2019年のラグビーW杯日本開催まで、あと7年。昨年のニュージーランドW杯で1勝もできなかったジャパンの再建を託されたのが、サントリーサンゴリアスのエディー・ジョーンズGM兼監督だ。この4月から日本代表の新ヘッドコーチ(HC)への就任が決定した。ジョーンズ監督は03年のW杯で母国・オーストラリア代表を準優勝に導き、07年のW杯では南アフリカの優勝をスタッフとして支えた。まさに世界での勝ち方を知る指揮官だ。果たしてジョーンズ監督は、日本のラグビーのどこを伸ばし、何をもたらすのか――。
(写真:2人は同じ1960年生まれ。誕生日もジョーンズ監督が1月、二宮が2月と約1カ月違い)
二宮: ジョーンズさんは96年から97年にかけてサントリーのコーチを務め、2009年にGMに就任して、再び日本のラグビーに深く携わるようになりました。久しぶりに接した日本のレベルはいかがでしたか?
ジョーンズ: 残念ながら10年前とあまり変わっていなかったんです。全然、前に進んでいなかった。代表がこの20年、W杯で勝てていないことが、その何よりの証拠です。問題点が多いなと感じました。

二宮: 具体的には?
ジョーンズ: まず練習の仕方が変わっていなかった。スポーツサイエンスが発達しているにもかかわらず、その成果が取り入れられていませんでしたね。何より、選手たちのプレースタイルにはガッカリとさせられました。日本人は外国の選手と比較して体つきでは勝てません。だから、他国のコピーやマネをしてはダメなんです。自分たちの独自のスタイルを磨かなくてはいけない。ところが日本の指導者たちは世界のマネばかりしていました。クリエイティブな部分が不足していたんです。日本人は体が小さいのだから、スピード、スキル、そして頭を徹底的に鍛えなくてはなりません。

二宮: 昨年まで代表を率いたジョン・カーワン前HCは“ジャパンスタイル”を確立しようとしていました。カーワン・ジャパンへの評価は?
ジョーンズ: 日本にとっては良い部分はなかったと思っています。単刀直入に言って、彼はニュージーランドのスタイルをマネしただけです。選手のセレクション、戦術も含め、本当に日本の良さを引き出せてはいなかった。

二宮: ではジョーンズさんは、真のジャパンスタイルを築くために、どんなラグビーを志向するのですか? サントリーでテーマに掲げている“アグレッシブ&アタッキング”がベースになると?
ジョーンズ: 対戦相手によって修正は必要でしょうが、基本はそうなると思います。日本が世界で勝つためにはアタッキングラグビー、攻撃的なラグビーを目指すべきです。日本のラグビーには可能性があります。秩父宮ラグビー場での代表戦で25,000人の観客が、座っていられないくらいのラグビーをするのが夢ですね。ドキドキ、ワクワクするような試合をやれば、日本のラグビーは必ず変わります。子供たちが野球のピッチャーや、サッカーのストライカーになりたいと夢見るのと同じように、ラグビーのセンターになりたいと思ってくれるでしょう。

二宮: ジョーンズさんには3年後のイングランドW杯のみならず、7年後の日本開催も見据えたチームづくりが求められています。自身のミッションをどう捉えていますか?
ジョーンズ: 今回のヘッドコーチに与えられた役割は大きく3つあると思います。まずは代表を勝たせること、次にワールドクラスの選手を育てるためにプログラムを構築すること、そして最後にハイレベルな指導ができる日本人指導者を育てることです。
(写真:「日本には代表キャップがひとケタの選手が何人もいる。それはセレクションのミス」と手厳しい)

二宮: 日本のラグビーが世界の強豪に取り残されているひとつの要因として、大半の選手のキャリアが国内で完結している点があげられます。他の競技のように世界の荒波にもまれる経験をした選手が少ない。
ジョーンズ: そうですね。スーパーラグビーでプレーすることが夢になれば、日本のレベルは飛躍的に上がるはずです。現状、ほとんどの選手の夢は高校生なら花園ラグビー場でプレーすることで、大学生なら国立競技場でプレーすること。その先の夢がない。燃え尽きてしまうんですね。これは練習時間の長さも影響していると思います。ラグビーは4時間も練習するスポーツではない。フィジカルが求められる競技ですから、高い強度で練習すれば90分が限界です。サントリーの練習は80分以上はやりません。それでも長時間練習している大学のチームには大差で勝てます。もちろん、ハードにトレーニングするのは決して悪いことではありませんし、まじめに練習するのも日本人の良さです。でも、効率よくやらないと選手たちの集中力もラグビーへの愛も失われてしまうのではないでしょうか。

二宮: エディー・ジャパンには大いに期待しています。最後にHCになって真っ先に取り組む仕事を教えてください。
ジョーンズ: 日本ラグビーがめざす夢をつくります。そこへ向かって、どんな選手をセレクションし、どんな練習をし、どんなプレーをするのかをひとつの方向へまとめていく。代表だけでなく、トップリーグも大学も高校も一緒になって同じ夢を見られれば、きっと日本は強くなると信じています。

<現在発売中の『ビッグコミックオリジナル』(小学館、2012年2月5日号)にジョーンズ監督のインタビュー記事が掲載されています。こちらもぜひご覧ください>