空気が変わるんです。「何が何でも抑えてやる」という荒っぽさがあるんですよね。もちろん、前線へのオーバーラップが多すぎることがあるし、たまに信じられないようなミスも犯してしまう。でも、彼を観ていると「ああ、この選手は戦っているな」と思わせてくれる。

二宮: 相手のFWをにらみつけるような迫力がありますよね。私も、中澤と組むのは闘莉王の方がいいと思います。阿部はボランチで使った方がいいんじゃないかと。決して阿部だけの責任ではありませんが、サウジアラビア戦は守備が崩壊してしまいましたからね。
宮澤: サッカーの試合で3点取られたら、勝てないですよ。あの試合、序盤は日本が押し込んだ。ただ、サウジはしっかりと耐えしのいできたんです。一方、日本は後半の開始早々、サウジが前線に人数をかけて点を奪いにくると、あっさりと失点してしまった。これが、今の日本の弱さですよ。

二宮: 私が疑問に思うのは「日本の方がボールを支配していた。攻撃の形はつくっていた」という意見が出てくること。実に言い訳がましい。フィギュアスケートだったら、「芸術点はこちらが上でしたね」となる。でも、サッカーは点を獲るスポーツでしょう。今の日本はボールを持っているんじゃない。持たされているんです。
宮澤: そう。だから、対戦国が日本を“怖い”と感じたとは思えない。相手は、日本にボールを回させてもPAの中だけはキッチリ守ることを徹底してやってきた。それを、日本はどうしても崩せなかった。それに、あまりに攻撃的なチームになってしまった印象がありますよね。4人のDFに背負ったプレッシャーが大きかったのかなと。例えば、ボランチの中村憲剛は前目のポジションで攻撃にシフトを置いていたでしょう。トップ下の遠藤、中村俊も守備をこなす選手ではない。だから、攻撃面は文句なしで素晴らしいのですが、シュートで終われなかった場合、4人のDFがまともにカウンターを受けてしまう。右サイドの加地なんて守備の負担が大きかったため、攻めあがる場面が少なかった。

二宮: おっしゃるように、この大会で日本はカウンターで失点している。それに加えて、先取点を奪われるゲームが実に多かったんですよ。サウジ戦をはじめ、重要なゲームで易々と失点をして、追いかける展開になってしまった。
宮澤: 点を獲られたら、獲りかえさないといけない。そうなれば、当然リスクが出てきます。うだるような猛暑の中、点を奪うために前線まで動かなければいけない。試合終了間際にそういうリスクを負うことは、まだ理解できる。だけど、前半からそうなってしまうと……。大会の最初はオシムの監督のコメントにあったように「エレガントなサッカーだな」と思いましたよ。でも、途中から守備の課題が出てきて「これはまずくないかな」と。サウジ戦の2点目では、右クロスに突っ込んできた相手FWに対して、阿部が締め切れなかった。阿部の身長があと3センチ高かったら、ボールにかすったかもしれない。そういう厳しいレベルの戦いになっている。僕も背が小さかったから、現役時代は「あと3センチ高かったら……」と悩んだんですよ。

二宮: へえ。ディフェンスで3センチの差は大きいと?
宮澤: 大きいですよ。僕は、180センチを超えていたら絶対に世界に挑戦していたと思います。僕の時代のJリーグには世界的な外国人FWがいたでしょう。僕も“読み”で一生懸命に対応したんだけど、不利な体勢に追い込まれた時にどうしても体格面が響いていた。高木琢也なんて、僕の年俸を下げましたよ(笑)。クロスボールをファーに入れられると、高木に競り負けて、頭でボーンと決められる。後でビデオを見返しても、僕が弱く見えますからね。もう、アイツのことなんて大嫌いでしたよ(笑)

(第4回に続く)