群雄割拠の男子柔道界において、この1年で大きな飛躍を遂げた選手と言っていいだろう。73キロ級の中矢力(東海大)だ。昨年末のグランドスラム東京大会での優勝を皮切りに、今年にかけてグランドスラム3大会を制した。その勢いに乗じて8月の世界柔道では初出場初優勝。68位だった世界ランキングは一気に1位に浮上した。五輪代表入りも十二分に見えてきた22歳に、ロンドンに向けての“秘策”を二宮清純が訊いた。
(写真:昨年の世界柔道覇者・秋本啓之との代表争いは最後までもつれそう)
二宮: 中矢さんはもともと寝技に定評がありました。ただ、このところの好調の要因として、立ち技のキレが良くなったことがあげられます。やはり立ち技が良くなれば、得意の寝技にも持ち込みやすくなると?
中矢: そうですね。自分の柔道は寝技がメイン。寝技があれば、相手も思い切って立ち技をしかけられないのでプレッシャーを与えられる。立ち技を磨くことはもちろん大切ですが、それで寝技がおろそかになっちゃったら、ポカも増える。だから徹底的に寝技もやっていきたいと思っています。

二宮: 寝技の中でも得意なパターンは?
中矢: 最近は寝技でただ押さえこむだけではなく、腕十字とか関節技に入るコツをつかみました。高校時代の寝技はワンパターンだったんですけど、バリエーションが増えてきましたね。

二宮: 寝技は誰から教わっているのですか?
中矢: 佐藤(宣践)先生です。大学の柔道部で“まむし”という寝技のグループをつくって特訓しています。後の先というか返し技を習ったり、いろんな状況を想定して練習していますね。おもしろいですよ。

二宮: まむしグループ! それは秘密結社みたいで怖そうですね(笑)。
中矢: 全体練習が終わった後に、別メニューでやるんですけど、そのグループに1年の時から入れさせてもらっています。練習予定にも“まむし”って書いてあるんですよ。
(写真:井上康生副監督からは特殊な組み手をする外国勢対策を教わっている)

二宮: 佐藤先生は現役時代、サンボの大会に出るなど寝技が巧かったですから、奥義を知っているわけですね。
中矢: はい。先生は“まむしのセンちゃん”と呼ばれていたそうです。だから、まむしグループ。まず先生から、身振り手振りで教えてもらって、実際に試してみる。すぐにできるヤツもいれば、できないヤツもいるので、「このパターンだったら、どうする?」ってみんなで意見を出し合いながらやっていきます。

二宮: 東海大は他との合同練習も多いでしょうが、一緒に寝技を特訓することは?
中矢: まむしグループの練習には他校の選手は参加できません。だから具体的なことは内緒なんですよ(笑)。

<現在発売中の『ビッグコミックオリジナル』(小学館、2012年1月5日号)に中矢選手のインタビュー記事が掲載されています。こちらもぜひご覧ください>