ラグビーの全国大学選手権は8日、東京・国立競技場で決勝戦が行われ、帝京大が天理大を15−12で破り、3連覇を達成した。同選手権での3連覇は、82〜84年度の同志社大以来、史上2校目。今季の帝京大は関東大学対抗戦を全勝優勝。公式戦無敗で偉業を成し遂げた。天理大は初の決勝進出で終盤に同点に追いつくなど健闘したが及ばなかった。
(写真:V3を達成し、喜びに沸く帝京大メンバー)
「ここまで平坦な道のりではなかった」
 V3を達成した帝京大のSO森田佳寿キャプテンはシーズンをそう振り返った。締めくくりの決勝も、この言葉を象徴するような試合だった。
 
 帝京有利との前評判が強いなか、立ち上がりから押し気味だったのは天理大だ。バックスの速いパスまわしから帝京陣内に攻め入る。前半16分には敵陣でのスクラムから中央へ展開し、WTB木村和也が飛び込んで先制トライ。ゴールも決まって7−0とリードした。

「クイックボールを出されて後手後手になった」と森田キャプテンは語ったが、帝京はすぐに反撃する。CTB南橋直哉が左サイドを突破し、CTB中村亮士とつないで天理ゴールへ迫る。21分、最後はモールからNo.8の李聖彰が強引に押し込んでトライを奪った。

 天理は強みのバックス攻撃で帝京をたびたび脅かすが、ラインアウトでのミスが多く、ボールをキープできない。すると、今度は帝京の持ち味が出た。左サイドで強力FW陣がモールで一気に押し込み、天理の反則を誘う。そして31分、ゴール手前のラインアウトからFL大和田立が持ち込んでトライ。森田のゴールも決まり、12−7と逆転に成功した。

 後半は風上に立った帝京が一転して攻勢に転じる。だが、天理も必死に耐え、追加点を許さない。最初の10分をしのぐと天理も前半同様、ボールをつなぎ、帝京陣内に侵入する。お互いにミスもあったものの、激しい攻防で競技場のボルテージは一気に上がる。

 そして、先に得点をあげたのは天理だった。31分、LO田村玲一が相手の守りをうまくかわして右サイドを突破。最後はタッチライン沿いを抜け出したWTB宮前勇規が飛び込んだ。12−12。同点トライで試合はさらに緊迫する。

 ただ、厳しい状況にも帝京は慌てていなかった。
「厳しい試合になるのは分かっていた。もう一度、全員でタックルすればチャンスが巡ってくる。集中してディフェンスしようと話をした」
 森田がそう明かしたように、追いつかれてからの帝京はスイッチが入ったように底力をみせた。低いタックルで相手の出足を止め、ボールは持たれても自陣への侵入は許さない。我慢しきれず、ラックで天理が痛恨の反則。残り1分で帝京がPGのチャンスを得た。

 蹴るのはキャプテンの森田だ。チームの絶対的な司令塔は満身創痍で試合に臨んでいた。対抗戦で左肩を痛め、選手権に入ってからは左足首、左手を負傷。さらに準決勝の筑波大戦で左のふくらはぎを故障した。本人曰く「ダッシュはできない」状態だった。

 しかし、「PGで勝敗が決まる状況を想定して日頃から練習してきた」と語るチームの大黒柱は、いつものルーティンを崩さず、無心で右足を振りぬいた。「感触はよくなかった」と振り返ったキックは右のゴールポストに当たる。一瞬、帝京の応援サイドからは悲鳴も聞こえたが、ボールはゴールの内側へ。
「今まで積み重ねてきたことと、部員の思いがゴールにつながった」
 悲鳴は歓声に変わった。勝利を決める3点が帝京に入った。
(写真:「こんないいキャプテンを負けさせたくない」と指揮官が絶大な信頼を置く森田主将)

「締めくくりのキックも決めて、今季の立ち上がりから締めまでやってくれた」
 岩出監督は1年間、チームを牽引した背番号10を讃えた。早稲田、明治といった伝統校が何度も挑戦しながらできなかった3連覇。だが、指揮官は記録へのプレッシャーはなかったという。
「今季は震災もあってラグビーのできないところからのスタートした。3連覇への重圧よりも、大きなチャレンジができることが幸せだった」
 王者が挑戦者の気持ちになった時点で、もう止められるチームはいなかった。

「FWの力量を下げないで戦術の幅を広げていきたい。勝ち続けるために進化していきたい」
 森田、滑川剛人、南橋、ティモシー・ボンドといった主力が卒業するなか、来季は前人未踏の4連覇にチャレンジする。金字塔を打ち立てたチームはさらなる高みを見据えている。
(写真:「最後まで信じ切った」という部員たちに胴上げをされる岩出監督)