バンクーバー五輪にサッカーW杯南アフリカ大会、千葉ロッテ日本一や横綱・白鵬の63連勝……。スポーツ界でもさまざまな出来事があった2010年が終わり、新たな年が幕を明けた。2011年は早速、7日よりサッカーのアジアカップ(カタール)が開幕し、3月のフィギュアスケート世界選手権(東京)、8月の世界陸上(韓国)、9月のラグビーW杯(ニュージーランド)と注目大会が次々とやってくる。2012年のロンドン五輪に向けた争いも熾烈になる1年を、当HP編集長・二宮清純が大胆予測した。
(写真:残留した楽天・岩隈投手も「今年は投打のバランスがとれている」と自信をのぞかせる)
――プロ野球では今シーズン、西岡剛選手がポスティングシステムでミネソタ・ツインズへ、建山義紀投手がFAでテキサス・レンジャーズへとメジャーリーグに挑戦します。日本人内野手はなかなかメジャーで苦労しています。西岡選手はいかがでしょうか?
二宮: 彼の能力なら、ショートでも充分活躍できるでしょう。球団側もショートのレギュラーを放出して西岡を獲得したわけですから、その穴埋めを期待していると思います。ただ、やはりメジャーリーガーとは肩の強さなどが違いますから、シーズン途中からセカンドにまわる可能性は否定できません。
 
――日本人メジャーリーガーでは松井秀喜選手がオークランド・アスレチックスへ移籍しますね。
二宮: 松井は今年、かなり活躍が期待できるとみています。アスレチックスのGMは『マネー・ボール』で有名なビリー・ビーン。彼はチーム編成において出塁率を重視しています。昨季、松井の出塁率は.361。これはイチロー(.359)より高いんです。ビーンにとっては中軸バッターとして最適な人材に映ったことでしょう。松井のプレースタイルはアスレチックスの戦略にうまく合致していますから、故障さえなければ、シーズン通してスタメンに名を連ねるのではないでしょうか。

――一方でメジャーリーグからは松井稼頭央選手、岩村明憲選手が東北楽天に入団。日本球界に戻ってきます。
二宮: ショート松井、サード岩村と元メジャーリーガーの三遊間は仙台のファンも楽しみでしょうね。しかも2人ともワールドシリーズを経験しています。これは日本のプロ野球では初めてのことです。最近のプロ野球は北海道、福岡と地方の球団が優勝して、地域を盛り上げています。そろそろ仙台でも楽天フィーバーが起こるのではないでしょうか。

――楽天は闘将・星野仙一監督も就任し、2011年はもっとも楽しみな球団といっても過言ではありません。
二宮: 今オフは岩隈久志投手がポスティングシステムでのメジャー移籍を断念しました。岩隈投手は順調に行けば、今シーズン中に海外FA権を取得します。昨季の西岡選手のように、日本一になってアメリカへ、というのが最良のシナリオでしょう。
 星野監督にも今年、勝負を賭ける理由があります。なぜなら2年後の2013年には第3回のWBCがあるからです。星野さんは、この日本代表監督を狙っているのではないでしょうか。北京五輪でのリベンジを果たすために、もう1度、代表監督をやりたい。その願いを叶えるためには、この楽天で結果を出さなくてはなりません。

――今年は斎藤佑樹(日本ハム)ら、大卒のゴールデンルーキーが多数、プロ入りします。1年目からどのくらい活躍できるでしょうか?
二宮: 斎藤投手は2ケタぐらい勝てると見ています。もちろん、そんなにプロは甘くないですから、成績は10勝8敗くらいかもしれません。でも、チームにとって1番ありがたいのは、ローテーションをシーズン通して守ってくれるピッチャーです。斎藤投手は大学4年間、大きな故障なくチームの中心で投げ続けてきました。ここが最も彼の評価できるポイントです。たとえ貯金を多くつくれなくても、チームにはダルビッシュ有というスーパーエースがいます。彼が貯金をつくってくれますから、極端な話、他のピッチャーは五分の成績で充分なんです。その意味で斎藤選手はあまりプレッシャーのかからない、いい球団に入ったのではないでしょうか。

――サッカーでは昨年途中にブンデスリーガのドルトムントに移籍した香川真司選手が大活躍を見せています。リーグ前半戦を終えたところで、チームトップの8ゴール。チームも首位で香川は前半戦のリーグMVPにも選ばれました。
二宮: 我々の世代でブンデスリーガで活躍した日本人といえば奥寺康彦さん。まだ1シーズン目とはいえ、その奥寺さんに迫るような働きをみせていると言えるでしょう。「日本人はアジリティ(俊敏性)をいかせ」とよく言われますが、まさにそのお手本としたいのが香川選手です。プレースピードはもちろん、テクニックやゴールに向かう姿勢、どれをとっても素晴らしいものがあります。「カンフーファイターのようだ」と評されたボレーシュートあり、相手に競り勝ってのヘディングシュートあり、強烈なミドルシュートあり……。どこからでも点が獲れるという点では、今の現役日本人選手では1番かもしれませんね。

――その香川選手も代表入りしたザッケローニ監督率いる日本代表は、まずアジアカップで2大会ぶりの優勝を狙います。そして9月からは早くもブラジルW杯の予選がスタートしますね。
二宮: ザックジャパンにはかなり期待しています。まず先のW杯で、日本が自信を得たことは大きいでしょう。ベスト16入りによって、「やればできる」との思いが選手たちの中で強くなりました。それが昨年のアルゼンチン戦での勝利につながったとみています。ここをベースにして、ザッケローニ監督は細かい守備のポジショニングや高度な戦術を選手たちに植え付けています。2014年のブラジルW杯に向け、日本代表がいい進化を遂げていきそうで楽しみです。

――ゴルフ界では昨年、二宮さんは石川遼選手のライバル出現がカギを握ると語っていました。そして、その通り、2年連続で賞金王を争った池田勇太選手をはじめ、アマチュアながらマスターズへの出場権を獲得した松山英樹選手など、若い選手の台頭が目立ちました。
二宮: 石川選手はもちろん、日本のゴルフ界にとってもいい傾向ですね。やはり、野球のONしかり、相撲の大鵬と柏戸しかり、ライバルの存在が競技の人気を高め、レベルアップにつながる側面があります。昨年11月、スカパー!のゴルフ特番で、タイガー・ウッズ選手と石川選手の対談を司会させてもらいました。その中で石川選手がタイガー選手のショットをよく観察して、細かい技術面を熱心に質問していました。その向上心には感心させられましたね。今年は日本人選手同士がお互いに切磋琢磨する中で、悲願の海外メジャー制覇も見えてくるシーズンになるのではないでしょうか。

――ただ、日本ツアーの賞金王は男女ともに韓国人プロにさらわれました。日本人の巻き返しは可能でしょうか。
二宮: 今シーズンも激しい争いになるでしょうね。韓国には五輪のスケートに代表されるように、好成績が見込まれる選手をエリート教育で育て上げるシステムがあります。今後も強豪が次々と現れる可能性は高いでしょう。
 ただ、日本は韓国のマネをすればいいのか。私はそうではないと考えます。地域密着のクラブを拠点にしつつ、選手たちにはいろいろな競技を体験させたほうがいい。石川選手も中学時代は陸上の短距離で下半身を鍛えました。多様性の中から競技の裾野を広げ、ピラミッドの頂点を高くする。これが日本の目指すべき方向性だと考えます。

<この原稿はニッポン放送「ファンケルプレゼンツ 2011年ニッポンのスポーツ大予測!!」1月2日放送分を抜粋、再構成したものです>